表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

もう一人の異世界旅行者

 その雷は、相手集団の全てを飲み込んだ。


 相手集団も魔法によってガードはしていたようだが、それでも威力を打ち消すことは出来なかった。

 鼓膜を破きかねない轟音と、目を焼くほどの雷光と共に、雷は人間たちを蹂躙していく。


 残ったのは、無数の人間の残骸だ。

 俺の頭を踏み躙り、あらぬ疑いで魔界へととばした片眼鏡は、俺の目の前で横たわっており、ピクリとも動かない。


 人を殺したのは初めてだ。

 もちろん、殺す気で雷を撃ったし、実際に死ぬまでは死んでくれたらありがたいとも思っていたし、世界のためだとさえ思っていた。


 それでも、嫌な気分にはなる。


「死んでまで迷惑を掛けるとは、本当に嫌な野郎だったな。まあ、思ったよりも魔界は気に入ってるから、これで許してやるが」


 俺は人間たちに近づいていく。

 100人近く居たが、この片眼鏡以外にも命を失った奴はいるだろう。

 警告はしたが、もちろん上司の命令に背けなかったという奴もいたはずだ。


「俺が悪いんじゃない。神の天罰だからな、文句はあの世で神様に言ってくれ」


 俺が電気を纏った刀で斬り飛ばした、十字架のネックレスを拾い上げる。

 だが、それは根元からぽっきりと折れていた。

 それに電気を流し込もうとも、もはや雷は落ちてこない。

 先ほどまで覆っていた、分厚い積乱雲がほぼ霧散したとはいえ、まだ雲はそれなりに残っている。

 ということは、この十字架の魔法の効果は、すでにこと切れたのだろう。

 ならば、もはやこのネックレスは必要ない。


 俺がゴミを投げ捨てるように、ネックレスを放った瞬間だった。

 人間の山から、もぞもぞと動くものがある。


「ふざ……けるな……」


 それは、憲兵団総団長の変わり果てた姿だった。

 もはや、立ち上がるのでさえ精一杯で、先程までの威厳は見る影もない。


「貴様は、ここで死なねばならんのだ。天使様がそう仰られた! 貴様は世界に災厄をもたらすと!」

「……嘘」


 それは、総団長の後ろから聞こえた。


「な……んだと」


 怪我の影響ではなく、総団長は膝を着いた。

 後ろから現れたのは、唯一警告で後ろに下がった、テレポートの術者である少女だった。


「なぜだ……!」


 総団長は必死の形相で睨んでいたが、少女は怯むことはない。


「彼は私と同じで、異世界の住人なの。なら、天使様の力でここに来たはず」

「馬鹿な。天使様は、そんなことは一言も……」

「そんなわけない」


 ここで俺は初めて、少女から「異世界」という単語を聞いた。


 居たのだ。

 もしかしたら、俺の居た世界とはまた違う世界からかもしれない。

 それでも、世界を渡ってきた人間が。


 しかし、少女と総団長の話は噛み合わない。

 というのも、俺が別世界から渡ってきたことはどちらも知らなかったようだが、少女は俺の台詞か何かで気が付いたようだ。

 だが、俺がこの世界に移ってきたのは紛れもない、天使の影響だ。なのに天使が俺を殺せと命ずるのは、話の筋が捻じ曲がっている。

 しかし、確かに総団長が嘘を吐いているとも思えない。

 少女は埒が明かないと見るや、俺に質問を投げかけてきた。


「あなた、別の世界から来たのでしょ?」


 少女の口調こそ柔らかかったが、それでも逃げられぬような圧力も感じる。

 しかし俺が答える前に反応したのは、ベレッタだった。


「別の世界って、どういうこと、ルーク」


 別に隠しているわけじゃあないが、それでも、不安だったのだろうか。

 天使に連れてこられたという事実を、魔人のベレッタ達に話すのは。

 どこかで、疎外感が出てくるようになるのではないかと。


「……まあ、色々あってな。望んだわけでもねえけど、俺は死にそうなところを天使に助けられて、違う世界から移ってきた。……それで終われば天使に感謝もするけれどな」


 結局、俺は天使から殺されそうになっている。

 話がどうにも矛盾している。


「どうして話さなかったのよ。そんな、大事なこと」

「俺が逆の立場だったら信じないだろうし。それに、多少の秘密は人を神秘的、魅力的にするからな。いいだろ、ちょっとくらい」

「……そう」


 精一杯の強がりのつもりだったが、ベレッタも、そしてコルトも、どこか悲しげな表情を浮かべている。

しかし、その心中を考える暇もなく、テレポートの少女から質問が投げかけられた。


「それは、嘘じゃないよね」

「嘘だった方が嬉しいがな」


 それから、矢継ぎ早に質問が繰り出された。

 それは俺が居た世界の歴史についてだった。関ヶ原の戦いで勝ったのは、明治維新の維新三傑は、二次大戦の日本の同盟国は、相対性理論の発案者は、等々……。


「……本当、なんだ。天使様が嘘を吐くとも思えないけど……」

「あんたも、別世界から来たのか」

「……そうよ」

「じゃあ一つ聞きたいんだが、なんで俺が日本人だと分かった。顔で判別できるのは、精々アジア人ってことくらいだろ」

「……日本語を話してたから。魔法や魔力で異言語を理解することはできるけど、この世界にない単語が出てきたから、外したの。魔法を後天的に得た私は、異言語理解能力を意図的に外すことができる。それでも、日本語だったから、日本人だな、と思って」

「それが出来るなら、そんな質問を重ねなくてもいいだろうに……」

「いや、それは……」


 しかし、逆に魔法や魔力を使えない人間は言葉を理解できないことになる。ということは、コルトの母親も……。

 ちらっとコルトを見るが、しかし話についていけない様子で、首を傾げていた。

 まあ、知らんのだろうな。

 テレポート少女の言葉を遮ったのは、憲兵団総団長だった。


「馬鹿な。では、天使様が嘘を吐いたということか。そんなことが有り得るわけが……」

「あなたを信じるなら、ね。最後の質問、あなたは、どうやってこの世界に来た?」

「どうやってって、天使に連れてこられたんだろ。そん時は天使だなんて知らなかったけど」

「その方の特徴は?」

「特徴ねえ。まあ女だったな、髪の長い。見た感じおっちょこちょいな雰囲気だった。あと、そうだな。確か、泣きぼくろがあったような……」


 がくん、と。何故か憲兵団総団長は地に両手を着いた。

 テレポートの少女も団長の反応を見て悟ったのだろう。

 歯を喰いしばり、呆然としている。


「なんだ、変なこと言ったか?」

「……そうね。間違いない、それは、私をこの世界に送り込んで下さった天使様であり……」

「貴様を殺す様にと仰っていた、ミカエル様だ」


 ミカエル。

 それは、天使の名だ。


 俺は何故だか、言いようのない不安に覆われた。

次回6/10頃更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ