四十八幕目 組隊と腰巻きとややこしい矢立て
題名のとおり、ややこしいです。
矢立てと付く品物ご存じですか?
そろそろ、就寝時ですか、忍器と忍術を秘め事にしてから、奥の部屋に移動する。
早彩ちゃんは、迷霧ちゃんの人形を見たがったけど、夜も遅いから、また今度ね。
ひめのが風の精霊魔道による、風の結界を提案してきたので、脇本陣に用心の為に風結界を張らす。
四つの部屋の内、一番広い部屋を七人の寝床にする。
自分と椿は、隣の少し小さい部屋です。
そりゃ、そうでしょ。襖一枚とは言え、違う部屋でしょ。どうせ、迷霧ちゃんが聞き耳をたてるんだろうけど。
迷霧ちゃんは、好奇心が強いが、嫉妬深いところもあるからな。
「布団は一人で寝ればいいさ」
「宜しいので、凪様」
真風は、固いからな。
「我は一人だと寂しゅう御座います」
末っ子の早彩ちゃんは、甘えん坊だな。
「凪様は、御姉さん(椿)とお楽しみなので、我と寝ましょうや」
迷霧ちゃん!確かに楽しむけど・・
「まあ、はしたなや」
早彩ちゃんは、昨夜体験したでしょ。
何だかんだと、迷霧ちゃんを大人しくさせて、皆が布団を敷き始める。
その間に、毎晩の儀式になってしまった、二つの祝詞をあげる。
やっぱり無反応だ。
エッ!
今微かに聴こえた!二つ目の守護神の祝詞で!
駄目だ、何も聴こえない。もう一度祝詞をあげる、何も聴こえない。さっきの音は、別の何かかな?
『おい。さっき、微かだが何かの気配がしたぞ、かなり遠くだが、祝詞で動いたに感じたぞ』
草犬君も、そう感じたんだ。
ふむ。娘達が自分を不安そうに、自分を見ている。
「気のせいかもしれないから、寝よう」
娘達を布団に入れさせるが、いつの間にか迷霧ちゃんが早彩ちゃんを連れて、一番部屋の襖に近い布団に陣取っていた。素早いな。
聞き耳をたてる気満々だな。
椿と一緒に、奥の部屋の襖を閉めた。
翌朝、隣で寝た椿と、襖の向こうで聞き耳をしていた、迷霧ちゃんから、自分が魘されていたと報告があった。
見た夢が原因か、みりあに関する夢だった。
勘が告げたのは、この夢の事だったのかな?
まあ、椿には芽出隊から助けもらった、お礼をたっぷりとしけど。
中松さんの言付けで、今日も全員が野袴姿だ。
城からの朝食をすませる、皆で陣に付いて話す。
自分の提案は、備(チーム)を二つに別ける。
普段の配置は。
寿組
前衛
琥珀・炎・椿
中衛
迷霧・みりあ・凪(組長)
後衛
早彩・真風・ひめの(副組長)
信微組
前衛
椿・凪(組長)
中衛
迷霧・みりあ(副組長)
後衛
早彩
幸隊
前衛
琥珀・炎(副隊長)
中衛
真風
後衛
ひめの(隊長)
チーム名は、自分がつけた。皆の反応は、微妙?
幸隊の中衛の真風は大変だと思うが、頑張ってもらいましょう。
炎を幸隊の副隊長にしたのは、唐五三人娘が危な絵の時の様に、暴走防止の為。
みりあを信微組の副組長にしたのは、前衛より全体を見渡せると考えたからだ。
話しが終わると中松さん登場。
グッドタイミング。中松さんが来て、城に案内された、中松さん講座開始です。
「女人の小袖は、古着は御一人三着お選び下さい。奴隷商のからので、四着ならば何とかなるかと。
野袴は、阪本屋で作られた、二方を除けば、二着づつ作れるかと。
肌襦袢と腰巻きを三着づつ支度します。足袋も支度します。
奴隷身分ですが、護り人の奴隷なので、足袋は履けます。腰巻きの色は朱になるかと」
「身分によって、足袋が履けたり、腰巻きの色が変わるんだ」
「主の身分や仕事で変わりますね。
護り人は山に入ったり、荒事が仕事で御座いますから、足袋は入り用かと。
腰巻きは武家は白で、市井(人が集まっている所・巷)は朱が多いですね。土地によって色は変わります。
妾は見たことはありませんが、腰巻きが黄色、浅葱色、緋色(やや黄色ある鮮やかな赤)の土地もあると、聞き及びます」
中松さんの講座は、昨日ぶりだ。
「凪様、白い腰巻きは、堅気のおなごの意も御座います。
遊郭の遊女の姉様方、玄人の方々は、朱の腰巻きで御座います。
元は市井の者も白い腰巻きで御座いましたが、おつきのもの(生理)が目立たない色、朱が好まれる様に成りました。
土地によって変わりまするが」
迷霧ちゃんが小声で、解説してくれた。
護り人の札を首に吊るす為の紐も用意してくれた。
紐は八色、自分の分も入れて九本ある。
娘達の札は魔道力を込めないと、見た目では判別できないから、紐の色で判別する為だ。
紐をよく見ると、形が丸い組み紐だった。丈夫そうだ。
組み紐は三種類あって、紐が丸い組み紐なので、丸打ち紐、または丸組だと炎が教えてくれた。
後の二つは、四角の角打ち紐・角組。平べったい平打ち紐・平組がある。
三つの組も、丸台・平台。四ッ組・唐組と様々な種類があるとのこと。炎講座でした。
娘達が組紐の色を選び始める。
自分の札は大きいから、一目で解るので、紐の色は黒になったが、迷霧ちゃんが自分と同じ黒の紐を素早く取った。
「凪様とお揃いになりました」
自慢気の迷霧ちゃんだが、ひめのの視線が怖いぞ。
迷霧 ・黒色
ひめの・桃色
真風 ・柿色
琥珀 ・緑色
炎 ・茶色
椿 ・藍色
みりあ・黄色
早彩 ・紐色
次は小袖だ、古着だとの話しだったが、状態は悪くない。
小袖は袖口が小さく、衿元が黒く裾が短い。
迷霧ちゃんによれば、大店の近所に古着屋がある事が多く、大店が新品を購入して、主人達が着古した着衣を、近所の古着屋に売却して、其を仕立て直し市井の者に売るそうだ。リサイクル社会が出来てるな。
娘達は、ワイワイやりながら自分にあった小袖に帯を選ぶが、女の子品物選びは、何処の世界でも時間がかかるな〜。
「帳面、筆とやたては要りようで」
「中松さん。やたては何です」
「凪様はご存知ないですか。
筆の入れ物で、墨壺が付いてます。
墨汁を染み込ませた、綿か艾を墨壺を入れて、直ぐに書ける品です。
筆と墨汁の入れ物で、持ち歩け書ける品です」
中松さん、やたては筆箱?携帯筆記具?どれなの?
中松さんによれば、本来の名は矢立ての硯で略して、矢立・矢立て・と書く。竹製と木製に鉄製があり、様々な形状があるとのこと。
ひめのが因みにと、教えてくれたのが、矢立・矢立て・矢立箱・矢立て箱。
弓具で矢を立てて保管しする箱があるとのこと。
他に矢を入れて、携帯する入れ物の名が、矢立・矢立て・矢筒・箙・靫・靱
靭・空穂
胡禄=やなぐい=やなぐひ=ころく とも読む。
矢壺・尻籠・矢籠の三つは、しこ と読む。あらまー!ややこしいー!
何で矢の携帯入れ物の名が、こんなに沢山有るんだ。ややこし過ぎるは!!
矢立てが、何で三種類の物の名になる!
携帯筆記具に矢の箱、携帯の矢の入れ物まで、矢立てばっかし!
御公儀は何をしている!此こそ統一しろ!ややこしい!
ひめの達は、矢の入れ物が必要だから、後で仲間内の名を統一しよう。
自分、ひめの、真風、椿、みりあ、迷霧ちゃん、早彩ちゃんの七人が帳面と筆の矢立てを欲しがった。OKみたい。
用意された筆の矢立ては、竹製の棒状で、先端部から紐が二本付けてあり、一本の紐の先には小さな丸い桶が付いている。
丸い桶は蓋が外せて、桶の中に綿か艾を入れて、綿に墨汁を染み込ませる。
柄の部分が竹筒で底が開き、筆の出し入れが出来る。
もう一本の紐で帯や入れ物に結ぶ。
墨汁が染みを込ませた綿に、筆をつければ直ぐに書ける優れ物。
矢立は根付け (現在のキャラクターストラップに近い滑り止め・留め具)で帯の間に挟み付けたりするが、自分達は戦闘が前提だから、邪魔になるから帯に付けるのはNGなんだって。もう一本の紐は今は不必要です。
其れに奴隷身分は、贅沢品の根付けはNGだって。
そう言えば、迷霧ちゃんの印籠にも紐が付いていて、根本の丸い留め具に百合の華が彫ってあったな。尼と商人や薬師の服装のみ付けると言ってたが、身分で決まってるのか。
忍器と忍術を覚えるので必死だったからな。根付けまで気が付かなかった。
忍器、六具の石筆の話し時に、筆の入った鉄製のパイプ形の入れ物を見たが、筆箱と思って聴かなかった。あれも矢立て?
帳面は時代劇で見る、古い装丁の本の感じがした。
筆の矢立て用の墨汁も、竹筒二本が用意された。
娘達と話す。筆の入れ物は矢立て。矢の箱は矢立て箱に決める。
矢の携帯入れ物は、唐五は靭で、菜山は矢壺が一般的な呼び名とのこと。
矢の携帯入れ物は自分が解り易い、矢筒に強引だが決定する。
早彩ちゃんが因みにと、矢壺は矢坪とも書き、両方とも、やつぼ と読む。
意味は矢を射るときに狙いを定める所。矢が刺さる所。 矢所 とも。
矢ばっかし!覚えきれないよ!助けて!
中松さんから、せっかく別式女に登録したのだからと、二着づつなら、男袴を作れる許しがでたと報告がきた。
矢ばっかしで疲れてだが、元気がでた!
嬉しいサプライズです。
遂に来ました!別式女!
美少女の男袴姿!
目指せ中沢 琴様!
皆、期待してます!
矢立ての硯は、必要だったので。
ついでに、矢の携帯入れ物の名を矢筒に統一したかったので。
組紐は詳しくは、解説しないかな?
もしかしたら、迷霧ちゃんが行商するかも?
小袖の衿元が黒いのは、幕末ですが、異世界ですから。
お読み下さり、有り難う御座います。
参考文献
絵でみる 江戸の女子図鑑
善養寺 ススム 文・絵
江戸人文研究会 編
廣済堂出版
女子のためのお江戸案内 恋とおしゃれと生き方と
堀江 宏樹 著
廣済堂出版




