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アヴァンジールへGO! ~2~

前回のあとがきでレンカが飛びます!と書きましたが、実際に話を書いていくと予想もしていなかった展開になってしまいました。

一応、異世界に飛ぶんですけどね…ホント、ただ飛ぶだけであちらの方々とはまだ出会いません。

もしかしたら期待はずれな内容かもしれませんが、お読みいただけたら幸いです。

『う~ん、このお肉本当に美味しい』


 チラチラと遠慮がちな視線を感じながらも、食べ歩きをやめようとはせずレンカは串焼き肉に食いついていた。


 王宮では食べられない素朴かつ野性的な料理に舌鼓を打ちながら、レンカは1時間ほど前から脳裏に響く男の声に聞き耳を立てる。

 放っておけば諦めて静かになると思っていたが、予想外に男はしつこい。



“神よ。偉大なるトゥーラ神よ。どうか我らを憐れと思し召し、世界を平和へと導く御使いを我らがもとへお遣わしください。どうか、どうかっ、我らが神よっ”


 喉が切れてしまいそうなほどに大きく真摯な声だ。


 これまでにも何度かレンカにまで届いた異世界からの呼び声の中でも、トップ3に入るほど強い思念を感じる。

 それはつまり、レンカ以外の力ある存在に―――簡単に言うなら神々にも届くほどの真摯な声ということになる。


『誰でもいいから応えてやれよ! 私に声を届けられるってことは、それ相応の力を持った白い神官か魔術師の声なんだろうからさぁ』


 美少女顔の口元を肉汁で汚しながら、お姫様育ちとは思えない汚い言葉を心の中で呟く。


 するとそれに応えるように、祈りを捧げる男とは全く別の澄み切った声が彼女の脳裏に響いた。


『うーん。応えてあげたいのはやまやまだけど、正直僕の世界には御使いになれるほどの力を持ったコがいないんだよ』


『あ、うちもだよ。なんでだろ? 最近、力のある救世主が生まれないんだよな』


『そうそう。でも考えようによっては、そういう存在が生まれる必要がない世界が多いってことじゃない? これっていいことだよね?』


 声は素晴らしくいいのに、話している内容はどこぞの主婦の井戸端会議のようなのほほんとした雰囲気だ。そのあまりのギャップにレンカのこめかみがひくつく。


『わわわっ、ごめんレンカ。別に茶々を入れるつもりじゃなかったんだよ』


『同じく』


『そうそうそう! 何が言いたかったかというと、僕たちの世界には御使いとやらになれる人間は存在しないってことなんだ!』


 それに気付いたのか、声の主たちは慌てて自分たちの発言を取り繕いはじめた。


『ふぅん、そっかー。しっかしあんたたち神様のくせに、私たちに声を届けられるほどの神官の声を無視しようっての?』


 まったく異なる場所に存在するにもかかわらず、レンカに声を届けた神様たちの周囲に零度の風が纏わりつく。


『ひぃー、ごめんなさーい。まだまだ僕は未熟です。修行頑張りますから許してぇ』


『同じく、死ぬ気で修業しなおします。絶対死なないけど』


『僕もです! でもレンカ。僕たちはともかく、君、暇なんでしょ? だったら君が応えてあげたらいいんじゃないの?』


 む?


 レンカの歩みが止まる。


『平和の御使いを求めるってことは、その世界は相当に病んでるってことだよ。ガリアスを安定させた()の力をあっちでもう一度使えば、少しは暇がつぶれない?』


 むむぅ?


『それグッドアイデアだね。レンカってば、最近退屈でしかたがないからって時々ガリアスから抜け出して、生まれた世界(ちきゅう)に遊びに行ってるもんね。生まれた世界(ちきゅう)に行くのも、召喚に応えてどこかの異世界に行って人助けするのも別に変らないんじゃないの? なにより魂の修練にも繋がるし、一石二鳥だよ』


 心の琴線に触れる言葉にレンカは思考を巡らせた。


 頭の中に直接話しかけてくる連中の言う通り、最近暇を持て余しているのは事実だ。

 15年前に魔物討伐を成し遂げて以来、この世界(ガリアス)は平和を享受している。

 魔物の存在が忘れ去られた未来において人間同士の間で争いが起こる可能性はあるが、今は長く続いた脅威がなくなり人々は生を謳歌していた。


 救世主として召喚されたレンカにとっては満足のいく結果と言えるだろう。


 レンカは救世主であると同時に、ヒトを超えた存在―――ぶっちゃけ、神様の一員なのだ。

 なぜヒトとして生まれたの? という素朴な疑問はいずれ判明することがあるかもしれないが、とにかく只人(ただびと)ではないのである。


 ヒトという種族だけを特別扱いするつもりはないが、自分たちに似た姿に進化した彼らに神々が愛着を感じているのは確かだ。


 だからこそ、困った時の神頼みの質が高ければ呼びかけに応じることもあるし、世界を救うために力を貸してやることもある。


 基本的には自らがつくりだした世界に干渉するのが普通だが、レンカは様々な面で規格外の存在なので、自分が気に入った世界で好き放題しまくっているのだ。


『その気になってきたんじゃない? それにさぁ。召喚に応えてあっちに行っても、帰りたい時はいつでもガリアスだろうとチキューだろうと、レンカは好き勝手に行き来できるんだから問題ないでしょ?』


『うん、僕もそう思う。ま、人間じゃなくて女神様が召喚に応えるってどーよ? って気もするけど、召喚主にはレイカが女神様だなんてわかりはしないんだから、暇つぶしに行ってきたら?』


『絶対にいい暇つぶしになるよ。結果がどうなろうと、レンカが選んだ結論に誰も文句は言わないんだから、行ってきなよ』


 後押しするかのように言われて、ムクムクとその気が湧いてくる。


『むむむむぅ…心が揺れる~。でも今日は一応、私の生誕祭なのよね。夜には皇帝(おとうさま)主催の夜会が催されるのに、主役がいないって問題じゃない?』


『そんなの生まれた世界(ちきゅう)に帰っている時のように、レンカの使い魔を君に化けさせていけばいいでしょ』


『ああ、その手があったか。じゃあ、その問題はクリアということでいいけど、残る問題は召喚主の世界を管理するトゥーラ神とかいう御仁が、私が召喚に応えることを由とするかどうかよ』


 異世界(ガリアス)の皇帝ガヴェインの召喚に応じた5歳の頃は今以上に傍若無人で、向かうところ敵なし!という気分だったので好き放題しまくったが、今のレンカは分別のつく立派な成人(おとな)だ。

 自分の管理する世界ならともかく、他者の管理する世界を好き放題するわけにはいかないだろう。


『それなら気にしなくていいよ。トゥーラはとっくにあの世界を見捨てちゃってるから。それどころか世界の管理に失敗したショックで引きこもりになっちゃってんの。もしレンカが召喚に応じるなら、召喚先の世界の所有権を付録で差し上げまーす、ってトゥーラから思念波が入ったよ。口約束が不満なら、書類もすぐに送るってさ―――って、言ってる傍から僕の手元に届いてるし』


 なぜレンカ本人に届けないのか謎だが、この程度のことでいちいち腹を立てても仕方がない。

 神様なんてものは、自己中心的で変わり者が多いのだ。


『トントン拍子に話が進みすぎて、仕組まれてる? って気がしなくもないけど、何の問題もないなら行っちゃおっかな♪』


 世界の所有権なんてどうでもいいが、レンカと他の神々が念話している間も必死で召喚の呪文を呟き続け、しまいには泣き声を張り上げ始めた召喚主が気になって仕方がない。


 この国(オールディン)を捨てて異世界に移住する気はないが、旅行に行くと思えば良いのではないか? とレンカは思った。


『よし、決めた! お父さまには悪いけど、使い魔(シャーリー)を私に化けさせて、私はあっちの世界に行くわ!』


『『『最高の決断だよ、レンカ!』』』


『ふふふっ、ありがとう。ただし私は暇つぶし―――ぶっちゃけ観光に行くのであって、召喚主の願いを聞いてやるかどうかは行ってみなくちゃ分からないわよ』


 観光いう部分を強調して、レンカは手にしていた串焼き肉に噛みつくと、素早く脳裏で自分が不在になった後のガリアスを守護するための術を展開していく。

 それと同時に過去の魔物討伐の際、自身に忠誠を誓い、使い魔となった魔物(もの)たちにも指示を与えていった。


 そしていずれは使い魔(シャーリー)が偽物であることに家族が気付くことも想定して、その際に渡す手紙も用意すると、『また私は留守番なのですね』と言ってさめざめと泣く使い魔(シャーリー)に、手紙を転送した。


 その間わずか1分半。


『ではでは。想定外の展開になっちゃったけど、召喚の声に応じましょうか!』


 景気づけとばかりに、新たな串刺し肉を取り出してレンカは静かに目を閉じた。


 その瞬間、レンカの周囲を銀色に輝く召喚の魔法陣が取り囲む。


『『『レンカ、いってらっしゃい。新しい世界ですばらしい出会いが待っていることを祈るよ』』』


 全身を銀の光に覆われ異世界に引っ張られるのを感じたレンカの脳裏に、3人の神々の楽しそうな声が響き渡るのだった。



前書きにも書きましたが、期待はずれな内容だった方、すみません。レンカってば、普通の娘さんじゃないんですよね。とりあえず次回は召喚した側の皆さまとご対面です。正直、どんなことが起こるのか作者である私にもわかりません。こんな作品でよろしければ、この後もしばらくお付き合いください。

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