不穏な言葉
勇者と魔王候補が一堂に会すと、さすがに雰囲気が異様である。
「……じゃあ取り敢えず、乾杯!」
「かんぱーい!」
音頭を取ったはいいが、女性陣のノリが悪い。合コンじゃあるまいし。
「おいベレッタ、もう少し盛り上がれよ。せっかくのうまい酒がもったいないぞ?」
「ルークあなた、もう酔ってるわけ? 勇者を前にしてテンションが上がるわけないでしょう」
会話を振る人選を間違えたか。
しかたない、取り敢えず酒が回るまではサイと話すだけにしよう。
「そういやサイ、俺の鍛冶屋はどうなってんの?」
異世界では一年ほどしか過ごしていないとはいえ、人生の半分以上の経験値をそこで積んだと言っても過言ではない、俺にとっては懐かしみのある場所だ。
冤罪とは言えせめて、あの鍛冶屋ごとテレポートしてくれればと、今でも思っている。
「いや、それが、あの、なんていうかさ」
俺は気軽な話題を振ったつもりだったが、なぜかサイは言い淀んだ。
「……どう、なったんだ?」
「俺に、怒らないでよ。俗にいう、風の店に……」
俗、風、だと?
「どうしてそうなったあああああ!」
「あああ、だから怒らないでって言ったのに!」
これが怒らずに居られるか。っていうか、俺が冤罪で飛ばされてから1週間ちょいだぞ。
なんだ、俺は土地を明け渡して、そんな店を建てるために冤罪を吹っかけられたとでも言うのか。
「殺す。絶対に殺してやる」
「いや死ぬ、俺が死ぬから首絞めるの止めて!」
はあ、はあ。
さすがに、熱くなりすぎたな。
まさかベレッタに制止されるとは。
「悪かったな。サイには何の不手際もないもんな。まさか、その店に通ってるわけでもないし」
「え? あー、いや、そうだね?」
サイの素っ頓狂な声の後、しばし沈黙が訪れる。そしてサイの顔に注目が集まった。
俺は、再び刀を抜く。
「なあサイ、戒名はどんなのがいい?」
「ちょっと待って本当に! そういう店って裏の情報が集まりやすいじゃん? スタッフも中央街の店からの派遣っていう話だったしさ。それで、ルークの冤罪について情報を集めてたんだって」
ふーん。そういうことにしといてやろうか。
「それで、俺が魔界に飛ばされたってことを知ったわけだ」
「そーそー。テレポートの術者にルークのことを心配しているって人が居てな。同じ場所に運んでもらったんだよ」
「おお」
俺は、テレポート術者の女の子の顔を思い出す。
心配されることに対して悪い気はしない。
「まあでも着いた瞬間、こんな見晴らしのいい場所は危険だってアマネが拠点作るために移動したから、少し出遅れたけどな」
サイがそう言うと、勇者と名乗った女の子は少し俯きかけになった。
「さっきは早とちりをして済まない。まさか冤罪で飛ばされたとは。私はアマネ。サイとは親戚で、今回は利害の一致もあり共に行動している」
上目づかいでこちらの様子を窺う金髪の少女は、最初に抱いた印象とは真逆の感想を抱く。
「へー。こんな可愛い子が、サイの親戚ねえ」
「な! そ、それは、褒め言葉として受け取っておく……」
アマネは目が見えなくなるまで、さらに顔を俯かせた。
「アマネにとっては褒め言葉だけど、俺のことは若干ディスってるよね」
「まあ、そういうことだな」
取り留めもない話をアマネとサイとで繰り広げる。
酒も進み、なんとか勇者であるアマネとも打ち解けられたみたいで安堵した。
しかし、酒を注ごうとしたビンが一気に軽くなったこと対し、俺は次なる不安に駆られる。
「ねー、るーく。酒がないんだけど」
「お前が飲んだんじゃないのか、ベレッタ」
「だって、話が長いんだもん」
そりゃあベレッタには特に関係の無い話だったかもしれないけどさ。
「そういえばさっき、そこの女を可愛いって言ってたけどー、ちょっと堅物すぎない?」
「ベレッタだって、最初は暴力的だっただろうが」
「……じゃあ、どうすれば良かったのよ」
知らんわ。取りあえず酔いを冷ませ。
「あー、申し訳ないんだけど、ベレッタがこうなっちゃったからお開きで良いか。アマネはそんな酒飲んでないみたいで申し訳ないんだが」
「お気遣いなく。私は元々、酒を好んで飲む方ではない」
そうはいいつつ、アマネは頬を紅潮させている。
好まないのではなく、ただ単に弱いだけなのかもしれない。
「いやー、旨い酒だった。ごっそさん」
「ああ、所有者になんか言われたら、お前が飲んだってことにしとくから」
「なにそれ、酷くない?」
「まあな。それで、サイたちはこれからどうするんだ?」
俺は泥酔したベレッタを背負いながら問うと、サイは意味ありげに笑みを浮かべた。
「こうするのさ」
サイは自分の目をなぞったかと思うと、目が赤く変色した。
「……なっ?」
「驚いた? 魔法だけどね。せっかく魔人の街があるって知れたんだから、少し探索するよ。まあ、一回拠点に戻るから一緒には行けないけど」
「なんだよ。でも、魔法使ったら人間だってばれるだろ」
「大丈夫、これは一度使えば法力は表に出ないし、これ以降魔法は使わない様に控えるからさ」
どうなってもしらねーぞ、と悪態を言いつつも、ふと思考を巡らせる。
それが可能なら、人間や魔人が逆の立場の場所に潜りこむことも可能なわけだ。
「ああ、そう言えば、こんな話も聞いたな。たぶん尾ひれが付いただけだと思うけど」
そりゃあ、変な店での噂話には余計な物も付くだろうな。
俺は呆れながらサイの話を聞いたが、それは俺の酔いを冷めさせるのに、十分足る内容だった。
「ルークはこの世界にいてはいけない人間だから……。って、いくらなんでもファンタジーが過ぎてるよな」
サイはひとつの笑い話として言ったのだろうが、俺は内心穏やかではなかった。
サイとアマネに愛想笑いで別れを告げた後、俺は呆然と後ろ姿を眺めつつ、サイの不穏な言葉を反芻していた。
サイの言う通り、俺にとってこの世界は。ファンタジーなのだから。
さすれば、俺は誰かに命を狙われているのかもしれない。
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