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航海日誌

 結局、コルトの屋敷に戻っても、その噂話については誰にも言わないことを決めた。

 言ったところで信じてもらえないだろうし、信じられたとしても対処の仕様がない。

 しょうがないので、いつも通りに過ごすこととした。


「ルーク、ベレッタと二人で、どこにいって来たんですの? 凄く酒臭いですわよ」

「ちょっとな」


 ベレッタを絨毯の上に降ろすが、一向に起きる気配が無い。


「リンカという方から聞きましたわよ。魔法を使う人間が近くに来たから、様子を見に行くと。まさかこんな姿で帰ってくるとは思いませんでしたわ」

「俺も思わなかったけどなあ」

「ずるいですわ。わたくしもお酒が飲みたいですの。昼から飲む酒は別格ですわ」

「コルトはまだ酒を飲んでいい年齢じゃないだろ」

「法律じゃあわたくしを縛れませんの」


 俺が強く言えることじゃないんだけど、コルトは駄目な方に向かう習性でもあるのか。


「とにかく俺は風呂に入るから、覗くなよ?」

「なんですの? わたくしに覗いて欲しいんですの? もしよろしければ一緒に入ってもよろしいんですのよ」

「うっ」


 からかったつもりが、相手の方が一枚上手だったか。

 いや、ここで引くわけにはいかない。

 酒も入っているためか、俺はいつにも増して強気だ。


「ほう、聞いたぞ今の言葉。じゃあ一緒に入って貰おうか」


 俺はコルトの方を向きながら歩き始めたが、すぐに何かに引っかかって転んでしまった。


「ダサいですわね。ルークも酔っているなら私が介抱して差し上げますわよ」

「そんなんいるか。大体、足がもつれたんじゃなくて……」


 俺は自分の足を見ると、そこには俺の足首を掴む腕があった。

 そしてその腕を辿っていくと、這いつくばり、乱れた黒髪の女が。


「うわああああああ! ……ってベレッタか、脅かしやがって。なんだ、水が欲しいのか? おいコルト、水持ってきてくれ」

「仕方ありませんわね」


 コルトが持って来た水を、半ば意識の無いベレッタの口に流し込む。すると、少しずつ喉を動かして水分を得ている様子が伺えた。

 ……なんだこの、母性本能をくすぐるような仕草は。


「ルークって、意外な性癖を持っているんですのね」

「何が性癖だ! どっからそんな言葉を覚えてくるわけ」

「お母様ですわ」

「……最悪だ」


 ベレッタは水を補給すると、またぐったりと寝てしまった。


「てか今日、カトラスいないよな?」

「いませんわ。今日は魔王杯のエントリーと抽選をしに違う街へお出かけ中ですの。帰ってくるのは明日とのことですわ」

「それなら良かった」


 こんな姿を見られたら、俺はカトラスに殺されるかもしれない。


 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、ベレッタをこのまま放っておくわけにもいかない。


「おい、ベレッタの部屋まで運ぶから手伝ってくれ」

「えー、嫌ですわ。ベレッタは重いかガフッ」


 意識の無いはずのベレッタの右足が、正確にコルトの鳩尾を貫く。


「こ、このアバズレ女、絶対起きてますわ……」


 いや、起きてたらたぶん、今の一言でこの部屋が大惨事になってたぞ。

 まあコルトは身長も小さいのでベレッタを重いと感じるのも無理はない。

 ただ俺も、酔った身で家具を壊さず一人でベレッタを部屋まで送り届ける自信はなかったので、コルトに手伝ってもらわざるを得ない。


「おいっちに、おいっちに」


 妙な掛け声で、なんとかベレッタの部屋まで辿り着き、ベッドに乗せる。


「ふいー、ですわ。これを機に、ベレッタにはダイエットをゴフッ」


 また蹴飛ばされているコルトの横には、テーブルが設置されている。

 そしてその上に、一冊の本が置かれているのを見つけた。


「この本って、確か庭園っぽいとこでベレッタが読んでた……」


 本の表紙には、達筆な文字で『航海日誌』と書かれている。


「その本は、魔力を取得したら必ず読まされる本ですわ。内容は子供向けじゃありませんけれど。その昔、原本を魔力で念写して大量生産したらしいですわ。そんな魔力、見たこともありませんけれど」

「ふーん、魔力って奥が深いんだな。でもこの文字、どっかで見たような……」


 どこだろうか。とても、懐かしみのある文字だ。

 大分昔のような気がする。転生するよりも前、元いた世界。

 確か、小学校の頃に……。


 ガチャリ。

 俺が記憶の片隅を必死に掘り返そうとしていたが、急に部屋に入ってきたコルトの母親に中断されてしまった。


「あらあら、こんなところにいたの? 駄目よ、ルークくん。寝ている乙女の部屋を勝手に詮索しちゃ」

「ああ、すいません」


 と言っても、来て3日やそこらの仮住まいなので、簡素な物しかないが。


「今日は懐石料理大判振る舞いしちゃうわ。熱燗が良く合うのよねえ」


 うっとりとしながら話す母親に、コルトが詰め寄っていく。


「わたくしも! わたくしもその熱燗とやらが飲みたいですわ!」

「んー……。まあ今日はパパもいないし、特別よ。パパには内緒ね」

「わーい! お母様大好きですわ!」

「あらあら、まあまあ」


 果たしていいのだろうか。この親子は、これで。


「そう言えば、ルークくんとベレッタちゃんはお外で飲んできたの? ソフトドリンクもあるけど……」

「俺は冷酒で!」


 まあ、いっか。


 俺は航海日誌の事を忘れて、お酒を堪能した。

次回3/7更新予定

作中作である『航海日誌』については、いつか書きたいと思っています。

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