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親と本名

「おお、コルトではないか。それにベレッタ様とカトラス様まで……はて、そちらの男性はどちら様でしょうか」


 俺たちに向かって、歓迎するように近づいてくる年配の男性が一人。どことなく高貴な匂いを発している。


「ああ、ちょっと面白いものを見つけたので拾って来ただけですよ」


 俺を物扱いするな。

 そんな人を人とも思わないカトラスと対照的に、年配の男性の物腰は柔らかかった。


「それはそれは。娘のコルトが多大な迷惑を掛けていることでしょう、面目ありません。私は名をアルトと言います」


 まさかコルトの親だったとは。あんまり似ていない。


「いえ、そんなことは。ええと、俺はルークって言います」


 迷惑を被っていないわけではないのだが、さすがに実の親の前では口が裂けても言えまい。


「ベレッタ様とカトラス様も。娘が申し訳ありません」


 しかし、何かを聞く前からアルトさんは謝り始めている。


「本当にそうなんですよ。さっきもムカつくから頭を爆ぜてやったところなんです」

「はっはっは。それは傑作ですな、ベレッタ様」


 そして、カトラス、ベレッタ、そしてアルトさんの3人は、コルトの愚痴で盛り上がっている。 

 なんだろう、そういう流れなのだろうか。流れには身を任せた方が良いのだろうか。


 もちろんのこと、コルトの表情は次第に曇っていく。


「だから嫌だったんですわ……」


 ぼそりと、コルトが呟いた言葉が耳に届いたのか、アルトさんはコルトの両肩を支えながら励ました。


「いいかコルト。お前は腐ったみかんなんだ。そのことをよく自覚して、他人様に迷惑をなるべくかけぬよう生きていくんだぞ」

「父親の台詞ではありませんわ」


 ……うん、励ましではないな。どちらかというと罵倒だな。


「まあまあアルトさん、腐ったみかんも、好きで腐ったわけではありませんでしょうし」

「そうね。私も腐ったみかんを見て、ああはならない様にしようと、反面教師になっていますし」

「……お二人にそこまで言っていただくなんて、私は感激で涙が出てきそうです」


 なんだ、どこに感動する話があったんだ。

 流石にコルトが可哀相になってくる。

 コルトだって、やる時は頼りになる。竜との戦いのときは、まさにそうだった。


 半べそをかいているコルトを見て、俺はそんな回想にふけっていた。


「ねぇルーク。ルークは、そんなこと、思いませんわよね……?」

「もちろん。腐ったみかんなんて、絶対言わないよ。いっぱい良いところがあると思うよ、腐ったニートにも」


 コルトは鳩が豆鉄砲をくらったような表情を一瞬見せたかと思うと。


「わああああん!」


 何故か泣きながら走り去ってしまった。


「おーい、今日はごちそうを用意するから、早めに帰ってこいよー!」


 そうか、急に帰ってきた娘にごちそうを用意してくれるなんて、娘思いのいい父親だなあ。コルトも、早く帰ってくればいいのに。


「さて、では私の屋敷に案内しますね」


 ぞろぞろと、アルトさんの後に続く。


「いやー、ラッキーですね魔王様」

「そうね。コルトがいてくれて助かったわね」


 ……ふと、冷静になってみると。

 自分も乗っといて何だが、やっぱりこいつら悪魔だ。


 

「おーい、コルトいるかー?」


 悪魔になりきれなかった俺は、強引にベレッタに荷物を託し、コルトを探した。

 広くない街のお蔭で、10分ほどでコルトの返事が聞こえる。


「……ここですわ」


 コルトは小川の傍に膝を抱えて座り、時々小さな石を小川に投げ入れていた。


「もしかして、怒ってる?」

「……怒ってませんわ。悲しいだけですわ」


 俺はコルトの隣に腰掛け、同じように石を投げ入れる。


「ルークは。ルークの父親と母親は、どんな方なんですの?」

「……両親ねえ。コルトは?」

「お父様は見ての通りですわ。過干渉のくせに貶してくるよく分からん人ですの。あれでも現魔王様の幹部という話ですけれど、信憑性がありませんわね。お母様はまあ、空気ですわ。お父様の収入でぬくぬくと暮らしていますの」


 なんだか、コルトのルーツが分かった気がする。

 しかし、魔王の幹部とは大分凄いのではないか? 

 ……でも良く考えたら、ベレッタが魔王になれば俺も幹部になれるのか?

 俄然やる気が出てきたなこれは。


「ルークはどうなんですの?」


 ……あまり聞かれたくなかった話だった。別に他の世界の住人だったからと言ってもはやどうこうあるわけではないのだが。


「俺の両親はな」


 俺が異世界に渡る前。つまり死ぬ前は、丁度反抗期だったような気もする。

 この世界で一人暮らしを始めてみて、親のありがたみは感じていた。

 思えば、親不孝な子供だろうか。

 親より先に、子供が世界から消えるという事は。


「普通の親だったと思うな。俺に変な名前を付けたこと以外は」

「……ルークって、そこまで変な名前だとは思いませんけれど」

「まあルークは、本名じゃないからな」


 苗字は普通だったが、名前は大分珍しかった。ルークと語感が似ていると言えば分かって貰えるだろう。そのことで多々弄られた経験もあるのだが。

 ただ、異世界に渡って似たような名前に改名したところを鑑みると、そこまで嫌がっていたわけではないのかもしれない。


「本名は何て言うんですの?」


 川を眺めていた俺の視界に、ひょこっと悪戯好きなコルトの顔が覗かせる。

 いつのまにか、機嫌が直ったみたいだ。


「秘密。……いや、もう忘れたよ」

「わたくし、他人の嘘には敏感ですのよ?」

「それこそ信憑性がねえな」


 立ち上がってズボンについた土埃を払い、視線を下から上へ向ける。

 オレンジ色だった夕焼けは、いつの間にか紫色に変わり、夜を告げる。


「帰ろうか」

「ですわね。わたくし、お腹がすきましたわ」

「現金なやつ。……ま、今夜はご馳走らしいからな」



 自分の本名がある運命に収束していたことを、ルークが知るのは、まだ先の話。



次回2/14(火)更新予定

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