魔の力
「貴方も、着替えたら良いのではなくて?」
着替え終わったコルトが、俺のよれよれの服を見て言った。
「そうだけど、着替えないしな」
洗いはしたが、同じものを三日も着ていると気が滅入る。
「カトラスのを着ればいいですわ。サイズが合うのは少ないけれど、仕方ありませんわ」
そう言って取り出したのは。
上下共に赤の服だった。
「え、ダサっ」
カトラスのやつ、こんな趣味の悪いのを持っていたのか。
さすがに同時に着ることはないだろうが、正直引いた。
「そんなことありませんわ。赤は、血と情熱を表す、魔族にとってのシンボルカラーと言っても過言ではありませんの。それに……」
コルトが近づいてきて、腕を組んだ。
「わたくしの髪や瞳と、おそろいですわ」
作り笑いだという事は分かっている。
だけど、ちくしょう。
俺は振り切るように牛の狩場へ向かっていった。
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「ど、どうして。歩く、必要があるん、ですの……?」
拾った木の棒を杖代わりに、コルトはひぃひぃ言いながら付いてくる。
「牛は群れだから、あまり気付かれないようにって、ベレッタが言ってただろ。魔力を使うと存在がばれやすいしな」
「……え?」
「……は?」
俺の嫌な予感センサが、また発動した。
的中率は天気予報よりも正確だ。
「いや、何でもないですわ。取りあえず、お昼ご飯にしませんこと?」
何かを誤魔化したのか、コルトは俺の承諾も得ずに切り株へ座った。
しかし太陽も真上を過ぎ、俺も腹が減ったので提案を無下にできない。
ベレッタが作ったという弁当を広げて昼食にする。
顔に似合わず、可愛らしい弁当を作ってくるじゃないか。
米の上に、何かの食材で絵柄っぽいのが描かれている。
米を食べたのなんて、実に一年ぶりだ。
「そう言えば貴方、何か攻撃手段はありますの?」
絶対に食事の内容と合わないであろうコーヒーを飲みながら、コルトは俺に質問を投げかける。
「え、……ないけど」
鍛冶屋の時に剣はちょくちょく振っていたが、今そんな武器はない。
牛とはいえ、やはり魔物だと狩りは大変なのだろうか。
確かに、体も大きいしな。
「魔力の恩恵は、身体能力の向上や宙に浮く、その他便利機能だけではありませんの。きっと貴方にも必殺技が備わっているはずですわ」
「必殺技?」
確かに憧れはあるが、そう易々と必殺技を習得できるものだろうか。
「必殺技とは文字通り相手を殺す技。ひいては身を守る術ですわ。魔力を習得した時、死に抗う力は発動しませんでしたの?」
「……うっぷ」
トラウマのせいで、胃に入ったものが逆流しそうになった。
だが、死に抗う力って、なんかカッコいいな。
体が拒否反応を起こしているのか、中々思い出すことができないが、吐き気を抑えながらも懸命に海馬を探る。
……理不尽な世界。否応なしに近づいてくる死。泥水に塗れながら何を思ったか。
込み上げる感情に魔力を乗せて、傍らの木に向かって全てをぶつける。
直後、耳をつんざくような音が響いた。
目の前にあった木は焼け焦げ、大人の腕が丁度一周するほどの太さにもかかわらず、後ろへと倒れている。
「……ベレッタと同様、爆発系統ですの?」
「いや」
違う。
そうだ、思い出した。
魔力を得た時のことを。雷が落ちてきた時のことを。
雷と魔力の波長が一致した、そんな感触が確かにあった。
「これは、電気だ」
電撃使い。いいじゃないか。
なんかこう、SFチックで知的な感じがする。
「……ふぅん、アフロヘアーになったのも、無駄ではなかったという事ですわね」
「それは言うな」
日本人がアフロヘアーになったって、全然知的じゃない。
まあいい、これで武器ができたわけだ。
復讐を完遂するための武器が。
「ニヤニヤしてると、気持ち悪いですわよ?」
「うるさいだまれ」
取り敢えずの目標は、山を越えた先にいるであろう、牛の群れだ。
新しい力を、存分に試させてもらう。
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