12・真相
「十無、ちょっと黙って」と、アリアは強い口調で静止した。それからアリアは亮介の前へ立ち、「……君は、嘘をついているね?」と、目を見て問いただした。
「僕は本気です」
「そうかな。初めて僕とここであった時も、偶然ではないね? 君はずっとお姉さんをつけていた。今回も多分。お姉さんの交際相手を追い払いたかった、そういうことだろう。それでこんな馬鹿な真似を……お姉さんが可哀想だろう? 何か恨みでもあるのか?」
アリアは一気に思っていたことを話した。
「……偉そうなことを言って、本当に姉貴を幸せに出来るのか? 今までの奴も、静の外見だけで付き合っていて、俺がちょっと気のある素振りを見せただけで、直ぐその気になったんだ。お前だってどうせ静の外見で……そんな奴に静は渡さない!」
甘く囁くように話していた亮介は一変し、美しい顔を歪めて激しくアリアを非難した。
綺麗な顔をした少年は、義姉に彼氏ができるたびに、色仕掛け? で男達を誘惑し、それを義姉に発見させては壊していたのだ。そして、今までずっとその愚行を繰り返していたのだった。
今回も、その手で邪魔者のアリアを片づけようと考えたが、今までの男達なら直ぐ乗ってくるのにアリアには通用せず、慌てたようだ。
「静は君のものではないだろう? ……やっと本音が出たね。君、シスコンなんだ」
「違う! 俺は……。静に始めて会ったときから、好きだった」
うめくようにそう言った亮介は、一人の女性を思って恋愛に苦悩する男の顔をしていた。彼は義姉が好きなのだ。だがその手段は、独占欲を強行に満たすための、相手の気持ちを考えない稚拙な行動だ。義姉はそのことを知らないのだ。
「……それは、歪んだ愛情表現だ。じゃあ何故、静に素直に告白しない?」
「だって、静は男と認めてくれないんだ。いつまでも俺のことを子ども扱いして」
いつまでも子ども扱い。
何処かで聞いたようなせりふだなと思いながら、アリアは軽く相槌をうって聞いていた。
「じゃあ、協力してあげようか?」
「え? 付き合っているんじゃないの?」
「実は違う。騙してごめん」
素直にそう白状した後、アリアは誕生日当日に思いを告白することを勧め、その手助けをすることを約束した。その途端、亮介の表情は明るくなった。
「おい、お前らだけで盛り上がるな。わざわざ柚子に呼び出されたんだぞ、訳を話せ」
それまでじっと我慢して二人の会話を聞いていた十無は、面白くなさそうに口を挟んだ。
「あんた刑事だったな。この人って何者か知っているんだろ?」
亮介が十無に尋ねたが「そんなことは君には関係ない」と、アリアが横槍を入れた。
「俺もよく女のようだといわれるけれど、ソウイチ……アリアさんて、なんていうか、色っぽいよな。俺、男でもアリアさんならオッケーだな、キスもスッゲー上手いし」
「亮介君!」
アリアが顔を茹蛸のように真っ赤にして怒鳴ると、亮介は悪戯っぽくウインクして「じゃあ協力頼むよ!」と言って、走り去った。
「十無、ところで柚子になんて言われて来たの?」
「いや、その……若い男に無理矢理連れて行かれたって」
十無は言いづらいのか、頭をかきながら声が小さくなった。
「違うわ、アリアを襲ったことのある男がまた来て、無理矢理連れて行かれたから、アリアの貞操が危ないって言ったの」
どうなったのか様子を伺いに来た柚子が、十無の後ろからひょっこりと顔を出して訂正した。
「柚子! 何てことを! 刑事さんもそんなでたらめを真に受けるな」
怒りと恥ずかしさでアリアの顔は一層赤くなった。
「嘘じゃないわ。今だって危なかったじゃない」
「ずっと見ていたのか」
アリアの顔が益々赤くなった。
「だって、こんなチビの女の子が出て行っても止められないし」
柚子は面白がっているようだ。
「だけどねえ、アリアって凄いのね。今度試しにどんな具合か、私もキスしてもらおうかしら? それってやっぱり、ヒロの直伝?」
「柚子!」
「あっ、アリア図星でしょう?」
柚子はニヤニヤしている。
「もう、そんなことはどうでもいいから!」
アリアは怒鳴るしかなかった。確かにヒロに何度かキスはされたことがあったが……。
しかし、一番顔を赤くしていたのは、二人のやり取りを聞いていた十無だった。