16・友人
「矢萩さん、いい度胸ね。学校にはもう来ないかと思った」
柚子は校門前で、静にトンと肩を叩かれ、「なんで?」と、きょとんとした。
「あの夜、大変だったんだから。父も母もおろおろするし、警察が来て、家に帰れたのは夜中だったわ」
「何かあったの?」
「盗まれたのよ」
「ええっ! 家に泥棒が入ったの?」
柚子は大袈裟なくらい驚いた。
「隠さなくてもいいの、誰にも言わないから。……お兄さんは本当に泥棒だったんでしょ? 警察は手がかりがなく、手馴れたプロの犯行だって言っていたわ。矢萩さんて、凄い生活しているのね」
柚子の耳元でひそひそ話しをする静は、何故か目を輝かせている。やはりスリルに飢えているのか、空想の世界に浸っているようだ。
「なに失礼なこと言ってるの、泥棒だなんて。あれは、冗談だって言ったじゃない」
慌てるでもなく、堂々とそう言い切った柚子を見て、静は少し自信をなくしたようで、声のトーンが落ちた。
「……矢萩さんを困らせる気はないけれど。一つだけお願いしていい?」
「なによ」
「お兄さんに、伝えてほしいの。ありがとうって。それと、亮介の次に好きですって」
「欲張りね」
「ふふ」
静は幸せ一杯という顔をしている。きっと、両親にもうまく話ができたのだろう。
「ねぇ、気になっていたんだけれど、この前会ったお兄さんの彼女も、もしかして泥棒なの?」
「だから違うって言ったじゃない」
柚子は半ばうんざりして、そう答えた。
静は今度は突拍子もないことを言い出した。
「矢萩さんも、お兄さんと血が繋がっていないって言っていたじゃない? もしかして、お兄さんのことが好きなんでしょ。頑張ってあの派手な年上の彼女から奪っちゃいなさいよ」
さすがの柚子も、想像力がたくましすぎる静に閉口した。
「あのねえ、静。いい加減にして。そんなことあるわけないでしょ」
「矢萩さんの態度を見ていたら分かるわ。そうやって自分の気持ちを抑えていたら、良いことないわよ」
そんな風に見えるのか。こうなったらもう何を言っても無駄だろう。柚子は苦笑いした。
「いつでも協力するからね!」
ナチュラルハイだ。きっと今の静には、周りの者全てに春が来ているように見えるに違いない。
柚子に友達ができたのだった。