怠け者の幸せ
あるところに、怠け者の男がいた。
村一番の怠け者である彼は、いつもごろごろ寝てばかり。てんでやる気というものがないため、ろくに働きもしなかった。
そのせいですでに田んぼが干上がってるにもかかわらず、水を引くのもめんどくさい。
(ああ、俺の田んぼに誰か水を引いてくれないだろうか)
寝そべりながら、男はそんなことを考えていた。
すると突然、何やら急に人の騒ぐ声がする。
何事かと外に出て男が話を聞くと、どうやら溜め池の堰が壊れたのだそうだ。
幸い大事には至らず、被害らしい被害は一切ないのだと言う。
ただ、その時溢れた水がなんと男の田んぼへと流れ込んだらしい。
これには男も驚いたが、それ以上に働かずに済んだのだから嬉しいのなんの。
これは儲けたと笑みを浮かべ、男は再び怠け始めた。
やがて日も暮れ、そろそろ飯時になろうという時間帯。腹は当然減っているが、男は自分の食べるものをこしらえるのさえめんどくさい。
(ああ、誰か俺のために飯をこしらえてくれたらなあ)
横になりながら、男はぼんやりと考えていた。
すると男の家の戸が、コンコンと叩かれる。
男が急な来客を迎えると、そこには隣に住む若い女がいた。
どうやら芋をふかしすぎてしまったらしく、折角だからおすそ分けに来たのだと言う。
これには男も大喜びで礼を言い受け取ると、あっという間にぺろりとたいらげてしまった。
「考えたことがこうも現実になるとは。今日はずいぶんとついてる一日だ」
男は満足げに腹をさすりながら、そのまま床へとついた。
しかし、彼の幸運はこれで終わらない。
それからというもの、男が考えることは何でも現実になっていった。
仕事がしたくなければ代わりに誰かがやり、金が欲しければ自然と舞い込む。
怠け者の男にとって、これ以上に幸運で幸福なことはない。
「怠け者の俺にこんな不思議な力を授けて下さるとは、神様も粋なことをするもんだ」
男が不思議な力を手に入れて、しばらく経ったある日のこと。男は村から離れた町へとくり出していた。
思ったことがなんでも叶うのだ。もはや彼が働くことなどありえない。
ここ最近は仕事をせず、町に来てはぶらぶらするのが男の楽しみだった。
通りをのんきに歩いては、しげしげと色んなものを見て回る。そんな中、男は一人の女とすれ違った。
身なりが整って、さらに身分も高そうで、なにより器量が良く美しい女に、その場の誰もが目を奪われる。
女の後ろ姿を追う男の顔は、緩みきっていた。
(ああ、あんな女と結婚出来たら俺の人生は幸せだろうな)
その翌日、男の元に一人の従者が訪れる。
聞くところによると、どうやらあの女が自分に一目惚れをしたらしく、是非結婚をしたいと申し出たそうだ。
無論、男に断る理由はない。それからとんとん拍子に話が進み、ついに男は彼女との結婚当日を迎えた。
多くの人に囲まれ、祝福される男はまさに幸せの絶頂にいた。
(ああ、俺はなんて幸せなんだ。幸せすぎて死んでしまいそうだ)
すると突然、男の隣にいた女が甲高い悲鳴を上げた。
何の前触れもなくぱたりと倒れた男は、幸せそうな顔のまま息を引き取っていた。