2話 思惑
2話目です。
今日の魔法の鏡はどこか変だった。いつもより機械音がすごいし、声も小さい。昨日、マザーが鏡を落としてからである。割れはしなかったものの、カタコトの言葉で話すようになっていた。
「鏡よ。今日も変わらず美しいのはだ~れ?」
ウィーン ガチャッ
「ソレハ シラユキヒメ デス」
マザーの顔がみるみる強張った。そんなはずはない。あんな醜い子供がわたくしより美しいなんて。しかしこの鏡が嘘をつくはずがない。もしかして、皆白雪の方が綺麗だと思っているのだろうか。そう思うとふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「ベック、ベックはいるか?」
「はい、女王様」
狩猟のベックがマザーにひざまづくと、深く一礼した。
「白雪を殺しておいで」
「な、なぜです!?自分は狩猟です。人を殺すことが仕事ではありません」
「お前の家族がわたくしの手の内にあることをお忘れか?」
マザーがベックの耳元で囁くと、ベックの顔が青くなる。
「くっ!」
ベックは妻のセオリーと、娘のシャリーのことを思い出していた。今、2人はマザーの監視下にいる。逆らえば2人の命はないだろう。
「しかし相手はまだ7歳の子供です。女王様に逆らうことはありません。なにゆえ白雪姫を殺さなければならないのですか?」
マザーがベックの頬をぺしぺしと叩いた。びくりとするベックは生きた心地がしない。
「お前、わたくしと白雪とどちらが美しいと思う?」
どちらが?
というのはあきらかだ。どう考えたって、女王の方が顔は綺麗である。
「それは女王様、あなたです」
今までの鏡と同じことを言うベックに、マザーは怒りを覚え、彼をなぎ払った。
「嘘をつくな!お前はわたくしの前でだけそんなことを言い、本当は白雪の方が美しいとおもっているのだろう?」
「いえ、決してそのような」
吹き飛ばされたベックは体を起こして頭を振るう。と同時に、ある考えが頭をよぎった。
そうだ、白雪を遠くへ連れていこう。ここにいては危険だ。いつ女王に殺されるか分からない。
「分かりました。見事白雪姫を仕留めてきましょう」
「それでいい」
満足したマザーは満面の笑みを浮かべた。だがベックは白雪と仲がいい。嘘をつく可能性もある。
「殺した証拠として、白雪の心臓を持っておいで」
えっ。
そんなことをしなければいけないなら、ごまかすことができなくなってしまう。だか、家族のことを思ったベックは承諾するしかなかった。
白雪は城下町を飛びまわっていた。
「白雪ちゃんって、王女と同じ名前よね」
店屋のおばさんに尋ねられ、ギクリとした。だがまさか自分が王女だと知られることはないだろう。
「あはは。そうなの。まいっちゃうわよ。これちょうだいっ!」
適当に指差し買い物をすませる。
「白雪~、遊ぼうぜ~」
幼馴染のヨシュアにぶつかられた。こいつ、普通に誘えないのか。
ヨシュアは白雪が王女だと知ってはいたが、特別視することはなかった。そこが助かってはいるのだが。
「お前、上品さのかけらもないもんな。もうちょっとおしとやかにできねーのかよ」
むっ。
「余計なお世話よ。べーっだ」
その様子を見てふふふと笑うおばさん。
「相変わらず仲がいいわね。あんた達がしょって立つ未来が明るければいいんだけど」
今、マザーの言いなりになっている国王によって、治安はよくない。税の限りを尽くし、私腹を肥やしている。
「昔のルイス国王はちゃんとしてたんだけど。娘の白雪姫も何やってるんだか」
「・・・」
おばちゃんの言葉に何も言い返せない。それを見たヨシュアは白雪の背中を力を込めて叩いた。
キッとヨシュアを睨みつける。
「おいブス。くよくよ悩んでんじゃねーよ!なるようにしかなんねーんだから」
「おやおや、ヨシュアは大人だねぇ」
「生意気なだけよっ!」
でも、ヨシュアの言葉に元気づけられたのも確かだ。悩んでいてもどうにもならない。
「よし!」
自分にカツを入れる。
「お、ベックじゃん」
ヨシュアの指差した方を見るとベックがこちらを見ていた。あれ、心なしかやつれたように見える。
2人一緒に駆け寄ると、やっぱり体が細くなっていた。
「おいおい、ちゃんと食ってんのかよ。ひょろひょろだぜ」
ヨシュアの遠慮のない言葉にむっとした白雪は、ゴンと頭にげんこつを食らわせた。白雪を睨むヨシュア。そんな目で見たって怖くないもんっ。
「ああ、仕事が忙しくてね。それより白雪、話があるんだ」
ちょっと話が進んだ気がします。