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作戦会議

「どうだった、他の一回戦は?」

「ルシフェル以外は特筆してるチームはなかったな」


 宿に戻って、夕食をとる。一応、他のチームと同じ宿にならない様に配慮は為されているようだ。


「まあそうだろうな。私の事前調査でも、ルシフェル以外に魔王様へ肉薄した実力を持つ魔人が出場することは聞き及んでいない」

「……なんだカトラス、ストーカーでもしてたのか」

「明日は貴様を先鋒にしようか。もちろん秘匿のため電気の能力は使用禁止だ」


 なんだそれ、死ねって言ってるのか。


「明日の二回戦なんてどうでもいいわ。問題は明後日の決勝戦よ」


 ベレッタは一切の出番がなかったためか、不完全燃焼な顔をしている。


 俺も次に当たる相手は注視していたが、どうやら余力を持って勝利していたので実力が計り辛かった。まあ、ベレッタやカトラスが後れを取るとは考えにくい。カトラスに変な制限をかけられなければ、俺一人でも相手チームと互角くらいだろう。

 だから、問題はベレッタの言う通り決勝戦だ。


「決勝戦は14チームでのサバイバルでしたわよね。作戦はやはり他のチームが潰しあうまで潜伏する、ということでよろしくて?」


 急に作戦立案をしてきたコルトは、自分本位の作戦ではあったが、確かにサバイバルの定石でもある。

 しかしカトラスはどうにも気乗りしないらしい。


「どこの馬の骨とも分からぬ輩に漁夫の利を取られては敵わぬ、ルシフェル以外は早めに殲滅すべきだ。しかし、ルシフェルの位置だけは常に把握しとかなくてはならない」

「じゃあ位置把握の役はカトラスだな」


 ああ、とカトラスは肯定しかけたが、途端に不機嫌な顔に戻る。


「まさか貴様、ストーカーとかいう理由で私を選んだわけではあるまいな」

「自覚はあるんだな」


 俺が蔑んだ目で見返すと、不意にカトラスがフォークを逆手で持ち出したので、慌てて弁明する。


「いやいや、能力的にもカトラスが適任だろ? 移動速度が速い奴が相手の位置を把握すんのが常識だろうが」

「確かにその通りだが、後付けのような気がして不愉快だ」


 いや、まあ、その通りなんだけどさ。


 しかし、思わぬ方向から代案が出てきた。


「別にそんなものに人員を割く必要はないわ。奴の魔力は特徴的だから、方向だけじゃなくて距離も、視力に頼らなくても把握できるもの」


 そういや、ベレッタは魔力や魔法感知がずば抜けていたんだったな。

 ルシフェルの魔力が特徴的というのは、元が天使だったことに起因しているのだろうか。


「しかし、仮に俺達とルシフェルが残ったとして、その後の作戦はどうするんだ? 今日の感じだと、全方位から責めても意味なさそうな感じだったけど」

「私にも構想はあるが、まずは彼我の戦力を伝えておこう、ルシフェルの能力は光を操ることにあるが、単なる目つぶしに使うだけではない」


 俺は一回戦の事を思い出す。あれだけでも十分驚異的な能力だが、それ以外にもあるのだろうか。


「奴は光を絞ることができる、つまり面ではなく線で放射することができるのだが、すると光に高温の熱が帯びるのだ」


 俺は小学校の理科の実験を思い出す。

 太陽の光を虫眼鏡に通し、焦点を合わせると紙が焦げるというやつだ。

 その実験にはまった俺は、友達の消しゴムを燃やして学級裁判にかけられたトラウマを持っている。


「嫌な能力だな」

「そこまで怖い顔をする必要ありますの……?」


 コルトを怯えさせてしまったようだが、仕方が無い。

 あれは悪いのは俺ではなく、良い匂いのする消しゴムだと、これ見よがしに自慢してきた友達が悪い。


「問題の威力だが、予備動作がなくとも深い火傷を負わせることが可能であるし、魔力を溜めれば鉄板を溶融して貫通させるほどまで上がる」


 ……鉄の融点が何℃だと思ってんだ。


「で、対策ってのは何なんだ」

「私たちの攻撃範囲は奴より狭い。しかし近づけば視力を潰される。しかも皮膚が常人のそれではなく、尋常では無い程に硬い。だが魔王様なら……」

「現魔王を見たからその呼び名はややこしいんだけど」

「……ベレッタお嬢様なら、最悪見えなくとも奴のいるところは大体掴めるし、攻撃も通る」


 カトラスも苦い顔をしていたが、ベレッタもあまり良い顔をしない。

 あまり好まない呼び名なのだろうか。


「では早速、説明しよう」


 カトラスはルシフェル対策を詳細に説明していく。あのコルトでさえもが真剣な眼差しでそれを聞いた。


「それ、俺が大分損な役回りになるんじゃないのか」

「……不満か?」

「いや、それでいこう」


 誰かが損な役回りをしなければいけないのだから、新入りがそうなるのは仕方ない。

 俺も大人になったもんだ。


「予選は武器使用不可だが、まあ明日リハーサルでもしてみようか」

「……明日の二回戦で?」

「それなら、明日は少し楽しめそうね」


 ベレッタが俺に向けてにやりと笑った。


「意地の悪い顔だな」

「まあね。怪我だけはしないようにね、ルーク」


 本当に心配してるのか疑わしい表情で、ベレッタは席を立った。

 




 そして二回戦、俺は特設リングの上に立っている。


 観客席からは大きな声援が届いてくる。ほとんどはベレッタに向けてかけられているものだが、俺も一応はベレッタのチーム。

 生まれてこの方、ここまで応援されたのは初めてだ。なんだかとても、いい気分。


「あなた、手筈は分かってるでしょうね?」

「分かるよ。分かるけど、相手が女の子なのはちょっとなあ」

「あら。女風呂を覗く輩から、そんな気遣いを聞けるとは思わなかったわ」

「……あれは俺のせいじゃない」

「言っておくけど、マリーを私に近づけたら許さないわよ」


 ベレッタは釘を刺す様に言う。

 マリーとは相手チームのリーダー格だが、そこまで危険視する必要はあるのだろうか。


 俺とコルトがマリーを担当し、ベレッタとカトラスがその他と戦う、という作戦だ。

 マリーは俺よりも年下の女の子だろうか、赤いロングの髪に、あどけなさを残しながらも強気な眼つきが印象的だ。


 カトラスからは電気の能力は使うなと言われているが、さすがに年下の女の子相手に殴る蹴るは出来ない。


「まあスタンガンみたいに使うのは悪くないだろう」


 要は決勝で戦うルシフェルに能力を知られなければいいわけだ。


『では、天下一魔王杯2回戦、決勝に駒を進めるのは一体どちらのチームなのか!』


 今日も解説は元気いっぱいだ。ゲストも昨日と変わらないらしい。


「よろしく」


 試合が始まる前に、相手と握手をするルールのがマナーだが、相手のリーダー格であるマリーは手を差し出そうとしなかった。


「ん?」


 まさか、俺の手に触りたくないとかいう理由じゃないだろうな。

 そう思い、訝しげにマリーの顔を見ると。


「ルーク……、あんたを倒して、私はお姉様を取り戻してみせるんだから!」


 今にも殴り掛かりそうな勢いでマリーは詰め寄ってくるが、相手チームの仲間に止められていた。

 頭にたくさんの疑問符を浮かべながらも、審判の合図で開始地点まで戻る。


「……ベレッタ、お前アレのことをなぜ黙っていた」

「言う必要あるかしら?」

「あるだろ。あの態度を説明しろ」

「……カトラス、説明して」


 ベレッタは逃げるように俺から離れていく。

 代わりにカトラスが俺の目の前に来た。


「あのマリーという女は、簡単に言えばベレッタお嬢様のファンだ。いつも付き纏ってきてな、面倒なことこの上ない」

「なんだ、ストーカー仲間か。仲良くしろよカトラス」

「あんな女と一緒にするな。私がベレッタお嬢様と一緒に居るというだけで、何度闇討ちされそうになったことか……」


 まるでトラウマを掘り返すかのような顔つきになったカトラス。600年生きた男をここまで追い込むとは、マリーという女、ただ者ではない。


「女であるわたくしでさえも、何度も悪戯されましたの。おかげで家から出れなくなってしまいましたわ」

「……あ、そう」


 悪戯されたのは本当かもしれないが、引きこもりになったのを他人のせいにするなよ。


 だが、ベレッタとカトラスはなるべくあのマリーという女に関わりたくないようだ。

 ……ん? 待てよ。


「決勝戦だけじゃなくて、2回戦も大分損な役じゃないか、俺は」


 ……もはや誰も言葉を返してくれない。

 相手のマリーは、まるで呪いでもかけているかのように俺の事を睨みつけている。



 そして無情にも、2回戦の開始のベルが鳴った。


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