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新旧交代

 新たなる魔王の誕生に、街は夜通し騒ぎ続けた。

 夜は更け、さらに朝日が昇って、ようやく街は就寝する。


 酒をしこたま飲んだはずなのに、俺は早起きした。といってもギリギリ午前中だったが。

 宿の窓を開けると、街は二日酔いにうなされているように、一切の活気がない。

 外出している者など滅多にいなかったが、宿に近づいてくるのが一人。


「あれは……」


 旧魔王マグヌス。


 来訪と同時にカトラスも起床したが、ベレッタとコルトは俺が叩き起こす羽目になった。


「何で俺が叩かれなきゃならんのだ」

「いきなりベッドにのしかかってくるからでしょう?」

「わざとじゃねえよ、二日酔いのせいだ」

「……くーzzz」


 コルトは俺の背で眠っている。

 昨日の今日でいきなり呼び出しとは、一体何の用だろうか。

 

 マグヌスさんは神妙な顔つきで宿に入ってきた。


「カトラス様がいらっしゃるから、儂の方から引き継ぐことは特にないと思っていたのですが……」

「なにか、あったのか」


 言い淀んだマグヌスさんに、カトラスは詰め寄っていく。

 そして、マグヌスさんは重い口を開いた。


「双龍島に、人間が入り込んでいるとの噂がありました」


 その一言に、俺以外の全員に緊張感が走る。

 またしても、俺だけが置いてきぼりだ。


「双龍島って、何だ?」

「……魔界と人間界を移動する際、海のルートは海流のせいで辿り着けないことは知っているな?」

「ああ」


 カトラスは事深刻そうな顔で俺に説明する。


「魔界から海を南東に300㎞ほど行くと、南北に二つの島がある。連邦国からすれば、東側からこの二つの島の間を抜ければ、魔界に辿り着くことができるのだ」

「そう、なのか。じゃあなんで今まで……」

「その名の通り、双龍島は竜の巣窟だったのだ。船で通り抜けようものなら、たちまち沈没させられる。誰も手出しできない立ち入り禁止区域、だったはずなのだが……」


 カトラスはそこまで説明して、マグヌスさんの方に視線をやった。


「儂も全容を把握しているわけではないのです。ですが、情報の信憑性は高い。まさかとは思うのですが……」


 マグヌスさんはカトラスに意見を求める眼差しを向けた。


「……天使か」


 マグヌスさんは小さく頷いた。


 考えてみればおかしな話ではある。

 天使はまだしも、俺が人間界にいたころは竜どころか魔人の存在すら知らなかった。

 箝口令が敷かれているとしても、人の口に戸は立てられぬものだ。一年もいれば、噂くらい聞いていてもおかしくない。


「……いるのよ。人を無意識レベルで操作する、心を踏み躙る様なクズが。連邦国の皇帝にはね」


 ベレッタは、口にしただけでも嫌気が差したのか、非常に苦い顔をする。


「しかしそれが本当なら、放っておく訳にはいかんな。どうするんだ、マグヌス」

「簡単な話です。次の魔王は決まった。なら、儂が行くしかありませんよ」


 そう言ったマグヌスさんの眼には、確かに火が灯っているように感じた。


「私にもいかせて下さい」


 勝気なベレッタは帯同を申し出た。

 しかし、マグヌスは首を横に振る。


「それはならん。なぜこのタイミングで人間が双龍島を攻略しに来たか、儂には一つ思い当たる節がある。勇者アマネ、サイから聞いた。ルーク、お主も分かるな?」


 いきなり話を振られて困ったが、俺にも確かに思い当たる節はある。

 ……まさか。


「長距離、テレポート……」

「そうじゃ。儂は長いこと魔王をやってきたが、敵味方問わずテレポートの力を持った奴は聞いたことがない。それを、いきなり国を超えるレベルでやられるとは思わなんだ。……天使、そして長距離テレポート。この二つのピースを連邦国が手に入れたと仮定すれば、魔界の戦力を双龍島に結集させるのはまずい。分かってくれるな?」

「……はい」


 ベレッタは不満気ながらも頷いた。


「これはアマネから聞いた話だが、長距離テレポートと言っても、誰でも出来る訳ではなく、一グループの魔法使いしかできんらしい。そして場所も二点、誤差はあるが人間界と魔界のある一点ずつにしか送ることができん、との話だ。ベレッタの能力が在れば大丈夫であろう」


 だがカトラスは、それでも脅威だ、と溜め息を吐いた。


「それにマグヌス。相手が天使となると……」

「分かっております、カトラス様。あの七英雄とさえ互角に戦った戦闘力、舐めている訳ではありませぬ。ですがこれも、儂の魔王時代のツケ。自分の尻くらいは自分で拭きます」


 マグヌスさんは自嘲気味に笑みを浮かべた。


「魔王軍は正式に、儂からベレッタへ引き渡す。カトラス様、後はよろしくお願いします」

「……分かった」


 そして用事は済んだと、マグヌスさんは帰っていった。

 見送る俺は、ただ黙っていることしかできなかった。話しが、思った以上の方向に転んでいる。


「……天使」


 カトラスは重い表情で呟いた。その言葉には、どこか憎悪が篭っている。


「カトラスは、天使と戦ったことがあったのか?」

「ああ。七英雄と言うが、その七人の全員が私の兄弟だ。その戦いで兄弟のうち二人は命を落とした。……少なくとも、天使は今のルシフェルよりは戦闘力がある」


 確実に仕留めるため、とは言え四人がかりで何とか倒したルシフェルを上回る戦闘力を有したとなると、厄介な相手に違いない。


「大丈夫なのか?」

「あのマグヌスが、自分でやると言ったのだ。止める野暮な真似はしない。だが……コルト」

「なんですの?」

「アルト氏も、一緒に行くことになるかもしれんな」

「お父様が? ……でも、仕方、ありませんわね」


 アルトさんは旧魔王軍幹部だ。

 確かに仕方ない事なのかもしれない。


 だが、コルトの唇は震えていた。

 それを見取ったのか、カトラスは俺たちを元いた街、すなわちアルトさんが統括する街に戻るよう促した。


「新魔王軍の編成は私が請け負う。長距離テレポートの件もあります、魔王様は一刻も早くあの街に戻っていただきたい。もちろん、コルトとルークも」


 だがコルトはカトラスの言葉が耳に届いていないのか、俯いたまま黙っている。


「早く準備して、出発するわよ」


 ベレッタがコルトの腕を引っ張って自室へ戻ろうとする。


「ほらルークも」


 急ぐ必要はあるのだが、俺も俺で一つ確かめなければならないことがある。


「……いや、俺はちょっと用事がある。後から追いかけるから、先に行っててくれ」

「なに馬鹿な事を……」


 ベレッタは、コルトだけでなく俺の腕まで引っ張るつもりなのか、腕を組んでくる。


「……ルシフェルを誘う」


 それが俺の中で出た結論だった。


 天下一魔王杯決勝戦で新魔王の座席を争った、元天使にしてベレッタの唯一の対抗馬。

 あの戦力を放っておくのはもったいない。

 それに元天使であるなら、様々な情報を持っているはずだ。


「本気? 私は嫌よ、あんなの」

「いいよ。俺が面倒見るから」

「その自信が何処からくるか分からないけど。それならいいわ。いいけど、早くしてよね」

「ああ」


 もちろん、仲間に引き入れるだけが目的ではない。

 

 確かめなければならない。

 俺がこの世界に飛んできた、理由について。


次回4/30までに更新

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