vs. 憲兵団 第3師団
人間が魔人の街に接近している。
それは、街単位でも一大事の案件だ。
「でもこんなところまで来るなんて、取り敢えず、アルトさんを呼んだ方が良いんじゃない?」
アルトさんは現魔王軍の幹部であり、強さで言えばベレッタさえ凌ぐのでは、という話だった。
リンカの言う通り、この街を統治していると言っても過言ではない、アルトさんにまず報告するのが筋ではあるのだが。
「残念なことに、アルトさんは今日この街にいないのよね。……結構強い法力だけれど、まあ私が行けば何とかなるでしょう。ルークも、付いてきなさい」
相手が強い、という事をベレッタは感じ取っている。
法力だけではない。人間界から魔界まで、海のルートは潮の流れの関係でほぼ無理だし、陸のルートはただでさえ険しい山に屈強な魔物が蔓延っている。
それを超えてきた、というだけでただ者ではない。
「……分かった」
だが、相手が人間という事は俺の復讐相手である可能性もある。
それを考えただけで、俺の心は浮ついていた。鏡を見ればそれこそ、悪魔のような顔をしているに違いない。
忘れかけていた復讐心が、霞むことなく蘇ってくる。
「ベレッタ、ルーク君……」
心配してくれるリンカに後ろ髪を引かれながらも、俺とベレッタは法力の発信地へと向かう。
方角で言えば、俺たちが暮らしていた洞穴に近い。街から出て、荒野まで10分ほど空を翔けて行く。
「……あれ、かしら」
ベレッタは首を傾げているが、前方にいる10人ほどの集団は確かに魔人ではなく人間だった。
しかも、だ。
「……ふふ、ははは」
「な、何よいきなり。その笑い方、少しだけ、だけど、気持ち悪いわよ」
少しだけ、とはベレッタのくせに気を遣ってくれてるのだろうか? そんなの結構。
これが、笑わずに居られるか。
前方にいる集団の半分は、確かに俺の国にいた憲兵団の制服だ。
しかも、先頭にいるのは俺を裁判所まで引っ張っていったリーダー格の男に違いない。
なるほど少し、合点がいった。
憲兵団の後ろについているのは、テレポートの魔法を使う術者だ。
俺がテレポートに成功したことから、魔界の調査のためか、少人数を送り込んできたという所だろう。
馬鹿め、こんな身を隠すところが何もない地に行き着くとは。
「ベレッタ、手出し無用だ」
「え、ええ。まあいいけど」
俺は空から地面に降り立ち、憲兵団の真正面に立った。
当然、憲兵団は俺の存在に気付く。そしてありがたいことに、どうやら俺の名前まで憶えていてくれたようだ。
「おや、ルーク、だったかな。ロザリオの反応がなくなったから死んだと思っていたよ。再会を祝うべきなんだろうが……まさか魔人に身を落としているとはな」
もはや隠す必要もなく、憎たらしさは以前にも増している。
しかし、そうでなくては面白味がない。
「まあ、お前たちのお蔭でな。それで、お前の名前は何だっけ?」
「ふん、自己紹介がまだだったな。私は憲兵団第3師団団長、トリオットだ。憲兵団の名の下に、魔人は駆除しなくてはな」
駆除、の言葉にベレッタが反応したが、来るなと制す。
そうか、第3師団団長か。
確か俺の逮捕状を請求したのは総団長だったか? 本命にはまだ遠いな。
まあ、そいつ以外にも復讐すべき相手はいるのだろうが。
「最期に言い残すことはないか?」
トリオットとかいう男が剣を抜く。
「最期ねえ。あの世で後悔しろ、かな」
「戯言を!」
速い。
トリオットは一気に間合いを詰め、俺は何とか相手の剣を防いだ。
「私の魔法は身体強化。初撃をよく止めたと褒めてやるが、私の力はまだ本気ではないぞ」
そうか。本気じゃないか。だとすれば、思ったより強い奴なのだろう。
力も強いし、刀で堪えるのがやっとだ。
だが、だからこそ馬鹿だというのだ。
「俺は刀で戦うなんて一言も言ってねえんだけどな。魔人を舐めすぎだ、最初から本気で来なかったこと、あの世で後悔しろよ」
つばぜり合いの形になればそれで終わりだ。
俺の身体から刀へ、そしてトリオットの身体へ、高圧大電流を流し込む。
「がああッ!?」
高音の爆発音に火花が散ったかと思うと、トリオットは煙を吐いて倒れ込み、痙攣した。
意識はないだろうが、少し荒いものの呼吸をしているところを見ると、生きてはいるのだろう。
まあ、どっちに転ぼうとも構わないのだが。
「で、そこの4人はどうするんだ」
憲兵団の若い連中はトリオットが敗れたことに対して驚きを隠せないでいる。
しかし、我に返った男の合図で、4人は矢を構えた。
そうか。俺はトリオットの部下にはそこまで恨みはなかったのだが、命を狙ってくるのであれば仕方ない。
飛んでくる矢は、磁力を帯びさせた刀に集め、叩き落とす。
そして、俺は集団の中に飛び込んだ。
ただでさえリーチの長い刀に、斬らずとも触れるだけで致命傷を与える電流。
憲兵団の団員は、次々と倒れて行く。
最後に残ったのは、俺と同じほどの年齢だろうか、一番若い団員だった。
「ま、待ってください。命だけは、命だけは助けてください」
今更何を言っているんだと思ったが、土下座までされてしまっては、刀を引っ込めるしかない。
土下座という習慣はなかったはずだが、本当に謝罪の気持ちがあれば、自然とそういう型になるのだろうか。
「分かった。まあ俺が会いたかったのはお前たちだけじゃないし。帰って上に伝えろ。次は全員で来いとな」
生き残ったやつは、俺の言葉に対して大袈裟に首を縦に振る。
ふとそいつの後ろを見ると、テレポートの術者がどうしていいかわからずに、オドオドしながらこちらを見ている。
「……持って帰れ」
焦げた憲兵団たちを若い男に託すと、魔法陣の上に乗って詠唱が始まった。
その時、冤罪をかけられた際に俺へ謝罪のような会釈をしてくれた術者と目があった。
俺に対して、何か伝えたかったのか、口を開いた瞬間。
テレポートにより、憲兵団と術者の姿は消え去った。
「……ルーク」
ベレッタはいつの間にか地上へ降りてきていた。
「なんだよ、トドメを刺すべきだったか?」
「いいわよ、別にあんなのは。それより、私が感知した強い法力は今の男たちのものじゃないわ」
ベレッタは口調に不穏な空気を纏って言った。
つまりそれは、トリオットをはるかに凌ぐ強い人間が近くにいるということだろうか。
俺がベレッタの嫌な予感を汲み取った直後だった。
前方に、剣を携えた人間の女の子が現れたのは。
次回 2月25日(土)更新予定




