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5.能力診断 ~早起きは三文の徳と思っていた時期が僕にもありました~

 一度夜型になると、なかなか朝方に切り替えるのは至難の業だ。既に夜型の体としてできあがってしまった俺は、何か大きなきっかけでもない限り、早起きして活動することなどできなかっただろう。


 現在の時刻は不明だが、日が今にも地平線から昇ってきそうなので、夜明け――五時あたりか。


 その時間帯に起きれた理由はひとつしかない。起こされたからだ。


 母親に起こされるなら反抗するように「あと五分」という名の、相手によっては命中率そこそこ高めの魔法を唱えるが、今回は別。


 目を開けばキスでもできるんじゃないかという距離で青銀髪の美少女が呼びかけるように起こしてくれたのだ。これで起きないはずがない。心臓が跳ね上がったあまり、寿命が数分縮んだが。


 そうだった。俺は異世界にいるんだった。いつも寝ているスルメイカ臭いベッドとはもう、おさらばしているんだ。

 再確認しては、青銀髪の女性ことエリシアさんから渡された、騎士が着るような団服の上に着替え、魔術師のような装飾付きの黒いコートを羽織る。こんな服よく持っているなと思いつつ、窓の外の緑豊かな高原の絶景を見眺めた。



「"能力診断ステータス・ダイアログ"、ですか」

「正直、自分自身でも理解できていないだろう、その説明のつかない超能力を」


 エリシアさんの自宅兼簡易学校から結構離れた、緑燃える山岳地帯。草丈が高めであり、しゃくしゃくと歩いて踏むたび、あさつゆが裾に染み込む。

 まだ日は昇っておらず、高山地帯なのか、霧も見られる。なにより冷え込んでいて鳥肌が立つばかりだった。


「やっぱり魔法とは違うんですね」

「当然。魔法は精霊や六大元素の源水ともいえる『世界脈サテライス』や、媒体となる源から力を借りて術式を発動させるもの。魔術は人工的、物理数学的に術式を発動させるものだ」


 魔法と魔術にちゃんとした区分があったのか。魔法が自然的、魔術が人工的、といった感じか。


「根本的原動力である世界脈のみならず、人体中の『神髄心力シィヘン・エルメン』をも通じて神素というエネルギーに合成変換するが、メルのその力には一切それが感じられない。神素の法と術を使用する際に感じる力の発動プロセスが全く異なるんだ」


 ラフな魔導服を着ているエリシアさんだが、風が吹くごとに服が揺らめき、体のラインが分かってしまう。谷間が見えるとはいえ、大した露出がなくとも気持ちを昂らせるとは、さすが賢者という名の女神様だ。男殺しのスキルでも持っているのか。


「だから、ここでもう一度見てみる、と」

「そういうことだ。私も元は賢者としていろいろ研究してきた身だ。その計り知れない力を調べてみたい」


 確か「蒼炎の大賢者」として王国を支えていたんだよな。勇者に並ぶすごい人だというのは理解している。戦う名誉教授、と俺は安直に捉えていた。


「じゃあ俺を匿ってくれているのも……」

「匿うだなんて物騒な言い方だな。この町に住まわせた理由の一つとしてはそうだが、一番ではない。この命とルーアンの町を救ってくれた恩人だからだ。誰がなんと言おうと、私からおまえを突き放すような行為はしない」


 それだけ、俺に想いが……違うか、町に思い入れがあるのだろう。

「んん」と咳払いのような声を出し、じとりと俺を見るエリシアさんは改まって言う。


「まぁ……裸をみられた責任もとってもらうのもあるしな」

「あれまだ気にしてたんですか!?」

「当然だろう。頭からつま先まで丸々全部みられたのは親以外でおまえが初めてだ。裸体は心から愛を誓い合った相手にしか見せないと小さいころから決めて……いや何を言わせるんだ!」

「あんたから持ち出した話だろ! 当たるなよ!」


 冷静そうに見えて純情なのか。紅潮しているのが初々しく見える。

 エリシアさんは「こほん」と可愛らしい咳払いをしては、


「とにかく、おまえの実力をここで計る」

「で、その能力診断はどういった効果があるんすか? その、どんな感じに分析されるのか」


「そうだな」とつぶやいたエリシアさんは何かを唱えては手首を軽く回す感じで人差し指で空に円を描く。

 現れた光の円盤の中心点にタッチした途端、円形が瞬く間に液晶パネルのような質感に見える長方形へと変化した。光と電気エネルギーに変換された神力素によるものだった。


 これ某異世界転生のお話で出てくるあれだよな。ステータスオープンていうとシュッて出てくるやつ。

「なんかゲームみたいなウィンドウ出てきたぞ……」

 俺はまじまじとスクリーンパネルに似た魔力ボードに移っている数値を、エリシアさんの横で覗いてみた。



・エリシア・オル・ヴァレンティス・クレマチス

 Lv.370

 クラス:大賢者(王級)

 生命維持稼働時間:23年

 人間族ヘレクトス:ロイソン

 属性:水


 総合体力 260

 総合神力 999

 総合精神 570

 総合知能 890

 外部影響 160

 代表能力

 ・女神の加護

 ・スペルマスター

 ・蒼炎の大賢者



 思ったより単純だった。どういったものかはまぁ、用語を見る辺り分かるが、基準が解らない。


「クラスは多すぎてきりがないし、レベルは自身を成長させるほど上がる。長く生き続けても少し上がるから、戦闘ではあまり参考にはしない。何もせず、普通に生きてたとして、年齢と同じだと考えればいい」


 じゃあ40歳無職だったらレベル40前後か。自分を高めるかどうかでレベルが上がっていくんだな。前の世界もこんな感じで分かりやすかったらよかったのに。そしたらもっとやる気が……過ぎたことはもういいか。


「体力は生命力、筋力、守備、俊敏性などの身体的能力とその維持力を総評したものだ。一般成人男性ならだいたい120、優秀な兵士で200以上。獣人といった亜人ならば300は下らん種族もいる」


「結構おおまかにまとめられるんすね」

 攻撃力、防御力、敏捷性、命中率とかも、ここに含まれるのだろう。

「そうだな。こっちの方がわかりやすくていいだろ」


 それもそうだな。ゲームするとき、ステータス調整すらめんどくさかったような頭悪い俺にはちょうどいい項目の数だ。


「神力は主に神素の量のことだな。術式が使えなくても魂と生命の力を維持している以上、誰しも神力は必ずある。100前後を基準として、魔術師ならば精々250以上、300が平均だろう。仮に総合体力がゼロになっても、神力あれば蘇生できる可能性がある」


「本当ですかそれ」

「その神力の源である魂すら失ったにもかかわらず蘇ったおまえに言われると、なんともいえんな」


 まぁ、そうっすよね。本当にややこしい過程で転生したよな、と思う。


「精神は心の強さだ。これが高いかどうかで体力や神力も左右される。潜在力もここに含まれるな」


「まぁ精神メンタルの強さは肉体フィジカルに関係してますからね。これはよくわかります。知能ってのはIQみたいなものですか?」


「アイキュ……? まぁ、総合知能も重要なものだ。思考力や演算力、知識知恵のみならず、術式を頭から引き出す能力もこれに入るし、神力と脳、術式とのシンクロをつなげるにあたって不可欠なものだ。200あれば頭の良さとしては普通だろう。センスもこれに属するかな」


「文化部系に適した能力って感じですか」

「んー、まぁそんな感じだ」

 いやそこは訊けよ。今わかってないで返事したよな。


「そして、外部影響はその他と称してもあながち間違いではない。現時点での、その場での環境や己の心情、装飾しているものの効力、服用物などによる人体の影響力を示している。これの大小で他の数値が揺らぐこともある」


 エリシアさんは腰を下ろしては草揺らぐ丘の地面に手をぴったりとくっつける。なにかのオーラが風としてこちらに吹いてきたような気がするが、ふと見たスクリーンの数値が上昇していたことに気づく。

 特に『外部影響』が著しく上がっており、軽く500を超えた。


「すげー、ぐんぐん上がってる」

「自慢するような言い方になってしまうが、ここまで一気に上昇することができる人は賢者クラスでもそういない」

「へぇー」としか言えなかった。

「代表能力は主に収得しているスキルのことですか?」

「そう。この術式では3つまで表示される。一応収得した能力の一覧も出せるが、今はいいだろう」

 それにしても、人間族――ヘレクトスの横に書かれている『ロイソン』はなんだろうか。人種名? モンゴロイドとか、ネグロイドとか、その類と一緒なのだろうか。


「言い忘れたが、外部影響の値は人間族ヘレクトス……人間を100として基準している。まぁ、大体の説明は言ったつもりだ。"能力診断"は持っていて損はない術式だ。人のみならず、動物も対象にできるし」

「なーるほど、それは便利っすね。わかりやすいし」


 いかにもゲームのような感覚で自分の能力が解るのは面白い。心がうきうきする。


「自分自身だと、こうやって簡単に自分の能力をみることができる。なんなら、もっと細分化できるが、このくらいの情報でも十分わかるから問題ないよ」


 それにしても、999という数値があるということは、人間の限界値――つまりMAXに達しているということか。やっぱりエリシアさん強すぎるな。

 見た目少女寄りのきれいなお姉さんなのに軍人よりも強いって、やっぱり異世界だよここ。ファンタジーゲームのようにロリが100キログラム越えていそうなデカい武器を軽々しく振り回している世界と同じだよここ。


「ちなみにあの魔族の胡散臭い貴族ふたりはどうだったんですか?」

「ああ、対面した時、一応簡易的に測定してあったから表示できるぞ」


 さすが先生! 抜かりないっすね! と心の中で賞賛しておく。

 結構あっさり倒しちゃったけど、大賢者のエリシアさんですら苦戦してた相手だから、それなりに強いんだろうな。表示切り替えされたウィンドウを見つめる。



・フォングラード・アディマス

 Lv.350

 クラス:呪術師(特級)

 生命維持稼働時間:78年

 魔族オストロノムス魔人ミル・ハロング

 属性:闇


 総合体力 350

 総合神力 800

 総合精神 340

 総合知能 530

 外部影響 690

 代表能力

 (未測定)



・ベネスス・ハンガリ

 Lv.400

 クラス:剣士(王級)

 生命維持稼働時間:126年

 魔族オストロノムス:ミル・ハロング

 属性:地


 総合体力 750

 総合神力 480

 総合精神 750

 総合知能 390

 外部影響 400

 代表能力

 ・魔獣の黒血

 (未測定)



・ジェイク・リドル

 Lv.250

 クラス:魔導士兼戦士(高級)

 生命維持稼働時間:24年

 ヘレクトス:ロイソン

 属性:火


 総合体力 360

 総合神力 250

 総合精神 500

 総合知能 120

 外部影響 200

 代表能力

 ・不屈の精神

 ・武器使い

 ・剛力



・フェミル・ネフィア

 Lv.320

 クラス:騎将(聖級)

 生命維持稼働時間:21年

 精霊族フェリシア:ハイエルフ

 属性:風


 総合体力 290

 総合神力 620

 総合精神 500

 総合知能 390

 外部影響 720

 代表能力

 ・従属士(精霊使い)

 ・聖槍使い

 ・疾風迅雷



 ……うん、スキルの効果がなんとなくしかわからない。レベル基準もよくわからないな。レベルが低くても能力値が高いってこともあるのか。


 あれ、なんかついでの奴が出てきたぞ。へー、あいつ一般人よりは結構強いんだ。フィジカルも人にしては相当だけど、メンタルが特に高い。スキルも不屈の精神って、どこの野球部だよ。まぁメンタル強そうな顔しているもんな。


 フェミルは……予想通りだったが、相当強いな。精霊も扱えるし、しかもクラスが騎将かよ。意外にも馬に乗ってたのか。へぇ、乗られてみたい。


 それでもやっぱり、エリシアさんが町の中で一番強い。総合神力がカンストしてるし。町の有力者にして実力者ってか。


 でも待って、あんな小さな町にそう強者つわものが出揃っているもんなの? ただの町じゃないよね。少なくとも俺の住んでた地区ではそんなのなかったよ?


「結構高いですね」

「そうだな、例として取り上げるにはちょっと数値が高かったな」

 そう苦笑しては説明を続けた。


「わざわざ発動しなくても、私ならぱっと見でどのくらいの実力かは大体は判別できる」

 しかしだ、と俺の方を見る。


「今のおまえの数値を見ると、とてもあの魔族――オストロノムスを圧倒させたほどの力がないんだ」

「え、本当すかそれ」

「むしろ村人とそう変わりない」

「モブキャラじゃねーか」

「モブキャ……? だから、ここであのとき発揮した実力を引き出してもらう」


 まさか村人A程度の戦闘力だなんて……。畜生、引き出さないと数値が出ないなら、初対面のとき必ず舐められるじゃねぇか。


「本来この測定型の術式は相手の能力の真髄、まぁ現時点での潜在能力も含めてあの数値が表示されている。それを考慮しても、一般人とそう変わりない能力値であの貴族ふたりを倒せたとは到底思えないからな」


 彼女の周囲から青いオーラが漂い始める。持っていた長い杖を振りかざした途端、蒼い炎が湧き出るように発生し、縞模様のある銀灰色の刃がでてきた。剣と化した杖は今も藍色の炎を発し続けている。


「メル、容赦は要らん。思い切りかかってこい。……殺す気でな」


 ヒュン、と風を剣で切る音。凛とした紅色の目は俺を真摯に見ていた。

 真剣な表情も綺麗と言わざるを得ないが、男の俺でさえもかっこいいと思ってしまう。


「わ……わかりました」


 殺す気で、と言われるとためらってしまうのは当然だ。だけど、それだけ全力でやらないと、こっちがやられてしまう。ちゃんと応えてやらないとな。


 あのときのことを思い出しつつ、スイッチを入れるように能力を起動させる。

 コツとしては、肛門が緩むぐらい一旦脱力する。精神も同様に落ち着ける。あまり深く考えない。一言で言えば賢者タイムにできるだけ近い状態にする。その方が力を出しやすい。筋肉を引き締め、身体を力ませるのはその後。

 ふぅっ、と息を吐いて、呼吸を短く切った。


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