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3.ここに至るまで ~宣告通りらしいです~

「それじゃあ、本題に入ろう。メルストに尋ねたいことだが……どこから"来た"?」

「……? どういうことですかそれ」


 とはいいつつも、薄々察してはいる。『俺自身』のことを聞いているのだろう。


「一度だけ、ヴェノス本人に会ったことがある」

「っ、それ本当ですか」

「ああ、13年前インセル収容所でな。そのときはまだ10歳だったが、メルストよりはしっかりしていた」


 おいちょっと。あえて直接ツッコまないけど。


「それに、その時点で司祭や宮廷術師の称号はあった。それぐらいの高等の術式使いか、生まれつき『女神の加護』を宿す者だったら"魂の色"というオーラのようなものを識別できる。けど、そのときのあいつと今のおまえとでは"色"が違う。おまえ自身はどこから来たのか、分かるか?」


 まさかそんなことがわかるなんて。だから俺と初対面の時もヴェノスだとは解らなかったのだろうか。いや、色だけで判断するなんて蝶じゃないんだし。エリシアさん人間だし。


 だけど、別の世界から来ましたなんて、信じてくれるだろうか。下手にウソでも付けば後が怖いし、横にいるフェミルもなんとなくだが嘘を見抜きそうな気がする。バレた瞬間、頭にサックリ槍でも刺さってそうだ。

 本当のことを言うか。


     *


「……なるほど、どうりで魂の色が異なる訳だ。別の世界から来たのか」

「まぁ、自分でも信じがたいですけど」

「ふむぅ」とエリシアさんは考える。フェミルも黙ったままこちらを見つめているようにみえる。さりげなく目を逸らされたのはちょっと傷ついたけど、人見知りだから仕方ないか。


「それで、ヴェノスの肉体に宿ったというわけか」

「まぁ、そうなるんでしょうかね」

 意外と話を飲み込んでくれた。よかった、魔法や剣が主流の異世界でも通じてくれて。


「目が覚めた場所が死体の山が詰められた焼却場……インセル収容所には処刑した罪人の遺体を処理する施設があるのだが、やはり死んだ後にメルストの魂が入ったというわけか。それも、別世界から。中々興味深い」

「他の世界から魂が来ることってそうないんですか?」

「まったくないわけじゃない。珍しいことに変わりはないが、死体に魂が宿って蘇るケースは初めて聞いた」

「そうなんですか」


 この世界史上初の蘇生を成し遂げたということか。

 それにしても、焼却される前でよかった。


「……ん? 13年前?」

 俺の疑念を抱いた呟きは聞いてなかったのか、思い返しながらエリシアさんは言う。


「それに、ひとつ気になったが……収容所で見たときのあいつは、老人だった。ジェイクの見せた手配書でやっと気づいたんだが、ヴェノスの若い頃と一緒なんだ、おまえの姿は」

「……まさか若返りとか?」

「だとしたら、死んでいる間に若返ったということになるぞ」


 死体が若返るってあるのかそんなこと。細胞死んでるわけだし、若返りする不死身さに定評のあるベニクラゲよりも不可思議だぞ。……細胞やDNAより単純なプロセスでも働いていたのか?


「ふぁ……」

 というかフェミルがもはや空気なんですけど。慎ましくあくびしているんですけど。つまらなかったら別にどっか行っててもいいんだよ? なんで今こっち睨んだの。なんでもいいけど家の中だし兜ぐらい外そ?


「ヴェノスって13年前に死んだんですか?」

「ああ、電気処刑されて、電気椅子ごとガス室に十年以上置き続けたとそこの所長から聞いた」


 えげつねぇ……そういや、俺が目覚めたときイスに座っていたな。あれ電気椅子だったのかよ。


「銃殺や絞首、薬殺でも死ななかった肉体をじっくり殺し続けて細胞を二度と生き返らせないようにしたとか」


 不死身っぽさは生前からあったのね。あ、そう考えたら不死身も便利じゃなさそう。なんども死刑執行するツラさは想像を絶するだろうな。

 13年前に死んだのが本当なら、もう身体は腐ってる。だけど、俺の魂がここに入ってもなお、普通の人と変わらない姿をしているのだから、やっぱりただの肉体じゃないんだな。


「しかし、そのような経緯がどうしておきたんだろうな。なにか理由とか、未練とかあるか?」


 少なくとも未練はない。エリシアさんの風呂上がり姿を見た時点でもう前世の思い残すことは完全撤廃された。それに、この異世界なら俺がちゃんと生きていける可能性があると信じてることだし。

「いえ、何も」ときりっとした表情で答える。


「そうか……私が思うに、ヴェノスは世間の風評通り、術式の才能はなくとも錬金術という体裁で得体のしれないことをやっていた奴だ。なにかしらの企みあって、おまえという魂がここにきたのかもしれん」


 自分が死んだことや俺が異世界に転生したことが仮にヴェノスの計画の内だとしたら、とんでもない天才じゃないか。いや、もう狂人の域か。神の所業だろそれ。

 なんでそんなめんどくさいことしたのかは知らないけど。


「……宣告通りになった」

 違う声。エリシアさんではなく、フェミルが言ったのか。


「宣告?」

 俺が首を傾げると、思い出したのかエリシアさんは、


「処刑場にいた父から聞いたことだが、執行寸前にヴェノスが奇妙なことを言ったんだ。『私はまた甦る』と」


「ちょっ、それって――」

「ああ、まさに彼の思惑通りだということだ。ただ、魂の方はそのままあの世へ行ったんだろうがな」


 唖然としてしまった。「それで一時期は国中で騒がれたもんだよ」とエリシアさんは言う。


「だから、これ以上の被害が及ばない、ためにも……」


 右手に槍を召喚させちゃったよこの娘。見るからに聖槍じゃんそれ。ヤる気満々ですね。


「フェミル、よせ。今はもうヴェノスじゃない。肝心の奴の魂がないんだ、あったかもしれない計画も失敗に終わったよ」

「……」


 シュンッ、と槍を光と共に消滅させたフェミルは、立ち上がりかけた姿勢からすとんと椅子に腰を降ろす。「こほん」とかわいらしいせき払いをひとつしたエリシアさんは改めるように言う。


「ま、なんにしろ、今日からここに住む以上、ルーアンの町の一員にして、家族だ。よろしく、メルスト」


 そう言い、微笑むエリシアさん。「かっ、家族?」とエリシアさんの笑顔に対し、あっけにとられたように言ったのはフェミルだった。こいつと? みたいな指で俺を指すんじゃない。


「当然だ。この家もこれから賑やかになりそうだな。楽しみだよ」

「やっぱり先生、この男のこと気に入っていますよね。というよりはかなり――」

「とにかく! これからよろしく頼むぞ、メルスト」

 紛らわしたエリシアはぎこちない声で話を締めた。「ほら、フェミルも!」といわれた彼女も、師の様子を見ては「……ようこそこの世界へ」と、全然歓迎してなさそうな声色でぽつりと言った。何度も思うけど、兜被ってて暑くないのかな。

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