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7.診断結果 ~無職って認定されました~

「どうでした、エリシアさん。……エリシアさん?」


 3歩ほど離れた俺は声をかけるが、やっぱり唖然としている。ぽかんとしている表情も整っているというか普通に可愛いが、上の空になっているのがちょっと怖い。


「あの、なんかごめんなさい。ええと、大丈夫ですか?」

 手をひらひらと振る。やっと動いてくれたエリシアさんだったが、それでも呆然としている感じだった。

 それにしても、今の戦いで測定できていたのかな。


「メル……おまえはやっぱり、ただ者じゃないよ」

「え?」

 我に返ったエリシアさんは、驚きの余り笑うことしかできないような顔を浮かべてそう言った後、指で空をなぞって、スクリーンパネルを出現させる。

 ゲームのようにステータスが表示される。俺はエリシアさん側に回って、その数値を覗き込んだ。



 ヴェノス・アルファーナ・メルクリウス(メルスト・ヘルメス)

 Lv.1→Lv.4

 クラス:無職(中級)

 生命維持稼働時間:30時間

 オストロノムス:ミル・ハロング

 属性:無


 総合体力 9000

 総合神力 5

 総合精神 8400

 総合知能 1920

 外部影響 ∞

 代表能力

 ・組成鑑定

 ・半永久的不老不死

 ・無限エネルギー創造



「……は?」

 なんだこれ。精々あの魔族よりは上なんだろうな程度しか考えてなかったけど、これはぶっとんでるだろ。あと神力低すぎだし、この落差はなんなんだよ。

 それで、一番下の記号。8じゃないよな。横向きだし。無限――インフィニティ、と捉えていいのか?


「神力は予想以上の低さだが……おどろいたな、魔族でも精霊族でも、いずれの最大数値は999だ。この限界数値を越えれている種族はただ一つ……神族ディアンという、天使や神に属する、生命にして生命に非ずと称される特別な存在だけだ。それでも、この外部影響の数値は次元が違う」


 転成したという意味では次元が違うとこから俺が来たというわけだから、それと関係があるかもしれない。

 しかしレベル4にしてこの数値はあきらかにおかしい。


「バグですかね。なんか、術式の誤操作とか……すいません、エリシアさんの術式は世界一です」


 むすっとした表情で睨まれたので、すかさず謝った。だが、特に睨んだというわけでもなく、ただ疑問を抱いている表情だったことに気がつく。


「……いや、誰しも誤りはある。だが、今回はいつも通りに発動した。それでこの数値を示した」


「この記号って……無限、ですかね」

「そうだろうな。この術式じゃ測定できないほどの数値をこの目でみたのは生まれて初めてだ」

 エリシアさんはまじまじとボードに映る数値を見つめ続ける。


「うん……すげぇな」

 いやぁ、ここまであるなら、そりゃ瞬殺もできますわ。心躍る感覚と同時に、ちょっと怖くなった。簡単に人を殺せるってことだ。


 あのふたりの魂が消滅していない以上、肉体的には死んでも、いずれ復活するとヴェノスの知識が言っている。


 それでも、この手で人の命を奪ってしまったことには変わりない。今更になって罪を意識する辺り、感性もヴェノスの脳に影響されているかもしれない。

 殺すことにためらいがない、狂った人間の感覚が俺の心を蝕んでいるようで、気持ちが悪い。


 ふと、ステータスの上の方を見ては気づく。


「いやそれよりも『無職』ってなんなの! これ誰が決めてんの!? ケンカ売ってんのこの魔法俺に対して!」

「北の軍神ベヘルムスの目の角膜模様と網膜をもとに再現した術式だから、文句を言うならその神に言うんだな」


「嘘だろ俺、神様に無職って認定されてるの?」

 しかも中級レベルで。無職の中級者ってなんだよおい。


「嫌だったら行動することだな。クラスは天職とも称されているが、人々の知名度にも関係するし、クラスチェンジも行動次第で変わることもある。まずは友好関係から解決することを勧めるよ」

「コミュ障なんですが俺――」

「思い込みだ。話す経験をろくにしてない奴がよく言えたもんだ」

「……」

「あーショックだなぁこれは。よく考えればあまり勝負になってなかったし。でも、これで納得がいったよ」


 エリシアさんは地平線を眺望しながら、「お、やっと夜明けか」と俺に言い聞かせるように言った。


 俺は小さい声で唸る。

 そうだよな、才能があったとはいえ、血のにじむような努力を日々してきたんだ。カンスト値に達している時点で、相当頑張ってきたはずだ。

 それなのに、俺はそれをはるかに上回る能力を苦労せずに最初から持っている。それがなんだか、申し訳なかった。


「なんというか、その……すいません」

「いや、むしろ嬉しいよ」

 彼女は振り返る。夜明けの逆光に映る彼女の表情は、笑顔だった。


「私を守ってくれる、とっても強い騎士ナイトが現れたから」


 え、と声に出てしまう。

 やっぱり、ステータスはあてにならないかもしれない。あれだけの知能値をもっているのに、その言葉を理解するのに時間がかかったから。


「い、今のは――」

「……なんてな。本気にするなよ?」

 エリシアさんはつん、と俺の額を押し、思わずよろめきながら後ろに下がってしまう。「ぅおっとと」とバランスを保った俺はエリシアさんのいたずらな笑みを見つめる。


「さて、日も昇ったことだし、帰るか!」

「……あの」

「ん、なんだ?」


 帰ろうと向かうエリシアさんを呼び止める。何度見ても、踵を返し振り返る彼女に見惚れてしまう自分がいた。

 ……同時に視界に入れざるを得ない何かの気配も含めているが。


「いや、その、あそこの岩陰からかなりの嫉妬深い殺気が僕の方に向けられているんですが……」


 いつからいたのだろう、突き出た岩肌荒い岩石に隠れるように、フェミルがじっと俺たちの様子を見ていた。俺、賢者でもないのにオーラっぽいもの見えるけど、明らか負のオーラだよな。どす黒いもん。


「フェミル、なんなら一度手合わせしてみるか? メルストと」

 そんなフェミルに構わず声をかけたエリシアさん。ていうかさりげなく戦わせようとしないで! あんな殺意ぶつけられたら怖さで死んじゃう!


「……いえ、やめておき、ます。近づきたくもあり、ませんし、あれと同じ空気を吸うのも……反吐がでます」

「ごふっ!」


 百歩譲って照れ隠しでも限度がある。純粋に俺のこと嫌いだよこの娘。


「その空気を吸っている私のことはどう思うんだ?」

「先生はその空気を浄化しているので問題ありません」

「根拠ない理不尽!」


 思わず叫ぶ俺。黙ってろ、というフェミルの視線に死線を感じる俺でした。


「先生に意見、するようで申し訳、ありませんが……この男がいると気持ちが落ち着かない、のです。帽子も外せ、ませんし……」


 口下手なのかな、途切れ途切れにぎこちなく話すねこの娘。うわ、またこっち睨んだよ。視線に敏感すぎるでしょ。


「んー、じゃあこれを機にフェミルもその人見知りな性格治したらどうだ?」

「へっ?」

「ついでに男嫌いも治せるし、一石二鳥だろ?」

「いや、あの、そういうのは」


 おお、ナイスだ先生。あのフェミルを戸惑わせているぞ。こういうのを手なずけるというのかな。……違う気がしてきた。


「だいじょーぶだ。こいつは健全な男子だが、色欲のままに突っ走る男じゃない。な、メルスト」

「えっ!? ああ、はい、もちろん!」


 なんか釘刺された気がする。

 え、ちょ、それじゃあ俺、これから性的に生殺しな日々を送ることに――。


「私の裸は見たけどな」

「殺す」


 どーしてそーいうことは言っちゃうのかなー先生。なんですか、根に持っているんですか。


 そう唖然としている最中、俺の断末魔が町外れの山岳の丘から高らかに響いたことだろう。

 気が付けば木の下の土に埋められていたことは、いい思い出として取っておこう。案外ひんやりしていて気持ちがよかった。

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