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天下一魔王杯決勝戦 前篇

『さあ皆さまお待たせいたしました! 天下一魔王杯決勝戦! これにて、次期魔王が決定いたします!』


 歓声が遠くから感じる。ここは完全に街の外。

 だが街の住人は、次期魔王の誕生を周囲と分かち合おうと、スタジアムに集まっている。

 マイクの実況だけが、情報源である。


 決勝戦のルールは至って簡単。

 戦闘不能者が脱落し、最後に残ったチームが優勝。

 シンプル故に文句のつけようがないルール。


「さて、行こうか」


 決勝戦は武器の携帯が許される。刀を腰に差して、俺は決勝戦の舞台へ立った。

 それぞれのチームが、指定された場所にいる。半径3㎞程の円がエリアである。

 本命の堕天使ルシフェルの居場所は正反対の位置。


 試合開始のゴングが、響き渡る。


「取り敢えず、目的の場所に向かうわよ」


 決勝戦の地形はすでに織り込み済みだ。


 目的地に着くまでに、ベレッタとカトラスが2チームを脱落させた。

 しかし。

 実況は、ベレッタではなくルシフェルに注目がいっていた。


『ルシフェル選手、たった一人で9チームを脱落させたー! 何という強さ、確実に前回大会よりも進化している!』


 ベレッタはその実況を聞くたびに眼つきを鋭くさせている。

 もはや、怒りを抱いているとも取れる表情だ。


 目的の場所についてから約15分。

 罠とも言える場所に待ち構えていた俺たちに、ルシフェルは天から優雅に語りかける。


「やあ、僕を待っていてくれたの?」


 呑気な挨拶に呼応するように、ベレッタは爆発を起こす。

 見当違いな場所に爆発を起こしたかと思ったら、なにやらその場所から白旗が上がっていた。

 どうやら漁夫の利を狙ったチームが潜んでいたらしい。

 自作したのだろうか、みすぼらしい白旗だが、確かに気持ちはよく伝わってくる。


「残念だね。僕としてはダークホースがいて欲しいって気持ちもあったんだけど。まあ、駒にするには丁度良いかな?」

「……」


 ベレッタは冷たい目をしたまま、顔を上げようとしない。


「ねえ、一応大会参加者の義務として、僕の魔王軍の傘下に入ってくれるんだよね?」


 ルシフェルの執拗な煽りが、重かったベレッタの腰をようやく上げさせる。


「私はもちろんその覚悟を持って臨んでいるわ。あなたと違ってね、ルシフェル」


 ……俺はそんな話、大会に参加する前は一言も聞いていなかったわけだが。

 大会参加要項には、しっかりと次期魔王軍に従事することが義務付けられている。まあ、決勝まで残ったチームはそれなりに待遇の良いポジションが確約されているのだが。


「僕から逃げたわけじゃないよ。前回はマグヌスにいらないって言われたから、入らなかっただけ」

「そうね。きっと私も、同じことを言うでしょうね」


 ベレッタが言い終わると同時に、ルシフェルのいる地点が爆発する。先ほどよりも桁違いの威力で。

 だが。


「連れないね。カトラスもいるし、僕は君の事をマグヌスと同程度には評価しているんだけど」


 爆炎から、特にダメージを負った様子の無いルシフェルが現れる。


「ところで、お仲間の3人はどこにいるのかな?」


 カトラスが言うには、ルシフェルは堕天した時にほとんどの能力を剥奪されたらしい。

 光の能力は下界で得た魔力によって精製しているとのことだが、しかし剥奪できなかったものがある。


 天使の身衣。


 衣と呼ばれはするが、実質それは天使の肌だそうだ。生半可な攻撃ではかすり傷一つつかない、生まれ持った力。


「出てこないなら、炙り出すしかないね」


 ルシフェルは、空から地面を見渡す。


「怪しいのは、あの辺の茂みかな?」


 そう言うと、ルシフェルの周りに幾つもの光球が浮かんだ。

 それが、まるでレーザーのように、無数に地へと降り注ぐ。


 声を出しそうになったコルトの口を慌てて塞ぐ。

 情報としては知っていたとはいえ、実際に受けてみるのとではわけが違う。


「……運よく外れたか、それとも盾でも持っているのか」


 ルシフェルが言う通り、俺たちは盾を持参していた。鉄でできたはずのそれには、融けた跡が残っていた。

 喰らえば、致命傷と行かずとも深手は避けられまい。


「でも、ベレッタを置いて逃げたはずもないしね」


 ルシフェルがベレッタに向けてレーザーを発射する。

 しかし、当たったはずのベレッタは、眉一つ動かさない。


「本当に、現魔王のマグヌスもそうだけど、熱に耐性があるってずるいよね。それだけで僕に不利だもの」

「熱に耐性があるのは、あなたも同じでしょう?」


 ドン! と腹に響くほどの爆発が起こる。

 それは、俺たちにとっての開戦の合図。


「やっぱりいたんだね」


 まずカトラスが飛び出す。


 盾を持ちながらでも、目に映らぬ速さでルシフェルをかく乱するカトラス。

 当然、ルシフェルは目つぶしのために全方位へ光を放つ。


 しかし、常にルシフェルに向けて盾を構えていたカトラスには、光が届かなかった。


「……チッ」


 いかに天使の身衣があろうとも、カトラスのスピードで盾ごと突っ込まれたらただでは済まないと思ったのだろう。ルシフェルも動き始める。

 カトラスは盾を構えているせいで、ルシフェルの移動を感知するのには一手遅れる。

 そのせいで、どうにも攻防が進展しない。


 ルシフェルが痺れを切らして、目つぶしとレーザーを乱発する。

 ルシフェルの見た目通り、まるで子供の様な手だが、カトラスにとってそれが一番厄介だ。


 俺はと言えば、まだ動かない。


 それが作戦だった。

 カトラスとルシフェルが闘っている最中は気配を消し、不用意に近づいてきた時に不意打ちを仕掛ける。


 しかし、それまでに20分もの時間を要した。

 カトラスは全身にまんべんなく火傷を負い、視力もままならないだろう。

 後で文句を垂れるのかもしれないが、それは追い込みが下手だったカトラスのせいだ。


「そこか」


 俺の魔力を感知したルシフェルが、レーザーを発射する。

 盾を構えていた俺には当たらない。

 そして、俺は盾を構えながらでも砂鉄をルシフェルに向けて攻撃できる。


 ルシフェルを取り囲むように、上下、左右、前から、魔力を込めた砂鉄をぶつける。

 ただ、後ろにだけは退路を残した。


 残念ながら、普通の人ならまだしも、操った砂鉄でルシフェルを傷付けることは叶わない。

 だからこそ、退路を残すことでルシフェルを誘導し、刀でぶった切るのが作戦だった。

 しかし。


「それは流石に、僕を舐めすぎだよ」


 まさか、砂鉄を貫通して逃げてくるとは思わなかった。


 ルシフェルが嫌味に笑う。

 俺は咄嗟に盾を構えようとしたが、間に合わなかった。

 ルシフェルのレーザーが俺の左腕を貫通する。


「そんな稚拙な罠に引っかかると思った? これでも、あっちのカトラスよりも長生きしてるんだよ?」


 作戦が失敗したことに対して、カトラスも動きを止めて地面に降り立った。

 対照的に、ルシフェルは勝ち誇った顔でまた空へ舞いあがる。


「そんな念動力だけで僕に歯向かおうなんて、無理に決まってるじゃん。まあ、初っ端からカトラスとベレッタ以外は戦力として期待してないけど」


 ルシフェルは嘲笑うように言う。

 だが、一つ思い違いをしているとすれば、俺の能力を念動力と認識していることだ。


 それならまだ、チャンスはある。


「僕と君とじゃ、格が違うんだよ」

 

 ルシフェルは完全に俺の事を見下している。

 確かにルシフェルの方が年上なのだろうが、見た目からして年下に馬鹿にされてるようで腹が立つ。


「それは、お前が元天使だからか?」


 ピタッと、ルシフェルの笑いが収まる。

 挑発なんてするものではない。相手を怒らしていいことは何もない。余裕と思わせた油断に漬け込む以外に、俺がルシフェルに勝つビジョンはない。

 それでも、俺の口は止まらなかった。 


「俺は一度、天使と会ったことがあるけど、確かに力の差は感じたな」

「……馬鹿にしてるの? 他の有象無象の天使と同じように見られたくないんだけど」


 あからさまに、ルシフェルは不機嫌そうな態度を見せる。

 ルシフェルを天界から追いやった、他の天使たちには憎しみを抱いている。


「馬鹿になんてしないよ。いやなに、お世話になったから恩返しがしたくてさ。元とは言えお仲間なんだろ? ……俺たちが勝ったら、お前を俺の直属の部下として可愛がってやるから、楽しみにしとけよ。ショタ堕天使のルシフェルくん」


 使い物にならない左腕。

 だが、まだやれる。


 おれは自分に言い聞かせるように、ルシフェルへ向けて性格の悪い笑顔を見せつけた。


次回 4/16までには更新予定

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