月のあかり
ツアー先、小さなホテルの窓から見えたのはまばらな街の明かり。
そして、誇るように綺麗な満月だった。
ライブの打ち上げで久しぶりに呑んで眠くなっちゃったからホテルの自室に帰って寝たんだよね…
2時間も寝ていたんだな。
どうしようヤケに目が冴えてしまった。
みんなはもう寝ているのかな。
他の人は2次会にも行ったはずだから今、自室に戻り落ち着いている頃なのだろうか。それなら、邪魔はできないな。
そんなことを思いながら、暇つぶしがてら一階に向かう。
シンとしたホテルを歩くのは、悪いことをしているみたいでなんだかワクワクするな。
一階に着くと、案の定フロアの大きな窓ガラス一面に光が指している。
しかしそこには先客あり。
暗がりにある後ろ姿には見憶えがあった。
ソファに座り、月に手を伸ばしている彼は多分…
なんだか、変なところを目撃してしまったようだ。
悪戯ごころに「君の手は月に届きそう?」と尋ねる。
その声にピクッと反応し、彼が急いで手を引っ込める。
ふふ…見ちゃったもんね。
「ああ、北やん、どうしたの?こんな時間に…」
そう振り返って、はにかむ。
「そっちこそ。」
いや、特に意味は…
と、口ごもる彼の横顔を見つめる。
大丈夫。僕は気がついてるよ。
どうも上手く行かない作詩活動に、もう、疲れてしまったんだろう?
そうやって、少し疲れた顔を隠して彼は「綺麗だねぇ」と笑う。
きっと昔なら、その微かな表情の違いに気づかなかった。
辛い時にも君はいつもそうやって、笑って誤魔化すから。少し前なら周りに気付かれず、寄り添ってくれる人もいなくて1人で抱え込むことが多かっただろう。
僕もその1人だった。
でも…
今なら、分かるんだよ。
ずっと一緒にいるから。
彼の隣に座ると共に満月を見上げる。
「あぁ、そうだね。綺麗だ。
月がこんなに照らしてくれている。」
暫しの静寂。
彼がおもむろに立って窓ガラスに近づく。
そして、月明かりに両手を広げる。
「あのさ、こうするとさ…
この柔らかい光が胸の奥まで届いてくれそうじゃない?」
そう言って、目を細める。
僕も立ち上がり傍に行く。
月光に照らされた横顔は涙を我慢しているように見えた。
思わず、頭をくしゃりと撫でる。
彼はニッと笑って見せ、少し俯く。
大丈夫。大丈夫だよ。
「たとえ時が経ち、この満月が姿を消してしまっても…大丈夫。
この月光が君を守ってくれるから。そうなれば、君は無敵だろう。」
満月を見上げながらそう笑いかけると
僕の手を乗せたままコクコクと頷く。
お互いの息が、心臓の音が、聞こえそうなくらい静かに落ち着いたこの場所。
そして今確かに、僕たちの心はこの満月のように光で満たされた。
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