宴会
俺たちは、天下一魔王杯に優勝し、街へと戻ってきた。
知り合い、といっても3人しかいないが、一緒に喜んでくれたし、見知らぬ人からも祝福された。
しかし。
「おかしく、ないか」
「んー? なにがー?」
街はどんちゃん騒ぎ。
本日ばかりは飲酒の年齢制限が引き下げられる。どこもかしこもお祭りモードである。
俺と酒を酌み交わしているのは鍛冶屋のリンカ。
この世界に来て、出会った中で一番まともな女の子がリンカであると、俺はそう感じている。
だからこそ、リンカの意見を聞きたかった。
「なんでカトラスはあんな女の子に群がられて、黄色い声が飛び交ってるの。なんで俺にはそれがないの」
「えー。欲しいの? 黄色い声援」
「……欲しい」
酔っているから、というのもあるが。男であるサイが相手であれば、素面でも同様の愚痴をこぼしていただろう。
なんであいつだけ若い女に囲まれているんだ?
600歳のおじいちゃんのくせに。
「今言ってもお世辞だと思われちゃうかもだけどさー。ボクはとってもカッコいいと思ったよ、ルークのこと!」
「……」
「な、なんで泣いてるのさー」
「お世辞だとしても、凄い嬉しいなって……」
「ええー?」
酒は飲んでも飲んでもなくならない。
グラスが乾けば、名前も知らない誰かが勝手に酒を継ぎ足してくれる。
ベレッタもコルトも同様で、顔が赤くなって目がとろんとしている。
俺も大分酔っているのかもしれない。
「でもカトラス様は七英雄の一人だからねー。ま、ボクたちが生まれるずっと前の話だけど」
「七英雄?」
聞いたことのない単語だ。
「そっか、ルークは人間界から来たんだもんねー。昔はねー、魔力も魔法も、存在しなかったんだってさー。それで、先に魔人が誕生して、後に魔法が生まれたの。魔法という力を手に入れた連邦国は、魔界に攻め込んで来たんだけど、それをカトラス様含めた七人の英雄が侵攻を食い止めた、っていう話だよ!」
「あいつが、英雄ねえ」
確かカトラスは、今は全盛期の力の半分もないと言っていた。
それでも、目にも映らぬ速さなのだから、もしかしたら本当に音速に達していたのかもしれない。
「でも攻め込まれたって、どうやったんだ? 今の技術力でも難しいのに、あの山と海を攻略するのは大分難しいと思うけど」
山は凶暴な魔物が住み着いており、海は海流のせいで辿り着けない。過去に侵攻されかけたという事実は想像できない。
「昔はね、魔物なんていなかったんだよー。あのルシフェルが、その侵攻の後に、動物を魔物に変えたんだって。とても強引な手段でねー。倫理的にはアウトだけど、でもそれが障壁となって争いが起こってないんだから、結果的には感謝しなきゃかもだねー」
「ふーん……」
ルシフェルの動機は、自分を裏切った天界に復讐するためだ、と聞いた。
動物を魔物に変えたのも、全ては天界に復讐するため。
俺は俺を裏切った人間に復讐したいと考えていたけど。
天使は、半ば強引に俺をこの世界に転生させた。その理由次第では、俺もルシフェルと同じ目的を共有することになるのかもしれない。
「まあまあ、そう難しい顔しないで飲みなよー!」
「お、おう」
リンカもどうやら出来上がってきているらしい。日焼けした顔が、さらに赤く染まっている。
なんか、えろい。
辺りを見渡して見ると、コルトは机に突っ伏して眠っていた。そしてベレッタは……。
首を左右に振って探してみるが、どこにもいない。
トイレにでも行っているのかと思って探すのを諦めようとした瞬間、運の悪いことにマリーと目が合った。
「ここで会ったが100年目よ!」
「意味が分からねえよ。頭に響くからやめてくれ」
マリーはベレッタの過度なファンらしく、そのせいかベレッタの周囲を憎んでいる節がある。
俺なんて、恰好の的でしかない。
そして、マリーも心なしか顔が赤かった。
ただでさえ面倒な性格をしているのに、酒の力を借りて、輪をかけて面倒になっていたらもう、どうしようもない。
「それより、お姉さまを見なかった!?」
「知らんな。そこまで好きなら、なんでベレッタのチームに入らなかったんだ?」
俺がそう言うと、マリーは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。
そして。
「う、うわああああん!」
「え!? なんで泣いてんの!?」
マリーは大粒の涙を流す。
何か言葉を喋ろうとしているのだが、過呼吸気味になって上手く話せない。
「あー、ルークが女の子を泣かしたー!」
「待って、理由を聞いてからにして!」
前に会った時のマリーからは想像もできない結果だ。
泣き上戸か何かなのか?
「わ、私は……お姉さまと能力の系統が、似てるから効率が悪いって、仲間に、入れてもらえなくて。こんなにも、お姉さまの事を想っているのに、なのに、いきなり変な男が現れて、ぽっと出で仲間になってて。こんなの、ない」
聞き取り辛かったが、どうやら仲間に入らなかったのではなく、入れてもらえなかったという事だろう。
まあ、ルシフェル相手にマリーの能力では、サポートとしても厳しかろう。
「……ぐすっ」
俺の隣にいるリンカは、泣き顔のマリーを見た後に、何か言いたげに俺の事をジト目で睨んでくる。
「悪かったって。ほら、酒があるぞ、飲むか?」
「……飲む」
立ち上がって、まるで風呂上りに牛乳を飲み干す様に、グラスを90度傾けて酒を流し込む。
「……けふっ」
小さく咳き込んだかと思うと、マリーは勢いよく椅子に腰を落とした。
「だ、大丈夫か?」
「お姉さまを奪っていくし、私に服を脱ぐよう強要するし、あんな男……zzz」
あんな男って、俺の事だよな。隣のリンカの視線が、さらに鋭くなっていく。
「……リンカ。何をやっているの」
「お、アマネー。やっぱりいたんだねー!」
タイミングよく、というべきか。勇者のアマネが来た。
勇者のくせに、魔界に馴染み過ぎではなかろうか。
「よぉー。おめでとールーク。おかげでがっぽがっぽ、だぜ」
「どんだけ賭けたんだお前は。半分よこせ」
付き人のようなサイも一緒に居る。
なんとか、話を逸らせそうだ。
「そういや、サイとアマネはこれからどうするんだ?」
「俺は一回戻るよ。農園も気になるしな」
サイには珍しく、思考が勢いとノリではない。まあ、サイの親は厳格だからな。反動でこんなお茶らけた息子が出来たのだが。
「えー、戻っちゃうの? もっと居ようよー」
「そう言ってくれると。嬉しい。でも、私がいないと。こいつが途中で野たれ死ぬ」
「いやー悪いね。また、来るからさ」
「うーん、山には空を飛ぶ魔物もいるし仕方ないね。じゃあ、待ってるからねー!」
またしても乾杯。
あの堅物そうなアマネでさえも、嬉しそうに酒を飲んでいた。
まあこんな日くらいは、いいだろうか。
例え、非情な未来が待っていたとしても。
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