vs. 竜
「りゅ、竜って、本当に実在すんのか。コルトは知ってたのか?」
「ええ、知ってましたわ。現魔王様がなんとか手懐けた飼い竜も見たことがありますの。……でも、生息地以外に来ることなんて、滅多にあるものじゃありませんわ」
魔王がなんとか、だって?
もうおしまいだ。次は転生とかいらないから、完全な無になりたい。
「ちょっと、なにぼやっとしてるんですの!? 早く逃げますわよ!」
「首がっ!」
折れるかと思った。
コルトは俺の首根っこを掴んで引っ張っていく。
まあ、俺たちの方向を見てたと言っても、下には牛の群れもいたわけだしな。
食料が目的なら、牛とは反対方向に逃げればいいだけだ。
それはコルトも分かっているらしく、別方向へと逃げていく。
「もう大丈夫だ、一人で飛べる。しかし竜なんて、ついてねえな本当」
ちらっと後ろを振り返ると、牛も全速力で逃げているのが目に映った。
しかし。
その方向に竜がいない。
「あれ?」
直後、また俺たちに日影が覆った。
「……え?」
どうして俺たちを追ってきてるんだ?
言葉に出してないのに、コルトはポンと手を叩いて、俺の疑問に回答する。
「あ、分かりましたわ! ルークが赤い服を着ているからですの!」
「そんな悠長なことを言ってる場合か!」
ゴオッ!
言わんこっちゃない。
突如上空からの強風に、俺たちはバランスを崩され、地面にたたきつけられた。
「つっ……、痛い! 体全体が痛い!」
魔力で衝撃を抑えたとはいえ、100%自殺を完遂できる高さから落とされて、無事でいられるわけがない。
「……もう嫌ですわ」
「……こっちの台詞だ」
よろよろと立ち上がって竜を見上げる。
まだ満足していないのか、竜は臨戦態勢を崩さない。
「ていうか、さっきの風は何だよ……」
「竜の羽ばたきですわ。言い伝えでは竜巻さえ起こすと言われていますの。誇張とはいえ、侮れませんわよ?」
「侮っているのはお前だけだ」
竜がまた咆哮したかと思うと、今度は火炎を放ってきた。
「まじでか!?」
「下がってくださいまし!」
避けられないと悟ったのか、コルトは前面に出た。
向かってくる火の玉に手を向けると、バキバキという音が響く。
コルトの手が、凍っていた。
正確に言えば、周囲の空気が凍っているのだ。
……が。
「熱い! 熱いですわ!」
威力は半減以下となったものの、さすがに時間が足りなかった。
「火傷してしまいましたわ。舐めて下さいません?」
「おい前! 前!」
「ふぇ!?」
今度は火炎を乱発してきた。
コルトの氷結も間に合わず、直撃こそ回避したものの、爆風に吹き飛ばされた。
「ごほっ。......はぁ、はぁ」
やっぱり侮っていたじゃないか、とコルトを茶化す気にはなれなかった。
それほどに、コルトの顔には余裕がなくなっている。
対照的に、竜はいまだ元気いっぱいだ。
もう火炎は効果がないとでも思ったのか、今度は竜そのものが突進してくる。
「危ない!」
咄嗟に、俺は何も考えずにコルトを庇うように前へ出た。
体に電気を纏い、接触する瞬間、俺は確かに竜へ全力の電流を流し込む。
……だけど。
そんなものに、意味はなかった。
コルトをかすめて数十メートル吹っ飛ばされた俺に対して、竜は静電気にでも触れただけかのように、ただ不思議そうな顔をしているだけである。
正直な話、ここまでとは思わなかった。
伝説なんて、尾ひれだけだと思っていた。
どこかで、死ぬことはないと高をくくっていた。
どうやら侮っていたのは、コルトではなく俺の方だったらしい。
「……ルーク?」
コルトがふらふらと俺の方へ駆け寄ってくる。
死にはしなかったが、さすがに体の感覚がおかしい。骨も折れているかもしれないし、血も尋常では無いほど流れている。
「なんで、泣いてるんだ」
「……目が赤いのは、元からですの」
「そうだったな」
泣き真似が下手だったから、すぐに分かる。
「まだ、諦めてないんですの?」
……そういえばおかしな話だ。
あの世に行くことになんの躊躇もなかったはずなのに。
「どうだろうな」
勝てるとは思ってない。
ただ理不尽な世界に、無性に腹が立つ。
そりゃあ、食料として俺を殺すっていうなら分かるけど。
「赤い色に興奮だと? ふざけやがって。メンヘラならメンヘラらしく、自傷行為で喜んでいればいいものを」
俺の両足を支えているのは魔力ではなく、怒りの感情だけだ。
竜は何かを悟ったように、再度俺に向かって突進してくる。
特に作戦はない。ただ、怒りにまかせて魔力を発散するだけだ。
……しかし、俺には魔力を溜めることすら叶わなかった。
途中で放電した電流は、首にかかっていたロザリオに流れ込む。
直後、発光したロザリオに向けて、天から雷が落ちた。




