天罰
「私も参戦するわ」
俺が怪我をしたのを見かねて、ベレッタが加勢してくる。
だが、ベレッタは相手の集団に向けて爆発を起こしたものの、それでも無傷だった。
「弱ったわね。あれ程となると、本気でやらないと打ち崩せないわよ」
天下一魔王杯の最後に見せた、ベレッタの本気の爆発。
しかしあれは、予備動作が大きすぎる。
「二人とも、危ないですわ!」
再び飛んできた岩を遮るように、コルトは氷壁を展開させる。
しかし直撃は避けられたものの、氷壁は一瞬で崩壊した。
「いらつくわね」
遂にベレッタが、本気を見せる。
膨張させた火球を圧縮し、それを敵集団へ解き放つ。
しかし。
「遅いな。そんなもの、わざわざ受けてやる必要もない!」
きのこ雲からさらに後方、敵集団は移動していた。
煙が上昇気流により晴れた後、ハゲ片眼鏡の勝ち誇ったような顔が顕わになる。
ムカつく顔だ。俺を、人間界から魔界へ追いやった時と同じ表情をしている。
しかしそれでも、強敵であることに間違いはない。
「……ベレッタ、コルト。一瞬耳を貸せ」
「……なによ、いい案でもあるの?」
案はある。
ただ、それが実現可能か。実現したとして倒せるかは不確かではある。
「相手の魔法は強力だが、詠唱にも時間はかかる。だから出来るだけ、能力を使いながら時間を稼いでほしい。そうすれば……」
「……分かりましたわ」
博打であることを明かして、案を言った。
ベレッタとコルトは頷く。
「フルスロットルでいきますわ!」
コルトが氷壁を作り出す。形はどうでもいい。敵集団の念動力で崩されようと関係ない。
「私も本気でやるわ」
ベレッタが爆発を何度も起こす。
相手の視界を奪い、かつ詠唱の時間を妨げるように、コルトとベレッタは魔力を使い続けた。
「ふはははは! だから無駄だと言っているだろう!」
目一杯の魔力を行使しようとも、相手の集団に直接は届かない。
ただ、コルトによって冷やされた大気が、ベレッタの爆発による熱によって、大きな上昇気流を発生させているだけ。
「総団長、そろそろ終わりにしてくれたまえ」
片眼鏡のハゲがそう言うと、憲兵団の服を着た男が一歩前に出た。
「任せてもらおう。……トリオットが瀕死で戻ってきたからどれほど強いのかと期待してみれば、案外そうでもなかったようだな」
憲兵団で、総団長。
こいつが俺の逮捕状を発行したという奴か。
会話のイントネーションからひも解くに、こいつと片眼鏡のハゲはどうやら同格らしい。そして、この100人程度の集団のリーダー格もこの2人だ。
「集団の盾に隠れていた奴が偉そうだな」
「何とでも吠えるが良い。雲行きも怪しくなってきた、早めに終わらせたいところだな」
「そうだね。……そう言えば、俺が造ってやった刀はどうだ? 切れ味は悪くなかっただろう?」
空には暗い影が覆い、ゴロゴロと遠雷が響いている。
もう少し、もう少しだ。時間を稼げれば、山場を一つ越えられる。
「馬鹿な。犯罪者の造った剣を握るなど、あり得る訳がないだろう。まあ、低俗な前衛隊には丁度良い武器かもしれんが」
王国軍には大きく分けて二つ軍隊があった。
国の中を守る憲兵団と、国の外で戦う前衛隊。
どちらかといえば、憲兵団の方がエリートだ。口調から、卑下していることが分かる。
「じゃあ、俺が造った刀を使ったのは、貴族を殺した時だけか?」
煽ってやった瞬間だけ、総団長は顔に難色を示した。
「よく考えればおかしいよな。前衛であるはずの魔界に、前衛隊ではなく憲兵団が出しゃばってくるのは」
俺がそう言うと、総団長は片眼鏡のハゲに目くばせをした。
片眼鏡は頷き、口を開く。
「貴様が死ぬのは天の意思なのだ。前衛隊は愚鈍な輩だからな、こうして私が直々に参ったのだ」
「天の意思だと?」
そりゃあ、いつぞやの天使の話か?
あれは、サイが言っていた話だ。
俺がこの世界にいてはならない存在だと、そんな噂が流れている、と。
「……それは啓示だ。貴様の存在が災厄になるという、な。調べてみれば、戸籍も怪しかったというではないか。魔界でくたばったかと思えば、しぶとく生き残りおって。本当に、蛆虫の様だ」
「数が多いだけで、蛆虫はすぐ死ぬだろうが。ま、何となく言いたいことは分かったよ。ふふ、天使ねえ。あんなのが言うことを信じるなんて、本当にめでたい奴だな」
前にサイが、ファンタジーだ、と評したのは別世界云々ではなく、予知能力のような意味合いでの事だったのだろう。
どうやら、こいつらは俺が別世界から来たことを知らないらしい。
「貴様の口から天使様の名を出すなど、おこがましい。とにかく、貴様にはここで死んで地獄に落としてやる。他の魔人共々な」
地獄があるとすればこの世だと、誰か偉い人が言っていた。
そうだろうと、この世界で何度も思った。
それでももがくのは、楽しいこともあるから、だけじゃない。
復讐心が、俺には残っているからだ。それも、色濃く。
「この前来たやつもそうだったけど、お前、自分は死なないと思ってるよな」
「はあ?」
片眼鏡のハゲは、当たり前だろう、と呆れたように返してくる。
そりゃあ、体がぼろぼろの俺が言っても説得力はないかもしれんが。
でも、そういう意味じゃない。
こいつらは、自分で自分の事を正義だと思い込んで、本気で神や天使の加護を受けていると信じきっている。だから魔人なんかに負けるなんて、欠片ほども思ってない。
「神のご加護なんて、大したもんじゃないと言いたいのさ。なあ、神の与える罰を、その加護で受け止められると思うか?」
「一体何を……」
「地震、雷、火事、親父ってな。俺の生まれた国じゃあ、雷は自然災害の中でも二番目に恐れられるほどで、まあいわば神の罰なんて言われてた時代もあったんだが。それでも、避雷針だのなんだのって、知恵で対処する術を身に付けてた。神の加護とやらの魔法で、その知恵を上回れるか、試してみようって話だ」
「なにをわけわからんことを……」
決して、相いれることはないであろう片眼鏡は憎たらしい表情を崩さない。
そうでなくては困る。
「あ、そーだ。このハゲが嫌いな人は遠くに行ってた方が良いよ。死ぬかもしれないから」
俺がそう言うと、集団に少し動揺が見られたが、憲兵団団長が睨みを利かせたせいか、動く気配は無かった。
ただ一人の、少女を除いては。
「おい、貴様、なぜ離れていく」
片眼鏡がドスの利いた声で恫喝したが、その少女は怯える様子を見せるどころか、むしろ睨み返していた。
その少女は、テレポートの術者であり、何度か会ったことのある少女。
会話は、一言もしたことはないが。
「……私は、騙されたの?」
その少女の言葉は、俺にまでは届かなかったが、集団に心の乱れが見えた。
この好機を逃す手はない。
「なあ、覚えてるか? お前が俺にくれたプレゼントを」
「なに?」
急いで振り返った片眼鏡に、俺はネックレスの十字架を見せつける。
「仇を仇で返してやるのは、至極真っ当なことだよな? 返すぜ、この呪いの装備」
俺は全魔力を電気に変えて刀に注ぎ込み、ネックレスを刀で吹き飛ばした。
そして、まばゆい光と共に綺麗な放物線を描き、相手の集団の真ん中へ落ちて行く。
みんなが叫んでいた。
無礼だとか、罰当たりだとか。
そんな思考は、神を信じてるやつだけで共有していればいい。
神なんて、どうしようもない奴だろうに。
天罰はネックレスに、すなわち相手集団に降り注いでいった。
今まで見たこともない、巨大な雷へと姿を変えて。
忙しいため、少し間が空きます。5月中には次回更新します。




