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平行世界

「ミカエル?」


 ミカエルの名は聞いたことがある。

 前の世界でも、確か天使として色々な神話に登場していたはずだ。

 ルシフェルもそうだったが、まさか実在しているとは思わなかった。


「ミカエル様がそんなことを仰られるとは思えないけれど……詳しく聞かせて欲しい」


 テレポートの少女は目と鼻の先まで顔を近づけてくる。

 大人しめの少女だと思っていたが、目力は強いように感じる。


「ああ……」


 聞かれることも多そうだが、こちらにも聞きたいことはたくさんある。

 適当に別世界に飛ばされたと考えていたが、まさか元の世界にいた人間に出会えるとは、想像もしていなかった。


 しかし、それを面白くないと思うのがベレッタだ。


「ねえルーク。話が終わったのなら、早く始末して欲しいんだけど」


 俺が別の世界から来たことを黙っていたのが気に喰わなかったのか、あまり機嫌もよろしくない。


「まあ、そんな焦るなって。戦う理由もなくなりそうだしな。怪我したところも痛いし、取り敢えず休戦だ」


 アドレナリンが出ていたのか、大量の出血を伴っていたのに今さら思い出す。

 ベレッタは不満そうな顔をしているが、コルトは安堵した表情でこっちを見ている。

 そりゃあそうだ、コルトの母親だって、不安を押し殺して待っているのだから、無傷で帰れるならそれに越したことはない。

 俺だって、まあ胸に澱んでいた復讐心はいくらか解放できた。


「帰ろう。本当の相手は、まだこの先にあるんだから」


 ルシフェルの見立てでは、異世界に飛ばされた理由は魔人を滅亡させるためだと言っていた。

 ならば、この少女も同じ理由でこの世界に飛ばされたのだろう。

 俺は失礼なことを言ったから魔法を伝授してもらえなかったとの推測だが、この少女はきっと命を救われたことに対して、本心から喜んだのだろう。


 だとすれば俺は、とんだ天邪鬼なのかもしれない。




「お母様、ただいま戻りました」


 コルトが、家の扉を勢いよく開ける。

 広い屋敷にも関わらず、コルトの母親は玄関の近くにいたようで、元気そうなコルトを見てほっと安堵したような表情を見せた。


「あらあら、出発した時よりも人数が増えてるわね。……ルーク君、その怪我は大丈夫なの?」

「痛みはあるけど、まあ骨は折れてない……と思います」


 鏡を見てみると、顔面は血で赤く染まり、服の左肩の部分は破けて変色した肌が顕わになっている。


 憲兵団団長とテレポートの少女はと言えば、居心地が悪そうに端で佇んでいる。

 来る途中も、魔人の街を珍しいものでも見るように、首を左右に振りながら歩いてきた。


 そして、俺が屋敷の使用人に手当てをしてもらっている途中。


「帰ってきたのか」


 新魔王軍の編成があらかた終わったのか、カトラスが戻ってきていた。


「貴様の怪我などどうでもいいが……その二人はどういった用件でここに来たんだ?」

「相も変わらず冷たい奴だな。大体、カトラスの屋敷でもないのに。……まあ、色々とあってな」


 俺が包帯を巻き終わってもらうまでに、カトラスには先ほどあった全てのあらましを伝えた。


「ほう、貴様が別世界から渡ってきていたとはな。そんな気も、しないでもなかったが」

「本当かよ」

「伊達に長生きしているわけでもないのでな。……して、ミカエルか。懐かしい名だな。昔、殺しそびれたのが悔やまれる」


 辛辣な言葉に、天使を信仰している二人は反応したが、それを態度に表すことはなかった。


「まあミカエルが絡んでくるとなれば厄介だ。その情報は十二分に引き出さねばならんな」

「ぐっ……。これでも憲兵団団長だ。簡単に口を割ると思うか」


 女騎士じゃあるまいし、そんな『くっ殺せ』みたいな台詞を聞いても面白くない。


「……まあ、天使だなんだの情報はその憲兵団団長から拷問でもして引き出せばいいとして、俺はこの子と会話がしたかったんだよ」


 カトラスと憲兵団団長は呆れたようにこちらを見返し、ベレッタとコルトは恨めしそうにこちらを睨んでいる。

 そして当のテレポートの少女は、縮こまりながらこちらに近づいてきた。


「は、話っていうのは……?」

「いや、別に他愛もないんだけどさ。全く無関係の世界に飛ばされたから、ホームシックってわけでもないんだけど、色々と元の世界の話で語りたいと言うか。取りあえず、名前は何て言うの?」


 正直な話、隠していたわけではないにしろ、世界を移動してきたことを明るみにしていなかったのは事実だ。急に明かすとなると、同じ立場の人間がいるのは心強い。


「私はユキ、です。私も、あなたといろいろ話がしたかったの。……でも、全く無関係というわけでは、ないですよ?」

「……?」

「この世界と、元いた世界。全く別の世界ではなくて、いわゆるパラレルワールド、というやつです」

「パラレル、ワールド?」


 隣にいたベレッタとコルトは意味も分からずポカンとしている。


 俺は勿論言葉は知っている。パラレルワールド、平行世界。そいつはいったい……。

 俺が思案を巡らせていると、ちょっと拷問してくると別室にいったカトラスが鬼の形相でこちらに戻ってきた。

 口を割るのが早すぎだろう、と思ったが、憲兵団団長の体に異変はなく、ただ漏らしてもいい情報だと思って喋ったのだろう。

 だが、カトラスは焦りに焦っていた。


「そこの女。ルークが罪に問われていたという、貴族暗殺の件だが、殺された貴族の名前は何だ?」

「殺された貴族ですか? 貴族にしては珍しく、魔人と共生を唱えていた方でした。確か名前は、アルバート・カトウという……」

 

 カトラスの表情はさらに曇る。


「……。ルークは冤罪だと言っていたが、そいつは本当に死んだのか?」

「ええ。あまり大きな権力は持っていませんでしたが、ちゃんと葬式も開かれて……」


 カトラスは信じられぬと言った表情で大きく見開かれている。

 だが、信じられぬのはこちらの方も同様だ。


「カトラス、どういうこと?」


 ベレッタが質問すると、歯噛みしていたカトラスの口がゆっくりと開かれる。


「アルバート・カトウは、私の兄だ。以前、少し話したこともあるが……」


 その言葉を聞き、部屋の中にいた全員が驚いたように声を上げた。

 ……ただ、俺だけは別の意味で。


「その、カトラス。カトウって、この世界にしては、珍しい名前じゃないのか?」

「そうだ。カトウとは元々、私の父上の名前だ。遠い国よりやって来た、な」


 嫌な予感がした。

 ……パラレルワールド。そして、カトウ。加藤。


 そうだ、元の世界では珍しい苗字じゃない。

 だが、これは偶然か?


 元いた世界での俺の苗字も、加藤だったが。


次回は6/20あたりに更新します。

魔人誕生秘話も別作品として同じくらいに投稿します。

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