13.魔法が使えるまで ~センスはひとそれぞれ~
エリシアさん宅の外――簡易学校の前の庭に出た一同。青空教室のような雰囲気。エリシアさんは「ちょっと眩しいな」と呟きつつ、小さな術式の練習をしている6人の生徒に声をかける。
「まずは『世界脈』の流れを掴むことからだが、操ることも借りることも考えなくていい。流れる風に手を添える程度でいい。川の水を手ですくうイメージで受け取ってくれればいいぞ」
6人それぞれが、庭の木造掲示板みたいな外用黒板に光の文字で描かれている法式陣をもとに地面に描き、詠唱している。設計図として成り立っているそれは、正確に書き写さないと上手く術式が発動しない。
「イメージするんだ。地面から芽吹く若葉から、太陽の光で煌めいた水を浴び、その身を少しずつ伸ばし、ガラス色のやわらかい花びらを咲かせるように、その術式を展開するんだぞ。術式は法式陣に大きく左右されるけど、いちばんは感情の揺らぎだ。邪念や雑念に囚われず、慎重に集中して、慢心なくだけど自信をもって深呼吸して――」
「先生、簡単にまとめましょう」
一応注意しておいた。教師や術式に至っては素人以下だけど、さすがにツッコまざるを得なかった。それに生徒たちの集中を削ぐ行為になりそうだから、止めた。
「そ、そうだな、すまない」
いや謝ったら先生の威厳が……いや、そんなものにこだわっても無駄なくらい偉い人だったこの人。そして俺は魔王の息子の重犯罪者。月とすっぽんどころか火星とバクテリアだよ。どういうことだよ。
しかし参ったな、エリシアさんもそれなりに俺にもわかるように教えてはいたが、授業の途中、しかも入門編の最終段階となると、俺もどうしようもない。中途半端な形で術式に触れて大丈夫なのだろうか。
聞くには、万が一術式に失敗すれば、何も起きないこともあるにはある。一番まずいのは『反動』と『暴発』。術式の誤作動や過剰反応と、極端な肉体負担が伴う場合があるという。最悪死に至るというが、例として火傷から脳漿炸裂までさまざまだという。
衝撃波に飛ばされたり、という例が中でも多い方らしいが、とりあえず危険であることに変わりはない。こどもだったらなおさら、致命的だ。
「で、みんなやっているのってなんですか?」
「魔物の浄化術の下級中の下級『光の水霧』という術式を発動させている。魔物は肉弾戦でも倒せるが、誰でも倒せる方法、それと汚染された人間を救う方法として『浄化術』があって、魔素によって汚染された物を浄化するのがメインだ。空気や水を澄ますこともできるし、人の負の感情もすっきりとさせることもできる」
「便利すぎですね」
ストレス社会にぜひ使いたいものだ。
そうか、魔素の塊である魔物の核に直接干渉してやれば、一発K.O.と言うことか。
「緊急時以外にもいろいろ応用効くから、一番リスクの少ない下級魔術を今練習させているが……」
腕を組む先生の強調された豊満な実りを一瞥しつつ、生徒を見てみる。
「あーくっそ! 全っ然うまくできねー!」
アルジェント君は真っ赤な髪を掻きむしる。
陣から炎が噴き出すように光の粒子でできた煙が激しく上がっていた。あの光が浄化する成分みたいなものか。
『組成鑑定』の目で見ても、元素ではない、何かの記号が表示されている。……なんだこれ、元素みたいに表示されるけどアルファベット的に元素じゃない。
「アル! 感情的になるな! 冷静になって一度リラックスするんだ。神髄心力と世界脈のバランスが崩れているぞ」
エリシアさんがそう言っている間に、俺も法式陣を書いてみることにした。指から炭素を創成し、鉛筆書きの感覚で地面に落書きする。
あ、赤色でもよかったかな。赤鉄鉱は鉄と酸素でできてる顔料だし……いや、両手使って化合というか酸化かつ『物質構成』しながらやらなきゃならないからめんどうだな。片手で無難に黒色の炭素だな。
「先生、どうでしょうか?」
「お、さすがだな。よくできてる」
エスタちゃんの陣からはぼんやり光る蛍のように白くまばゆい光が6つほどフワフワと漂っている。ソフトボールぐらいの大きさだな。手の動きに合わせて虫のように移動している。あれが成功例か。
アルジェントの光ってる煙と見比べると、同じ記号――いっしょの成分だけど、密度が違うし、流体速度がケタ違いだ。3つほどの記号が見えるが、その比率も二人は異なっている。
「くっそー、なんでエスタは普通にできるんだよ」とアルジェント君。まぁ、普通は嫉妬するよ。君はよくわかってる。
「陣を丁寧に書けば、もっとうまくいきますよ。描くのお手伝いしましょうか?」
「いいよ、俺自身のことだし、自分で何とかする」
あらら、なんと強情な。しかし赤髪の男よ、逃した魚は大きいぞ。
そっか、陣の精巧さで出力が異なるんだな。えっと、まずは円を書いて――すげぇ、円周の長さも目に映るんだ。あ、ここちょっと歪んでる。円周率通りにするの難しいな。
「おっと、ホルム。ちょっと待った」
「んひっ!」
今のビビった声に不意打たれ、陣がぶれてしまった。
ホルム君、君がビビるのはもう慣れたからいいけど、アヘッたような喘ぎ声出すのは勘弁してくれませんか。
はぁ、こりゃ書き直しか。
「ちょっと不安定だな。光の気体と液体が同時にできてるし、すぐに霧散してる」
「す、すみません」
「周りに流されている。そうだな、周囲の環境や人の目にを気にせず、内の自分と向き合うように一点集中してみたらどうだ?」
「は、はい……んっ」
だから変な声出すなって。真剣なとこ悪いけど。
そもそもね、かわいいとはいえ男の子がね、そういう声出しちゃ駄目だからね。
「よし、その調子だホルム、がんばれがんばれ」
先生ッ! 俺にも「がんばれがんばれ」言ってください! お願いします! できれば語尾にハートマークか音符マークつくような感じで――あっ、ちょっと、そっちいかないで!
「先生! できないんだけど!」
シャロルちゃんのところか。なんでそんな喧嘩腰なんだろ。
なるほど、陣から光粒子が垂直に流れている。縦向きの管の中に流した水流みたいだ。流れの形として流線が縦線と並行なので層流だけど、時折、光の流速が急激に上がって流れが乱れている。
なんだろ、水道水の蛇口を優しくひねってちょろちょろ出したり、強くひねってドバシャーと流すのが交互にきているイメージ。
……さすがに『組成鑑定』の目じゃ、レイノルズ数は編み出されないか。
あと、ホルム君と同じくらい全体的に光が弱い。3種の構成成分の比率がアンバランスなのか。
「そうだな、浄化術の構成を考え直そう。まず、属性は?」
「光でしょ」
「元素は?」
「火」
「それがどのように存在しているか、どうやって生み出されるかをイメージしよう。そして、おだやかに、だ。力も入りすぎだしな」
「う……」
シャロルちゃんの両肩に手を置いたエリシアさんは、しゃがんで背丈を合わせる。俺がシャロルちゃんと同じ立ち位置だったら、谷間見えてぶぉはッ!
突然のまばゆい光と顔面の衝撃に、しりもちをついては尻の骨を痛め、唖然する。頭がくらくらするし、皮膚がじくじくと熱いし痛い。
確か左側から……テメェかフレイ。子どもには似合わぬドス黒い顔しやがって。
「やっぱり浄化術って、魔族にも効くんだ……ふひひっ」
「……ぇ」
怖い! この子怖いよ! 図書館系男子怖すぎるよ! もう目が殺る気だ! 希釈ゼロのストレート殺意ランサーことフェミルよりねっちょりしてる分悪意があるよ。君の悪意の粘度は何Pasですか。
「今度、楽しみにしてて」
と真顔で言って、奥の方へ去っていく。「おまえすげーな、今術式できてただろ!」とアルジェント君が声をかけているのを見ては、地面に膝と手をついた。『ort』こと『乙のポーズ』である。
なんなのあいつ! 今度ってなに! 楽しみにってなに! 俺そんな危ない!? 違うよあいつの頭が危ないんだよ! 怖くて昼寝もできないよ!
ていうかエリシアさん気づいてねーのかよ! あんたの生徒が今殺人未遂を犯したからね!
「つーか……また陣が潰れた……」
3度目の書き直し。さすがに書き慣れてきた。
ちらりとシャロルちゃんと教えている先生の様子を見てみる。まだ上手くいっていないようだ。
「まだかー。それじゃ、もう一回リラックスしようか。はい深呼吸。ひっひっふー」
「ひっひっふー」
先生。それ深呼吸ちゃう。ラマーズ法や。無痛分娩法をロリに教えても犯罪臭が漂うだけやで。
「おだやかな気持ちで、森に流れる川のせせらぎを思い出して……目をつむって、イメージするんだ」
「穏やかに……穏やかに……」
先生、シャロルちゃんの背中におっきくてやわらかいの当たってますよ。彼女さりげなく男子力も混じっているので当たってること意識していてドキドキしてますよ。気づいてあげてください。
「お、おだやかにー……オダヤカ、オダヤカ……」
穏やかじゃないですね。これはマズいです。
案の定、詠唱しても結果として失敗に終わった。過剰反応に近く、なんか『クジラの』潮吹きみたいに光の粒子がバシャバシャ出てきては霧散している。激しいねーこれは。
「……難しい」
シャロルちゃんが呟く。ちょっといじけてきたか。その様子を見ながら、円形の中の幾何学的な図や文字を描き続ける。
よし、法式陣は書けたな。あとは詠唱するだけだが、詠唱にもコツっているのか? ただ言うだけかと思ってたけど。
「お、シャロルも俺と同じ感じだな。ははは」
「うっさいわね、あんたよりは優れているわよ」
「そんだけ感情的じゃ、上手く行くこともいかないぞ」
「なっ、あんただってさっきまでイラついていたじゃない! バカみたいに髪掻きむしって」
「あ? 誰がバカだって?」
ん? ケンカまで5秒前っぽい? ていうか15歳と12歳がもめるなよ。
「ふたりともやめなさい」と委員長系女子が食い止める。グッジョブだ委員長!
「そ、そうだよふたりともっ」と挙動不審になる子羊系男子。ああもう、抱きしめたいぐらいまで震えつつも勇気を振りしぼって声を上げてる。なんだこのかわいい生き物。
「うるせーなんでもできるくせして」
それ褒め言葉だよアルジェント君。そうか、貶しつつもエスタ嬢を謙譲なさっているんだな。君は分かってる。
「黙ってて!」
おおっと、シャロルちゃんの一喝でホルム君はもう涙目だ。
「……ありゃー、ケンカかよ」
「レベル低いよね」
やばい、背筋凍った。
フレイ君、いつから俺のそばにいたんだい? そして君が立っている場所ね、俺が書いた法式陣だから。うわー陣を足蹴にしやがったよこいつ。ただの悪ガキじゃねぇか。
「やめんか」
そのとき、ドスッ、と先生のモンゴリアンチョップが睨み合ってたアルジェント君とシャロルちゃんの頭に鈍痛を与える。ふたりとも頭を押さえてかなり震えてる。めちゃくちゃ痛そう。
「まったくおまえらときたら……特にアルジェント、おまえこのなかで最年長なんだから、ケンカを買うんじゃない」
「で、でもよー。……先生、あれって浄化術か?」
突然顔色を変えたアルジェント君は指を指す。他のみんなも気づいたようで、周囲の異変に気がついては少しだけポカンとする。
そういや、一番存在感あったやつが存在消していたな。
「せんせーせんせー! できたー!」
周囲の異変――それは、浄化術によって作り上げられた光の風船の数々。地面や空を雲のようにふわりと流れているあたり、空に浮かぶ雲とは質的に違うとすぐに分かった。
ティリが満面の笑みで町側の丘から駆け寄ってくる。溢れんばかりの風船状の球体の数が、彼女の書いた陣から蒸気のように大量に発生している。放出された光の粒子が雲として結集し、風船の形へと維持している。
「なんか空気が澄んでるような……痛っ」
風船に触れるなり、バチンと静電気に似た痛みが脳へ走る。これ魔族にも効くってのは、結構つらいな。
丘の草むらは潤い、風も爽やかになったが、その流れる術式にぶつかるたび、輪ゴムでバチンバチン当てられている痛みがずっと来るのですが。だけどフレイの術式よりはやさしい感じで痛めつけてくれる。
「すげぇ」とアルジェント君は目をまんまるにして、まさに開いた口が塞がらない顔になっていた。
エスタちゃんも「すごい……」と感心している。「うわぁ……!」とホルム君も同様に驚き、感動していた。
「な、なにこれ」とシャロルちゃんも唖然。ただ「パネェ」と一言添えたフレイは無表情だった。
なによりエリシアさんが一番うれしそうなのが微笑ましい。
「ティリ! すごいじゃないか!」
「へへへー。すごい?」
二カッと笑う。守りたい、この笑顔。
というかティリちゃんセンスあり過ぎだろ。将来大物だよこの娘。
でもいるよねー、馬鹿っぽい奴やクズっぽい奴に限って優秀越えてバケモノな奴。高校の時クラスに一人はいたもん。
「あ、先生、誰か来たよ」
そのときに聞こえた足音。町から来たのか。
茶色かオレンジあたりの明るい髪色は短髪。筋肉質で20代後半の大人顔。
「あ、ジェイクさんだ!」
「ジェイクさん、こんにちは」
「……げっ」
俺の苦手な野郎だ。今、異世界転生初日のことを思い出しています。
どうしよ、家に戻ろうかな。
「よっ」と歯を見せてジェイクは右手を上げては挨拶を返す。
「いやーすげぇなこれ。光る風船だらけだ」
もう電球が浮いてるみたいな感じでね、うん、もう帰ってくれるかな。
エリシアさんも笑顔で迎え入れたが、このなかで真顔なのはフレイ君と俺だけだろう。
「おー、ジェイク。どうしたんだ、私の授業聴きに来たのか?」
「いや、もうあの頭がパンクしそうな感覚はこりごりだよ。学校の方から馬鹿でかい浄化術の魔法が見えたし、気になってきてみたら……こいつがやったのか」
「えへへーすごいでしょー!」と満面の笑み。
「ああ、ティリはすげぇな。親に似たんかね」
そういいながら、白い髪を撫でる。すごい嬉しそう――やべ、目が合った。
「先生、ちょっと悪い」
「……?」
撫でるのを止め、俺の方へと歩き続ける。顔からしてもう、不機嫌の一言。
「テメェ……まだこの町にいやがったのか」
めんどくさいことになったな。別にいいじゃん、とは言えないしなぁ、仕方ないけど無言を貫き通すか。
「……」
あ、少しムッとしてる。僕なにも気にさわるようなこと言ってませんよ。無言が気に障ったのは承知の上ですが。
「おい、少しはなんとか言ったらどうだ……出来損ない」
「――っ!」
「なんだ? 言いたいことあるなら言えよ。なんなら、その手を使ってもいいぜ、『出来損ない』よぉ」
いや、もう、なんか挑発して俺がイライラしているようにこいつは勘違いしてるんだろうけど、違うからね。だから何が言いたいんだよって話。なんですか、この場の癒され空気をぶち壊しに来たんですかあなた。
こういうときに浄化術使いたいよな。
「ジェイク、落ち着け。子どもたちの前だぞ」
「……っ」
エリシアさんが止めに入る。こどもたちも不安そうな顔だった。
これにはさすがのジェイクも申し訳なかったのか、睨むのを止め、俺に背を向け、学校から出ていこうとした。
「ああ、そうだった。先生、これ」
そう言いながら、渡したものは二枚の封筒。
「国からのというより、先生の知り合いからのちょっとした知らせと、輸入先のマーセット国からの通知だ。中身は見ていないけど、あまりいい予感はしなさそうだ。授業終わった後にゆっくり読んでみてくれ」
「ああ、わかった」と真剣に対応する。
ジェイクはまた顔色を豹変させ、ぎろり、と俺の方を睨む。
そういや、こいつもこいつでただの町人Aとかじゃなかったんだよなぁ。エリシアさんから聞いたことだけど。
「これだけはいっておくぞ。おまえがこの町で何をしようとも、俺はお前を許さねぇ。少しでも変な真似してみろ、その首叩き斬ってやる」
そう負け犬の遠ぼ……失礼、そう言い捨て、学校を後にした。少ししんとした空気。
「ヴェノスおこられちゃったねー」とティリちゃんが笑ってくれなかったら、この場の空気は凍ったままだった。助かった。
「そうだな」とティリの方を見て微笑んでは、呟いた。
「……知らねぇうちに、恨み買ってたみたいだな」
それがなんであれ、『俺自身』が知らなければ話にならない。ちゃんと話してくれなきゃ、わかりたいこともわからねぇよ。
「メル、すまなかった。あいつにも事情が――」
「その事情を知らない限り、俺はあの男をどうすることもできないですよ。たぶん、この身体がヴェノスだった頃に、ジェイクさんや関係する人となにかあったんだろうなとだけなら分かりますけど」
「……」
その通りみたいだな。
現に、何も知らないわけではないと、ヴェノスの脳が語り掛けてくるが、一向に思い出せない。
だけど、正直知ったことではない。
復讐やら恨みやらは、その人の考え方次第でどうにでもなるが、こういうネットすら開発されていない異世界だったら、その信念の固さは相当だ。だけど、その信念が俺の穏やかな生活に支障を与えるんだったら、なんとかしなきゃならないだろう。
そのうち、あいつと正面からぶつかることになるだろうな。ああやだな。強く言われると委縮して無言になるんだよ俺。
「それじゃ」と両手をパンと叩いて、みんなを注目させるエリシアさんは、
「授業を再開するか! ティリ、一番すごくできたし、コツとかあったらみんなに言ってくれ」
「センス!」と堂々言い放った辺り、やっぱり裏切らないなと思ってしまった。会って一日目なのに「ティリらしいな」とうなずく僕がいます。
「……めんどくせーな」
なんとなく幸せだったけど、やっぱり町との接点がない限り、俺に対する認識は時が止まったように停滞したままだ。
なんとかしなきゃな、とため息をつきつつ、エリシアさんの詳しい説明やみんなの様子を少し遠くから観察しながら本日4度目の浄化術の法式陣を描く。フレイ君を警戒しつつ詠唱してみたが、おもしろいほどまでに何も起きなかったので、「うらぁあああ」と叫びながら陣を地団太して踏み壊しました。
その脚から乾いた高温塩素を少し放出させながら、右手で液状ナトリウムを少し創成して、やけくそで塩化ナトリウムを作りました。俺だから大丈夫だったけど、防護メガネしないと普通に死にます。周りに誰もいないとわかった上でやった行為です。見逃してください。
その反応として陣の上を危ないくらい燃え盛らせましたが、漏れ出た塩素気体や飛び散ったナトリウム液は物質吸収と物質分解ですぐに証拠隠滅したので、みんなが燃焼反応の明るさと激しい音に気づいてこちらを見たときには、一瞬の激しい発光現象と、陣の上に食塩がばらまかれていたという光景が映っていたことでしょう。
すごい不審がられましたが、こっちはみんなできることをできなくて悔しい限りなのですし、ほっといてやってくださいと伝わらない思いをこの胸にとどめておきます。
魔法使えるまで、道はまだまだ遠いようです。