心の偉人
お昼休みののんびり話。
二年生コンビと雪俊の話です。
「うつくしい子ども」読了後の閲覧を推奨します。
「蓮先輩と隼先輩って、仲良いですよね。あの、幼馴染みだって、そうに……武市先輩から聞きました」
昼休み。木陰でのぼんやりに参加していた一年ピッチャー、桜井雪俊がそんなことを言い出すので、蓮も隼も一瞬、きょとんとした顔で雪俊を見返した。
この集会には普段、二年でキャッチャーの武市総二朗も参加するのだか、今日彼は生憎、キャプテンの神月千尋によって、クラブ会議に引きずられていった――彼は地味に、二年の学年代表だ――この機会に二人について知っておこうとでも、雪俊はそう思ったのだろう。何しろ、総二朗が一緒の時は、三人のあまりにテンポのいい会話に押されて、雪俊はほとんど、個人的な発言を封じられている。
「そうだけど……ユッキー、それを聞いてどうするの?」
「え? あ、えーっと……」
「蓮ちゃん、一年生の単純な好奇心をそこまで掘り下げるのは可哀想だよ」
二人の間でなされる会話に入り込もうとしたことを、雪俊はあっという間に後悔した。蓮は自分や総二朗に構うのが好きだが、自分が構われるのはあまり好きではない。個人的なことに踏み込もうとすると、いつもあんな風にキツいあしらい方をする。そのときは大抵隼のフォローが入るが、そうなるともう、それ以上その話題を続けることは出来なくなってしまうのだ。
しかしその日は珍しく、隼が同じ話題を続けた。
「そうだね、蓮ちゃんとは小学校の少年野球からの付き合いだから……かなり長い、かな」
いつもと違う展開に、蓮が苦笑いしながら、少なくとも今まで付き合ったどの女の子よりも付き合いは長いね、と冗談めかして言った。
「……蓮ちゃん、余計なことは言わなくていいよ」
隼が困ったような表情になる。それを見て、雪俊は苦笑いしてしまった。蓮は確かに、身持ちが堅いとは言えない部類の人間だ。
「まあ、女の子と一緒にするのもちょっとアレだけどね」
そう言って、蓮は笑う。雪俊は心の中で、アレってなんだ、とつっこむ。敢えて言わなかったのは、すぐに隼が同じ事を言うのが解っていたからだ。ここで隼のセリフを取ってしまうと、後でなぜか蓮の機嫌が悪い。
「蓮ちゃん……アレって……」
「隼がどう思ってるかは知らないけど、俺にとって隼は、多分女の子とかとは比べられないほど大事な人だよ」
隼が耳まで真っ赤になる。この程度で済んでいるのは多分、隼が男だからだ。女の子が蓮の顔でこんな事を言われた日には、卒倒事件続出だろう。
「隼はね……俺の心の偉人だから」
「ちょ、蓮ちゃん……それ、かなり恥ずかしいと思うんだけど」
こういうキザなことを平気な顔で言うのが、城田蓮という人物だ、と雪俊は思う。意外と本気なのかもしれない、とのんきな事を考えていたら、隼と視線がぶつかった。
「桜井君、あんまり気にしないでね。蓮ちゃん昔から、オレの事過大評価するクセあるし……」
「別に過大評価してるつもりはないんだけど」
こういう時の目が案外真剣だったりするのが、蓮の困ったところなのだろう、と雪俊は勝手に憶測する。隼のように奥手で内気なタイプが、これと付き合うのは大変だろう、などと思う。案の定、隼は真っ赤になって困っていた。
「あの、えーっと、蓮ちゃん……」
「なんだなんだ、隼がゆでだこみたいになってるけど、なんかあったのか?」
そのとき、かなり騒々しく総二朗が帰ってきた。隼はなんでもない、と言って顔をそむけ、もちろん蓮はニコニコしていただけだった。
「おいユキ、何があったんだよ」
「いつものアレだよ、馬鹿総」
こうしてまた、会話は騒々しさを取り戻す。こんな日常も悪くはないが、たまには冗談なのか真剣なのか、よくわからない蓮と隼の会話を聞いているのも良かったな、と、雪俊は思うのだった。
私が書くと普通の小説もなんかこう……BLっぽくなっちゃってダメですね、うん。気を付けます。