おうちに帰ろう
目を焼くほどの閃光に、腹に響く雷鳴と、地震が起きたかと疑うほどの衝撃。
ロザリオに向けて落ちてきた雷だが、ロザリオに当たることはなかった。
もちろん俺にも、コルトにも当たっていない。
その場で最も大きい標的、つまりは竜に直撃した。
「なにが、起きたんですの……?」
再び瞼を開けた先に広がっていたのは、目の方を疑うには十分過ぎる光景だった。
「竜が……死んでますの?」
竜の黒ずんだ皮膚に、焦げた匂い。そして、ピクリとも動かない体。
「……死んだか」
と言っても、俺も今すぐ死にそうだが。
「安心して、腰が抜けてしまいましたわ」
ぺたん、とコルトが俺の横に腰を落とした。
「勘弁してくれ、さっきの牛が戻ってきたらどうするんだ」
「心配いりませんわ。貴方がきっと、私を守ってくれますもの」
そう言って、コルトは頭を俺の肩に乗せる。
口調は冗談だったが、表情は確かに俺を信頼してくれているようだった。
「……無茶を言うな」
空には薄い雲がかかっていたはずだが、雷を落としたせいなのか、綺麗に晴れ渡っている。
俺も体の至る所に痛みが走っていたが、心だけは晴れやかだった。
人さし指でコルトの額を小突き、肩から離す。
「さて、これからどうしたもんか」
もはや魔力は底を尽きた。空を飛ぶどころか、歩くことすら危うい。
「仕方ありませんわ。部下にここまでやられたら、わたくしも頑張らざるを得ませんもの」
「いつから俺はお前の部下になったんだ」
「でもその前に......」
俺の発言を無視してコルトは立ち上がると、倒れた竜に歩み寄っていく。
何をするのかとぼんやり眺めていると……。
突然竜の目玉をえぐり出した。
絵面がえぐい。ホラー映画か何かか。
「竜の目玉は紅玉と呼ばれていますの。これを売れば、5年は遊んで暮らせるという代物ですわ」
この暗い朱色が、深みがあって情緒的でしょう、と嬉々として見せつけてくるコルト。
だが血の色なのか目玉の色なのか判別がつきにくい。そんなものを見せられても、情緒不安定にしかならないだろう。
「行動にニート根性が染みついているな」
「牛肉を持って帰れない以上、これが最善策ですわ。でも、竜の肉を持ち帰る案もありますわね。……美味しいんですの?」
「知るか。食ったことがある奴なんていねえだろ」
「では、わたくし達が食して伝説を語り継がねばなりませんわ」
……俺が元いた世界にも、もしかしたら竜が実在したのかもしれない。
コルトのような馬鹿のせいで、乱獲されて絶滅したとか。
それはそれで面白い物語だが。
「ではルーク、わたくしの背中に掴まって下さいな。それとも、抱っこがよろしくて?」
ニヤニヤと、まるで人を小馬鹿にしてるような表情に、俺は何とか仕返しがしたくなった。
「抱っこが良い」
「運びづらいから嫌ですわ」
じゃあ聞くなよ。
コルトは凍らせて割ることで竜の肉を剥ぎ取った。食事のため仕方ないとはいえ、どうしてもグロテスクな絵面にしかならない。
コーヒーを一気飲みしたかと思うと、コルトは俺を背負い、竜の肉を手に持った。
「なにそれ、栄養ドリンクか何かなの?」
「強力カフェイン入りですわ。貴方だけですのよ、おんぶしてあげたのなんて」
「へいへい」
こんなに大荷物を抱えるコルトは、いつもの態度からは想像もできない、滑稽な姿でもあった。
まるで自転車の二人乗りでもしているかのように、ふらふらと不安定に飛び立つ。
「怖いなあ」
「文句を言うのなら、一人で飛んでくださいまし」
時々バランスを崩しながらも、何とか山を越える高度を保つ。
「傍から見れば、わたくしが貴方のお母さんみたいですわね」
んなわけあるか。
身長も顔つきも、誰がどう見ようと俺の方が上だ。
「コルトが親だったら、俺ならグレるね。もしくはニートの仲間入りだ。……まあ、ただ」
「ただ……何ですの?」
皮肉に対してコルトは少し不機嫌な口調になりながらも、俺を背中に乗せてひたすら飛び続けている。
そして微かに見える、いつになく真剣な横顔。
「今回はとても頼りになるな、と思っただけ」
「……貴方って本当、ずるい人ですのね」
心なしか、スピードが上がった気がした。
竜の肉が食えるかどうかは知らないけれど、早くご飯を食べたい。
傷が癒えるのがいつになるか分からないけれど、早くお風呂に入りたい。
なぜだか凄く、あの洞穴に帰りたくなった。
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