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冬の童話祭2013参加作品

怠け者の幸せ

作者: 城田寺 皓

 あるところに、怠け者の男がいた。

 村一番の怠け者である彼は、いつもごろごろ寝てばかり。てんでやる気というものがないため、ろくに働きもしなかった。

 そのせいですでに田んぼが干上がってるにもかかわらず、水を引くのもめんどくさい。

(ああ、俺の田んぼに誰か水を引いてくれないだろうか)

 寝そべりながら、男はそんなことを考えていた。

 すると突然、何やら急に人の騒ぐ声がする。

 何事かと外に出て男が話を聞くと、どうやら溜め池の(せき)が壊れたのだそうだ。

 幸い大事には至らず、被害らしい被害は一切ないのだと言う。

 ただ、その時溢れた水がなんと男の田んぼへと流れ込んだらしい。

 これには男も驚いたが、それ以上に働かずに済んだのだから嬉しいのなんの。

 これは儲けたと笑みを浮かべ、男は再び怠け始めた。

 やがて日も暮れ、そろそろ飯時になろうという時間帯。腹は当然減っているが、男は自分の食べるものをこしらえるのさえめんどくさい。

(ああ、誰か俺のために飯をこしらえてくれたらなあ)

 横になりながら、男はぼんやりと考えていた。

 すると男の家の戸が、コンコンと叩かれる。

 男が急な来客を迎えると、そこには隣に住む若い女がいた。

 どうやら芋をふかしすぎてしまったらしく、折角だからおすそ分けに来たのだと言う。

 これには男も大喜びで礼を言い受け取ると、あっという間にぺろりとたいらげてしまった。

「考えたことがこうも現実になるとは。今日はずいぶんとついてる一日だ」

 男は満足げに腹をさすりながら、そのまま床へとついた。

 しかし、彼の幸運はこれで終わらない。

 それからというもの、男が考えることは何でも現実になっていった。

 仕事がしたくなければ代わりに誰かがやり、金が欲しければ自然と舞い込む。

 怠け者の男にとって、これ以上に幸運で幸福なことはない。

「怠け者の俺にこんな不思議な力を授けて下さるとは、神様も粋なことをするもんだ」


 男が不思議な力を手に入れて、しばらく経ったある日のこと。男は村から離れた町へとくり出していた。

 思ったことがなんでも叶うのだ。もはや彼が働くことなどありえない。

 ここ最近は仕事をせず、町に来てはぶらぶらするのが男の楽しみだった。

 通りをのんきに歩いては、しげしげと色んなものを見て回る。そんな中、男は一人の女とすれ違った。

 身なりが整って、さらに身分も高そうで、なにより器量が良く美しい女に、その場の誰もが目を奪われる。

 女の後ろ姿を追う男の顔は、緩みきっていた。

(ああ、あんな女と結婚出来たら俺の人生は幸せだろうな)

 その翌日、男の元に一人の従者が訪れる。

 聞くところによると、どうやらあの女が自分に一目惚れをしたらしく、是非結婚をしたいと申し出たそうだ。

 無論、男に断る理由はない。それからとんとん拍子に話が進み、ついに男は彼女との結婚当日を迎えた。

 多くの人に囲まれ、祝福される男はまさに幸せの絶頂にいた。

(ああ、俺はなんて幸せなんだ。幸せすぎて死んでしまいそうだ)

 すると突然、男の隣にいた女が甲高い悲鳴を上げた。

 何の前触れもなくぱたりと倒れた男は、幸せそうな顔のまま息を引き取っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こんばんは。タケノコです。  本作を拝読しました。なんとも羨ましい能力です。この不思議な力をもってすればどんな逆境も乗り越え幸せな人生をおくれますね。しかし油断すると大惨事に陥りますよ…
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