爆発はただの照れ隠し
街へ行く。と言うが、俺はそもそもここに来るまで、魔人がいることすら知らなかった。街があるとして、それはどれほどの生活水準なんだろうか。
洞穴での生活の様子では前にいた街よりは低いようにも思えるが、一時的な住まいとして見れば、そこまで変わらないのかもしれない。
「お、重いですわ。誰か、手伝ってくれませんの……?」
寝坊した罰として荷物持ちをやらされているコルトが、早々に根をあげた。
このペースでは何日かかるか分からないので、仕方なく荷物を配分する。
街に行けば剣は売っているだろうか。
痛いとか言われるから言葉には出さないが、雷刃とかすごいカッコいいと思う。
一行はペースを上げて、夕暮れ前には街へと辿り着く。
「疲れ、ましたわ……」
グロッキーになったコルトは、文字通り地べたに倒れ込む。
「ここが魔人の街、か……」
そこは予想とはかけ離れた光景だった。
夕焼けに染まる街並みに、子供たちが駆け回り、どこからか夕飯の良い匂いが立ち込めている。
すれ違う魔人たちはみな笑顔で挨拶を交わし、どことなく時間が経つのが遅く感じる。
それは、どこからどうみても、のどかな田舎の風景だった。
ふとベレッタの顔を見ると、どこか懐かしんでいる表情をしていた。
そんなベレッタに、小さな女の子が駆け寄ってくる。
「ベレッタお姉ちゃんだ! いつ帰ってきたの?」
……ベレッタ、お姉ちゃん。
コルトと一緒に吹き出しそうになるのを我慢する。
「え? ええ……久しぶりね……」
恥ずかしいが小さな子供を無下には出来ない。そんな板挟みの状況にベレッタはかなり困惑している。
「ねーねー、一緒にあそぼ!」
無邪気な子供って怖い。カトラスも、どうすることも出来ずに半ば諦観している。
助け舟を出すかのように、お母さんだろうか、「ごはんよー」という声が聞こえ、子供は元気に振り返った。
「はーい! ……じゃあまたね、ベレッタお姉ちゃん!」
子供は名残惜しげに手を振りながら走り去っていく。
ベレッタは子供に小さく手を振るが、姿が見えなくなっても別れた場所を見つめ続け、顔をこちらに向けることはない。
しかしよく見ると、耳が真っ赤になっていることが分かる。
そういえば初めて会った時や、怪我して帰った俺に慌てて包帯を巻いた時など、確かに可愛い一面もあったことを思い出す。
千載一遇のチャンスだと言わんばかりに、俺はベレッタの肩に手を掛けた。
「ねぇねぇベレッタお姉ちゃん。俺とも一緒に遊ぼうよ」
子供の真似をしたはずだが、18にもなった男が同じ台詞を言うとどこか犯罪臭がした。
しかしそんな風に茶化す余裕もないのか、ベレッタは肩を小刻みに震わせている。
「ねぇねぇ」
少し調子に乗り過ぎたのか、ベレッタの肩の震えが止まったかと思うと、頭上で爆発音がした。
なんだろう、頭皮がヒリヒリと痛む。
民家の窓ガラスに映った自分の姿を見ると、いつかのアフロヘアーが蘇っていた。
「あのー、俺の頭で遊ばないで欲しいんだけど」
「おかしいわね、遊んで欲しいと言ったのはあなたのはずなんだけど」
俺と、とは言ったが、俺で、とは言っていない。意味合いが大分違う。
「ベレッタ姉たま、わたくし、あの高級コーヒー豆が欲しいですわ」
ボンッ。
今度はノータイムだった。
窓ガラスに間抜けな二人の姿が映っている。
「お揃いですわね」
「女の子とお揃いでこんなにも嬉しくないのは初めてだな」
なんだ、漫才コンビでも組めばいいのか。
「それはそうとベレッタお……コホン、魔王様。今夜の宿についてなのですが」
「いい度胸ねカトラス。アフロ3兄弟のユニットでも立ち上げるつもりなのかしら」
「ただのお戯れです」
なんでカトラスにはやらないんだ。これが格差社会というやつか。
しかし、宿をどうするか、という問題は確かにあった。ベレッタの家は4人が入れるスペースはないとの話で、カトラスはそもそもこの街に持ち家はないという話だった。
どこか宿を探すべきだと思うのだが、俺がそう言うとベレッタとカトラスの目線がコルトへと向けられた。
「……わたくしの家は、嫌ですわよ」
頑として受け入れないコルトだったが、魔の手が押し寄せてくるのは、もはや予定調和である。
賑やかな茜色の街で、こちらに近づいてくる男が一人いた。
次回2/12(日)更新予定




