5・原因
静の部屋は、レースで溢れていた。
間取りは亮介の部屋と同じだが、ベッドや椅子、クッションなど、いたる所に白いレースが目に付いた。
二人掛けのローソファに並んで座り、コーヒーセットを前に置いて、アリアはコーヒーを飲みながら静が泣き止むのをじっと待った。
「……私って、弟にも劣る魅力しかないのかしら」
静が話せる状態になるまでは少し時間がかかったが、ようやく鼻声で呟いた。
「君は充分魅力的な女の子だよ」
「……」
「黙っていないで、思ったことははっきり言ったほうがいい」
「……亮介に何かした?」
「いや」
こちらからは何もしていない。
「じゃあ、いいの……」
静は歯切れが悪く、何か言いたそうだ。
「そういうの、良くないな。自分の気持ちを抑えないで言ってごらん」
「笑わない? 変な同情もしないって約束してくれる?」
「言っていることが良くわからないけれど、真面目に聞く」
「亮介のこと、どう思う?」
「……人懐っこいね、少し甘えん坊かな」
静は亮介の性癖を知っているのだろうかと疑問に思いながらアリアは答えた。
「……亮介、女の子みたいに綺麗でしょ?」
「そうだね」
「今まで私が付き合った男の子はみんな、家に連れて来て亮介に会うと……」
静は言いづらそうに、アリアの顔をちらりと見て眼を伏せた。
「会うと、亮介にキスを迫ったり、それ以上のことをしようとしたり……私、見てしまったことがあるの」
話しながら静は赤面している。
「待って、静の彼氏が亮介君に?」
「ええ、だから亮介のことを考えると可哀想で。そんな人ばかりだったので……私、最近男性不信気味なんです」
何か少し違っている。もし、そんなことが続いたのなら、静の彼氏が来たら亮介は当然警戒するだろう。なのに、アリアを部屋へ案内しているのだ。
「亮介は、私に気を使って私の彼氏の前ではいつもあんな風にはしゃいで」
そうだろうか。アリアにはどうみても亮介が誘っているようにしか思えなかった。
「静、心配しなくても大丈夫。今、僕は君の恋人だから絶対に君を裏切らない。誠実な彼氏役を演じている」
事情がよく分からないため、静が言ったことを否定せず、とりあえず安心させようと、アリアは静の手を両手で包みじっと見つめて言った。
「うん……」
しかし、静は浮かない返事をした。
「僕が信じられない?」
「そんなことない、違うの……」
静はまだ俯いてはいたが、さっきとは違いはにかんでいるように見える。
「ほら、またそうやってはっきり言わない。静の悪い癖だ。そうそう、僕の好みははっきり自分の考えを持っている元気な女の子。
って、そんなことどうでもいいか」
アリアは静を安心させようと、極力明るく振舞った。そうしてアリアが話しかけているうちに、静に少しずつ笑顔が戻った。
その後、二人は口裏合わせのための簡単な打ち合わせをすると、アリアは両親が帰宅してくる前に花井家を出た。