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決勝戦前日

「……嫉妬?」

「か、勘違いしないでよ。それに服を脱げって言ったことに対しては、軽蔑してるから。でもあなたが似ているのが悪いの。あの絵本のヒーローに」

「いや服を脱げっていうのは、語弊があるというか……。まあ悪かったけど」


 しかし、勘違いさせるような言葉を選んだベレッタにも非はあると思う。


「この本の事を知ってるかしら」


 ベレッタは『航海日誌』と書かれた冊子を取り出した。


「ああ、それならコルトに教えて貰ったよ。中身は知らないけれど」

「そう。これは元々文字だけだけれど、絵本にもなっているの。数は少ないけれどね」


 表紙は見せてくれたが、中身までは開こうとしない。


「で、ヒーローってのは何だ?」

「主人公よ。あなたが黒髪だったころにそっくりなの。まあ似ているのは外見だけで、中身は全くの別人だったけどね」

「そーかい。悪かったな、中身がこんなんで」

「本当よ。……でも」


 ベレッタは目線を逸らし、本を握りしめながら独り言のように呟いた。


「この本のヒロインに憧れてたけど。そして、あなたを初めて見た時はヒーローが来てくれたと思っていたけれど。私もヒロインとは全くの別人だったわ。境遇も違うし、可愛げもないし、……素直じゃないし」


 ベレッタは顔を更に背ける。声が少しだけ震えているのが分かる。


「だけどこの絵本を読んで、憧れよりも強い思いを抱いたの」

「それって……」

「憎悪よ。私は必ず、連邦国の皇族を根絶やしにする。例え、人の道を外れようとも」


 俺が魔力を得た時に、指切りしたことがあった。あの時は、馬車馬のように働かせると言われた記憶もあるが。


「そういや言ってたな、復讐するって。でも俺は、基本的に悪い奴以外には恨みを抱かない聖人だからね」

「私はルークのそういう所がす……嫌いじゃないわ」

「それはどうも。でもまあベレッタがそこまで言うのなら、手助けはするよ。話しさえ聞かせてくれたらな」

「そうね。……私が正式に魔王になったらね」


 何か吹っ切れた様子で、ベレッタが振り返った。素直な笑顔で、俺も少しそのヒーローとやらに憧れた。





 決勝を翌日に控え、俺達4人は最終調整という事で街の外れにある野原にいた。


「……ベレッタお嬢様」

「その呼び名、やっぱり違和感があるわね。まああと一日の辛抱だけど。……ええ、大丈夫よ、ルシフェルの魔力の気配は無いわ」


 せっかく二回戦では温存していた魔力だ。こんなところで能力が欺かれては、マリーに殺されかけた甲斐がない。


「では、とにかく明日はルシフェルにいかに気付かれずに近づくか、ということだが。物に魔力を込めるという技を知っているか?」

「まーな。できれば二回戦の前に教えて貰いたかったけどな」


 カトラスに悪態をついたが、何も気に病む様子を見せず、話を続ける。


「なら話は早い。貴様が以前、黒い砂を操ったことがあるだろう。あれをもう一回やってみろ」


 カトラスと立ち会った時に操って見せた砂鉄。鍛錬も経て、あの時とは比べものにならないほどの量と速さを誇る。

 砂鉄を地面から吸い上げると、大きなつむじ風を起こして見せる。


「どーだ? 言っておくけどこれで半分くらいの力だからな」


 コルトは物珍しいものを見たかのように拍手でこたえてくれたが、カトラスはとくに驚く様子もない。


「問題はここからだ。それに魔力を込めてみろ」

「はいはい、魔力をね……」


 言われて、気が付いた。

 確かにコルトが物に魔力を込めるのを見たことはあるが、やり方までは教わっていない。

 たらたらと冷や汗を掻く俺を見かねたのか、ベレッタが近づいてきた。

 とん、と俺の鳩尾に掌を当てる。


「な、なにする気?」

「変なことしはないわよ! いいから鳩尾に神経を集中させなさい」


 すると電流、とは少し違うような気もするが、痺れたような感覚が鳩尾を覆った。


「今のは?」

「魔力を打ち込んだのよ。言葉で説明するより実際にやって見せた方が良いでしょ」

「魔力を……?」


 俺は魔力を得た時を思い出す。確かにあの時も、ベレッタに魔力を打ち込まれた。だが、その後は。


「まさか、また一日中のた打ち回ることにならないだろうな」


 あれはすでに人生のトラウマ№1と言ってもいい。思い出しただけで脂汗が出てきそうだ。


「ならないわよ。他人の魔力はウイルスのようなものだけど、すでにあなたは自分の魔力、すなわち免疫を持っているのだから、一瞬魔力が使えなくなるだけよ」


 あ、それなら良かった。

 だが、何となく分かったような気もするが、分かるのと出来るのでは天と地ほどの差がある。


「ま、俺も実際にやってみた方が早いか」


 俺がベレッタの鳩尾に手を近づけた瞬間、ベレッタが俺の手を薙ぎ払う。


「なんで私の下腹部を触ろうとしてるのかしら」

「下腹部っていうなよ。ベレッタと同じことしただけなのに」

「いいから、あなたは物を相手に練習しなさい」

「はいはい」


 そこらへんに転がっている手のひらサイズの石ころを相手に、魔力を込めようとしてみる。

 だが、電気が流れるばかりで魔力そのものを込めることができない。


「仕方ありませんから、わたくしが相手をしてあげますわ」


 30分ほど試行錯誤をしていた俺に、コルトが練習相手を買って出てくれた。

 2人の掌をピタリと合わせて、コルトは優越感に浸った顔で教え始める。


「やっぱり感覚が鋭い手の方がいいですわ。ベレッタと違ってセクハラまがいの事はしませんから安心してよろしくてよ」

「……私のどこがセクハラなのよ」


 コルトはベレッタを気にも留めず、魔力を流し込んできた。先ほどと同様、掌がピリピリと痺れるが、確かにベレッタの魔力とはどこか違う、なにか個性を感じる。


「さあ、わたくしが相手になって差し上げますから、魔力を流し込んでくださいな」

「おう」


 ……が。


「痛いですわ!」

「すまん」


 魔力ではなく、電気が流れただけだった。


「……仕方ないから、私も相手になってあげるわよ」


 渋々、といった風にベレッタは俺の手を握る。


「台詞の割には、というやつですわね。手のつなぎ方も恋人つなぎですわ」

「違うわよ!」

「体が離れてると、恋人つなぎじゃなくて、取っ組み合ってるようにしか見えないけど」


 しかし、ベレッタを相手にしても電気が流れてしまう。


 そしてかれこれ3時間、2人に調節が利かない電気マッサージを施しながらも、なんとか物に魔力を込めるという技を習得した。

 そしていつの間にかいなくなっていたカトラスが戻ってくる。


「……はぁ、はぁ。カトラス、あなた、恨むわよ」

「申し訳ありません。長引きそうだったので、昼食を持って来たのですが」


 魔力を消費しきった俺には、補給源である食料はありがたい。

 しかし、午後にも魔力講習は残っていた。





「問題なのは、貴様の能力が電気だという事だ」

「それがどうかしたか?」

「理解していないな。特に貴様に限った話ではないが、能力である電気に魔力を込めることはできるのか?」

「……」


 元々、電気は魔力を原料として作るものだ。だが、魔力をそのまま繰り出すのと、電気へと改質させて繰り出すのを同時にやるのは、先ほどの比ではない難易度になる。

 試す前から、無理というイメージが出来上がってきた。


「せめて、一週間前にいってくれれば良かったのにな」

「たとえそれが出来たとしても、一週間前では戦力にならなかった貴様が悪い」

「いや、有利なルールだったとはいえ、カトラスに勝っただろうが」

「貴様なら一日で出来ると思ったんだがな」


 ……下げたと思ったら急に上げてきたな。そんな口車に乗せられるほど、簡単な男じゃない。


「私もあなたに期待してるわよ、ルーク。私にしこたま電流を流しておいて、出来ないとは言わせないわ」

「勿論ですわ。わたくし、骨折り損ほど嫌いなものはありませんの。出来たら、良いことして差し上げますわよ?」


 ・・・・・・。

 期待の目が俺に突き刺さる。

 こういうの慣れてないんだよ。女性から期待された事なんて、母親くらいからしかない。


「分かったよ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」


 手にしていたおにぎりを一口で頬り込んで、午後の講習へ取り組んだ。





 ・・・・・・結局、終わったのは日が暮れた後だった。


「もう、魔力すっからかんなんだけど。明日もう無理じゃね」

「安心しろ。この技術が身に付けられるのはいつだって魔力が底を尽く直前だ。貴様がそうなると思って、準備はしてある」

「準備?」


 宿に着いた時に分かった。とてつもなく良い匂いが立ち込めている。

 扉を開くと、そこには見知った顔がいくつも並んでいた。


「やー! 待ってたよ! ボクこう見えても、料理上手いからね」

「……私は。料理はできない……」

「アマネは不器用だからね、俺も人のこと言えないけど」


 リンカ、アマネ、サイの3人が夕食を用意して待っていた。

 そして。


「久しぶりですな、カトラス様」

「マグヌスもいたのか。これは珍しい客だ」


 現魔王・マグヌス。


「しっかし、アルトさんには敬語で話していたのに、魔王にはタメ口なんだな」

「……あの方には色々と借りがあってな。主にコルトの事で」


 なにそれ、詳しく聞きたい。コルトが見たことのない顔でそれを阻止したが。

 宿の食卓を、ぎゅうぎゅうに詰めて、賑やかな前夜祭が開かれる。


「それで、マグヌスさんはどうしてここに来られましたの?」

「美味しい料理を食べに来た、というわけではないぞ。見極めに来たのだ、ベレッタが次期魔王に相応しいかどうかをな。まあ、カトラス様が付いているから杞憂だとは思うのだが」


 俺も魔力を補給しなくてはならないが、マグヌスの食欲は留まることを知らない。それを見越した食事が用意されているが、これでは接待にしか見えない。


「……それで、私が相応しくなかったらどうなるんですか?」


 ベレッタは怒気を少量含めて言葉を放つ。

 しかし、マグヌスは笑みを絶やさなかった。


「儂の仕事が増える……いや、減る方が正しいか。まあ、これは次期魔王には関係の無い事だ。それよりせっかくの宴だ。楽しく食わんでどうする」


 そう言って、マグヌスは度数の高い酒を一気に飲み干した。

 顔を赤くして、気の緩んだ顔をする。魔力こそ高いが、その表情は居酒屋のおっさんと変わらない。


「……これが、私の望んだ魔王の実態なの……」


 明日、二日酔いにならないかが心配だ。

 だが、皆の笑顔を見ていたら、心配するのが馬鹿らしく思えてきた。

 明日の勝利を願って、酒を飲み干す。



 決勝戦の開始時刻は、明日の13時。


次回4/9更新予定

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