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天下一魔王杯2回戦

 天下一魔王杯の2回戦、俺とコルトはマリーを相手にする。


 だがマリーは、ベレッタの件で俺を逆恨みしているようだ。

 一応、降伏したり動かなくなった相手を殺すのは厳禁のルールだが、もしそうなってもお構いなしに攻撃してきそうで怖い。


「なあコルト。俺は何だか、お腹が痛くなってきたみたいだ」

「奇遇ですわね。わたくしも胃がキリキリと痛んでますの。早くベッドで眠りたいですわ」

「じゃあ、早めに終わらせるに限るな」


 戦闘開始の合図とともに、マリーは火炎を放って来た。

 能力自体は昨日の時点で知っていたが、いざ目の前でやられると驚く。


「心配ありませんわ」


 範囲は広いが、竜の火炎と比べれば温度は低いらしい。コルトが展開した氷の壁で難なく受け止める。


「マリーの力量、知ってたのか?」

「……一応、同級生なので知ってましたわ。まあ、大体わたくしと同じくらいですわね」


 ルシフェルの仮想敵であるが、果たして作戦は上手くいくのか。


「じゃあ、いきますわよ」


 コルトは掛け声とともに、地面を凍らせ、大きな氷塊をマリーへ目掛けて滑らせた。

 マリーは炎で溶かすことは不可能と思ったのか、宙へ逃げる。


「完璧ですわね。後は任せましたわ、ルーク」


 俺は氷塊の側面に隠れ、マリーの背後へと回り込む。

 ルシフェルを倒すためには、何としても気付かれずに接近する必要がある。

 ……のだが。


「甘いのよ!」


 もう少しで届きそうという時に、死角にいたはずの俺に向かって、マリーから火炎が放たれる。


「あっぶな!」


 のけぞるようにギリギリで躱す。

 つい、リング外の地面に足を着きそうになった。


 俺はすごすごとコルトの元へ戻る。


「……どうして、ばれたんだろう」

「空を飛べば魔力でばれますわよ。ベレッタみたいに距離は分からずとも、方向位ならわたくしでも分かりますもの」


 せっかくお膳立てをしましたのに、とコルトは頬を膨らませる。


「だけど、空を飛ばなきゃ足音でばれるだろ。それにマリーがもっと上空に逃げてたらどうすりゃいいんだ」 

「魔力の消費が激しいですけれど、方法は一つありますわ。例えばわたくしでしたら、氷に魔力を込めるんですの」

「……どういうことだ?」

「ダミーを造る、ということですわ。やって見せた方が早いですわね」


 コルトはそう言うと、手のひらサイズの氷塊を何個か造り出す。


「これに魔力を込め、こうやって投げれば……」


 目をつぶれば、確かに魔力の出所が幾つにも分散され、本物がどれだか分からなくなる。が、魔力が消滅したのか、10秒程度で放り投げられた氷からは何も感じ取れなくなった。


「魔力を込めるのは、別に自らの能力と関係の無い物質でも可能ですわ。その分魔力の消費量は増えますけれど。まあ、電気の能力を制限されている今のルークには、少し厳しい方法ですわね」

「……ったく、何がリハーサルだ。体よく嫌な相手を俺とコルトに押し付けただけじゃねえか」


 俺がベレッタとカトラスの愚痴を漏らした矢先に、魔力の増大を感知して咄嗟に避けた。


「あんたら、私を放ってよく世間話なんて出来るわね!」


 なにやら馬鹿にされたと勘違いしているのか、マリーは余計に怒っている。

 しかし今は相手の機嫌を気にしている時ではない。


「なるほどね。魔力感知にはこうやって相手の攻撃を予測するっていう応用もあるわけだ」

「相当な大技ならともかく、今のように小さな機微を見分けるには、相当神経を張っていないと駄目ですわ。戦闘中だけとは言え、ずっとそんなんだと神経削られて参ってしまいますの」

「……ま、ニートにはちとキツイな」

「そこまで言うなら、この試合ずっとやってみればいいですわ」


 どうやらコルトまでご機嫌斜めになってしまったらしい。自業自得と言われればそれまでだが。


 そんな折に、上空からベレッタの声が聞こえた。


「まだやってたの?」


 ベレッタとカトラスは、マリー以外の相手を全員リング外に落としたようだ。俺とコルトを急かすような目で見つめる。


「お姉さま見てて下さい! 私が今、こいつらよりも強いという事を証明してみせますから!」

「え、ええ……」


 仲間がやられたはずのマリーはそれでも、ベレッタを見て嬉々としている。

 ベレッタでさえも、どういう表情をしていいか分からない、という様子である。

 しかし、目線が俺たちに向けられた瞬間、冷徹な目に戻った。


「いいかしら。私にマリーの相手をさせるような事態になったら、ただじゃ済まさないわよ」


 ベレッタの口調には違和感があった。

 それは、カトラスが言っていた『ベレッタはマリーから迷惑を被っている』という事についてだ。

 確かに嫌がっている素振りも見えるが、それだけじゃない様にも感じる。


「……なあコルト」

「なんですの?」

「もしかしてベレッタは、『お姉さま』なんて呼ばれて慕われて、満更でもないんじゃないのか?」

「十分考えられる仮説ですわね。なんだかそう思ったらムカついてきましたわ」


 少し本気になってマリーの方を見る。

 もはや年下の女の子だからと手加減するほどやわな相手ではない。

 

「今さら本気になっても遅いのよ!」


 マリーは直径が2mにもなろうかという火球を掌にのせている。


「これで死になさい!」


 その大きな火球が、俺とコルトに向けて放たれた。

 コルトの氷結でも間に合わない規模。だが、その分速度がない。


 俺とコルトは、二手に分かれて避けた。

 火球に魔力が込められているせいか、マリーの位置が掴めない。俺かコルトのどちらかが狙われていると気付いた時には遅かった。


 急に、マリーが俺の目の前に現れる。


「かかったわね!」

「まずっ……」


 マリーの手には火の槍が握られている。

 あれで俺を串刺しにして丸焦げにするつもりだ。


 その瞬間。

 マリーの後方約50メートル、大爆発が起こった。


「ベレッタか……?」


 響き渡る轟音に一切気を逸らさないマリーも大概だ。だが、俺にはベレッタの意図が伝わった。

 俺から見て、今爆発が起こった方角はちょうどルシフェルのいる方角だ。爆発による煙で、完全に死角となっている。

 ルシフェルに能力がばれる心配がなければ、出し惜しみする必要はない。


「残念だがここで終わりにしようか、マリー」

「っ!?」


 炎よりも、雷の方が速い。


 とは言っても、マリーの方が先に行動へ移していただけあって、結果は相打ちとなった。

 俺の左肩は炎により熱傷を負い、マリーは電流によって失神する。


 相打ちではあるが、勝負は俺の勝ちだ。


「っと」


 倒れ込みそうになったマリーの身体をかろうじて受け止める。

 その衝撃で微かに意識を取り戻したのか、朦朧になりながらも俺の服をギュッと握りしめる。


「ん……。お姉、さまぁ……」

「……俺はお姉さまじゃないっての」


 ベレッタが空中から降りてきて、俺の横に来ると、心配した様子で俺とマリーを見た。

 俺の火傷も魔人になる前であればそれなりの大怪我だが、明後日の決勝には治る程度の怪我だ。マリーも、数十分経てば何事もなかったように意識を戻すだろう。

 ベレッタはそれを見て安堵したかと思うと、次は悪態を吐いてきた。


「まったく、私が死角を作ったから良いものの……」

「はいはい。とにかく、ベレッタにこいつのこと任すから」

「な、なんでよ?」

「お姉さま、なんだろ?」


 俺は強引にマリーをベレッタに押しつける。ああ、なんて気持ちの良さそうな寝顔なんだろうか。頼むからこの会場から俺が出るまでは目を覚まさないでくれよ、マリー。


 ベレッタは反論を返そうとしてきたが、審判団による決着の合図の笛と、実況がそれを阻んだ。


『これにて決着です! 意識を失ったマリー選手をベレッタ選手が介抱しています! 先程も紹介しましたが、この二人は姉妹のように仲の良い間柄! 素晴らしい友情、素晴らしい情愛! 私にも目に熱いものが込み上げてきます!』


 ……その情報源、絶対マリーだろとは思ったが、突っ込むほど野暮ではない。


『ゲストの皆さん、どう思いますか?』


『いやー、ベレッタもああ見えて、優しいところあるからねー。年下には特にねー』


『酒が入ったとき以外は冷徹な性格だと思っていた。撤回しなければならないな』


『ふっ。若さとはいいものだな。儂もあれくらいの年齢の頃には……』


 ベレッタの親友であるリンカ、勇者アマネ、現魔王マグヌス。

 一言余計な気もするが、皆それぞれベレッタを称賛している。

 それに対し、観客席はスポーツマンシップに感動したのか、スタンディングオベーションが起こる。


「え、あ、いやこれは……」


 ベレッタはどうしていいのか分からずに、マリーを抱きかかえながらオロオロとしている。


 はっ、良い気味だ。


「あー。わたくし、もう疲れましたわ」

「……私も疲れた」


 コルトはいつも通りだが、カトラスもベレッタを見捨ててくるとは、珍しいこともあるものだ。


「いいのか、ベレッタが困ってるけど」

「マリーという女が絡んだ場合、私はいない方が良いのだ。釘が打ちつけられた藁人形を幾度となく投げつけられ、私の家の庭で何食わぬ顔をして焼き芋を焼き続ける。それ以外にもエトセトラ。あの女の精神攻撃はもはや兵器だ」

「……お前も大変だな」


二回戦も特に波乱はなく、二日目が幕を閉じた。




「ん、ここは……」


 マリーは、大会運営の医務室で目を覚ます。


「やっと起きたわね」

「お、お姉さま?」


 憧れのベレッタを前にして、マリーは飛び起きた。


「わ、私は一体……?」

「残念だけど、マリーの負けよ」

「私としたことが、あんな奴に負けるなんて……。お姉さまは、あのルークという男とどういう関係なんですか!?」

「か、関係!?」

「その挙動不審……ルークという男、許すまじ!」


 マリーは何やら考え込んだかと思うと、ハッと顔を上げる。


「分かった! あの男を私に惚れさせればいい……」

「な、何を言っているの、マリー?」

「善は急げね。待ってて下さいお姉さま、きっと正気に戻して見せますから!」


 マリーはそういうと、止める間もないほど足早に医務室から出て行った。


 ベレッタは一人取り残され、ぽかーんと口を開けている。

 状況を理解した後、顔を引き攣らせて苦笑いを浮かべた。


「……私ももう、疲れたわ」


 一日休みを入れて、天下一魔王杯の決勝戦は、明後日。


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