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アヴァンジールへGO! ~3~

 更新が遅くなって申し訳ありません。今回も楽しんでいただけると幸いです。

 ちなみに今回は《 》が心の中の声、『 』が異世界語、「 」が現地の言葉となっております。ややこしくて申し訳ありませんが、話の進行上どうしても必要なことだとご理解ください。

 平和の御使いの召喚は、思いのほか時間が掛かるものだった。


 魔法陣は発動しているので術式が間違っているということはないのだろうが、どれほどフレンツルが呪文を唱えようとも魔法陣は銀色の輝きを放つばかりで、御使いが現れる気配はない。

 時間だけが無情に流れてゆき、大魔術師と称されるフレンツルの額からは大粒の汗が噴き出しはじめていた。


 国王であるバルドヴィンは決して暇ではない。放っておいても、次から次へと様々な問題が湧いて出てくるのだ。できることならこの場を立ち去り執務室に戻りたいが、魔法陣が光を放った状態で部屋の扉を開くことはできない。


 そんなことをすれば召喚が失敗するばかりか(正直それは失敗しても問題はないのだが)、魔法陣が暴発してしまうだろう。


 それを思うと、内心いらつきながらもその場に残るしかなかった。


 しかしその後1時間が過ぎても、変化は訪れない。


 さすがにここまでくると、普段は温厚な宰相ですらいらつきを見せはじめていた。


 それを感じ取ったフレンツルは、それこそ泣きながら古代語の呪文を唱える。


 戦乱の世を終結させるに足る力を持つ平和の御使いは、疲弊しきった世界を救うためにどうしても必要な存在なのだ。


 自分のためではなく、世界のために!


 フレンツルは願った。

 全身全霊を込め、彼自身の命をも捧げる覚悟で唯一神トゥーラに対して。


《平和の御使いを我らがもとへっ!》


 あらぬ限りの声でフレンツルが叫ぶと、突然。本当に突然、場の空気が揺らいだ。






 魔法陣から放たれていた銀色の輝きは黄金色に変わり、召喚を行っている大聖堂の祈りの間全体が虹色の光で溢れかえる。


 それと同時に感じたのは、恐ろしいほどの威圧感。禍々しい威圧感ではなく、神々しいまでの威圧感だった。


 輝きを増す黄金色に、誰もが目を閉じてしまう。


『とうちゃ~く♪』


 太陽が破裂してしまったのではないかと思うほどの光の中、目を開けられずにいる四人の鼓膜を聞いたこともない声が揺らし、それに合わせるように威圧感が霧散する。


 男には持ちえない、鈴を転がすような可憐な声音に誰もが驚きながら、声のする方に意識を集中させた。


『やっぱり召喚と言ったら魔法陣よねぇ。レトロな感じが最っ高!』


 魔物討伐後のガリアスでは滅多に見れなくなった魔法陣(それ)に、召喚に応じたレンカの視線は釘付けだ。


 人間が作り上げた魔法陣の中では最上級クラスの緻密な文様に、作成者の苦労が伺える。

 作成には年単位の期間を有しただろう。

 これで誰も召喚できなければ、泣きっ面に蜂である。


 召喚という他力本願な手段自体はあまり気に入らないが、召喚主と必死な声の理由がわかったことにすっきりする。


 レンカはすっきりついでに、異空間ではあえて口にしなかった串焼き肉を頬張った。


『冷めても美味しいなんて、この味、本物ね』


 その頃になると部屋全体を覆っていた輝きは、わずかな残光だけを残し落ち着きを取り戻していた。


 眩しさを感じなくなった四人が目を開けると、その視界にとてつもない美少女の姿が飛び込んでくる。


「く…黒、髪?」


 近衛将軍のハイドルフが驚きの声を上げた。


 それは彼らの生きる世界(アヴァンジール)で、どんな色にも染まらない唯一色とされる最も高貴な色であり、全世界に3人しか保有者のいない色なのだ。

 召喚された平和の御使いが高貴なる黒を纏っているとは、誰も想像していなかった。


 が、それ以上に彼らを驚かせたのは、御使いが年端もいかない少女だったことである。それはまさに想定外の事実だった。


「ハインツル」


 バルドヴィンが抑揚のない声で名を呼ぶと、呆然を通り越し愕然としていたハインツルは我に返り、その場で両膝を折って額が地に着く勢いで頭を垂れた。


「…疑いたくはないが、アレ…いや、あの少女がそちの言う御使いか?」


 美しい女を見慣れてきたバルドヴィンをもってしても、“あり得ない美貌”と認めざるを得ない少女に疑いの目を向けてしまう。


「それは……はい。私の錬成した魔法陣から出現されたのですから、平和の御使いに間違いはございません?」


 平伏したまま、疑問形を疑問形で返すという歯切れの悪い答え方をする。

 

「…そうか。そちがそう言うのなら、御使いに間違いないのだろうな。しかし……美しさはともかく、何とも豪快な娘だな」


 バルドヴィンたちの視線を気にするでもなく、串に刺さった肉を食する姿に本気で驚く。


 召喚される側がどのようにして送られてきたのかは当事者でないのでわからないが、突然、見も知らぬ場所へ送り込まれたであろう少女が平然と立食する姿は異様だった。


「この状況で食事ができるなど、よほど神経が図太いのか、あるいは阿呆かのどちらかであろうな」


 バルドヴィンの発言に、レンカの動きがピタリと止まる。


 ―――?


 平伏したままのフレンツルを除く3人が未知の生物を見るような目で自分を見つめているのを見返しながら、レンカは口にしていた肉を嚥下し、串焼きの包みをそっと床に置いた。

 そしてそのままフレンツルの脇をすり抜け、バルドヴィンの正面まで足を進める。


 近くに寄られると髪ばかりでなく、瞳の色まで黒いことがわかる。髪色はともかく、瞳まで黒い人間を見るのは彼も初めてだった。


「な、何だ?」


 普段のバルドヴィンからは聞かれるはずのない動揺を含んだ口調に、ハイドルフが慌てて身体を動かした。


 だがハイドルフが二人の間に割って入るよりも早く、レンカの細い腕がバルドヴィンに伸ばされる。


『他力本願にも自分の世界とは関係のない異世界から救世主を召喚しておいて、人のことを図太いだの阿呆だのあんた何様? もっと他に言うことはないの?』


 あえて言葉を合わせていないだけで、この世界に現れた瞬間からレンカはこの国の、いやこの世界で使用されているすべての言語を理解することができるのだ。


 レンカはバルドヴィンには理解できない異世界(オールディン)語で言いながら、その胸倉を掴み上げる。


 一見すると可憐な美少女だが、人であって人ならざる存在であるレンカの手をバルドヴィンは振りほどくことができない。


「なっ! 貴様っ、王に何をするっ!」


 ハイドルフが抜刀し剣先をレンカに向けるが、見えない壁に弾かれるように剣先が跳ね返ったかと思うと粉々に砕け散った。


 その様子に、皆が驚きに目を見張る。


『うるさいわよ、外野。別にこの俺様野郎を殺そうというわけじゃないんだから、黙って見てなさい』


 レンカは右手でバルドヴィンの胸倉を掴んだまま言うと、左手の人差し指で彼の額を突いた。

 途端、バルドヴィンの頭の中をふわりと風が通り抜ける。


《もしもーし、私の声、聞こえる? 聞こえるなら心の中で返事をすれば会話できるわよ、この俺様野郎》


《え? ……あ、ああ、声は聞こえるが、これはそなたの声か?》


《当たり前でしょう。今あんたの胸倉掴んでるのは私なんだから。ところで、どうしてこんな状況になっているのか理解できますか? 俺様改め異世界の王様》


 王を敬う雰囲気など一切存在しない口調だが、不思議とバルドヴィンに怒りは湧いてこない。


《いや。悪いが理解できぬ》


 どこか申し訳なさそうに答えるバルドヴィンに、レンカの怒りが急速に収まっていく。


《そうですか。では説明してあげましょう。俺様改め異世界の王様》


 くどい呼び名でバルドヴィンに語りかけるレンカに、彼は畏怖に近い感情を抱いた。


 彼の知る限り最も力の強い魔術師はフレンツルだが、その彼をもってしても言葉を口にせず会話を成り立たせることはできない。


 だが目の前の少女は、それを当たり前のことのようにやってのけているのだ。


 口にしていた言葉は理解できない言語だったが、頭の中で受け取る言葉は彼が理解できるように変換されている。

 どのような力を使えばそのようなことができるのかわからないが、少女がフレンツル以上の魔術を扱える存在であることはわかった。


《あなた、私のことを不当評価したでしょう? 図太いだの阿呆だの、失礼なことをおっしゃいましたよね》


 少女(レンカ)に鋭く睨まれ、その凍てつくほどの冷たい美貌(ひょうじょう)に本気で凍りつきそうになる。


《そ、それはすまなかった。そなたの人となりもわからぬうちに、失礼な発言をしたことを謝罪する》


 若くして王となって約10年。

 誰かに対して頭を下げることなどなかったが、少女に対しては考えるより先に頭が下がった。


 一方、あっさりと謝罪されたレンカは、


《まさかこんなにあっさり謝罪されるとは思わなかったわ。王様の割に偉ぶっていないのがいいわ。高感度急上昇って感じね》


《それは褒められたと喜んでよいのか?》


《そういうことかな。あなたが自らの非を認められないような愚王なら、私が直々に再教育を施してあげようかとも思ったけれど、その必要はないみたい。とりあえず魂核にも淀みはほとんど感じられないし、この部屋にいる皆さんも悪い人たちでないことはわかったわ》


 バルドヴィンの胸元から手を離して乱れた襟を直してやりながら、レンカは念話をやめて口を開いた。


「私は自分の気に入らない人間には協力しない性質(たち)だけど、王様(あなた)の素直さと召喚主の必死の呼び声に免じて話を聞いてあげることにするわ。あっ、でもその前にまずはお互いに自己紹介をしましょう。私はリディアーナ・オールディン。分かっているとは思うけれど、異世界人よ」


 突然、彼らと同じ言葉をしゃべりはじめたレンカに驚きつつ、バルドヴィンは頷いた。


「リディアーナ―――そなたにピッタリの美しい名だな。余はバルドヴィン・アウグストス・ファイン・グリュンタール。レドニア王国国王をつとめている。壁際にいるのが宰相のセアド・ベア・リィン・アジッチ。そなたが剣を砕いた男が近衛将軍のバウル・ハイドルフだ。そしてそなたを召喚したのがそこに膝をついている黒髪の男で、大魔術師長ゴットリーフ・フレンツルだ」


「えーっと、王様がバルで宰相がベア。近衛将軍がドルフで、召喚主が……」


 勝手な愛称をつけながら各人に目を向け、その顔を確認する。


 ここでようやくバルドヴィン以外の3人はレンカが黒髪黒目であることを知ることになったのだが、なぜかレンカは召喚主であるフレンツルに目を向けると言葉を詰まらせ、視線をゆっくりと顔から頭へと移動させていった。


『…すごい…キラキラのテカテカだわ……』


 再び意味不明の言葉を呟いて、フレンツル(の頭頂部)を凝視する。


「リディアーナ、どういたした?」


 不審そうに問うバルドヴィンを無視して、レンカはまっすぐにフレンツルの方へ進む。


「み、御使いさま?」


 わずかに声を震わせて見上げてくるフレンツルに、レンカはそれはそれは嬉しそうな笑みを浮かべたかと思うと、先ほどバルドヴィンに対して行った行為と同じようにフレンツルの頭に向けて手を伸ばした。


「ひっ、ひぃぃっ! おやめくださいぃぃぃ」


 フレンツルが絶望的な悲鳴を上げる中、レンカは彼の黒髪を掴んだかと思うと、そのまま彼の頭頂部から黒髪をひっこ抜いた。


「きゃー、思った通り鬘だったのね。ハゲだ、ハゲ。つるっぱげー♪ 召喚主のおじさま、ぜひ、貴方のことをハゲと呼ばせてください。つーか、呼ぶ。絶対呼ぶ。あなたは今この瞬間からハゲで決定よ」


 凍りつく男たちを尻目に、非情な言葉をフレンツルに向けたレンカはホーッホホホと異様な高笑いを部屋中に響かせるのだった。

中途半端な終わり方ですみません。続きはできるだけ早いうちにUPできるように努力します。

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