code:5「神風」
「まさか・・・男の人を拾ってくるなんて思いもよらなかったです」
隊長はニコニコしながら煤野木を歓迎した。
「・・・・事情を説明して欲しいものね」
対照的に揖宿は冷淡的に、煤野木を拒絶する。
「えと・・・その。あれだよ。あれ」
佐伯は手をあたふたしながら経緯を説明しようとするが。
(あ、あああ。やばいよ。どんな理由で連れてきたか説明しずらいよ!)
顔を火照らせ混乱するばかりで事態は進まない。
その様子を見ている隊長は更に微笑み、揖宿は溜息を尽く。
「いや、俺が説明します」
煤野木が間に入り、事情を説明する。
「・・・・過去からやって来たんですか」
隊長は目を細めながら、煤野木を見つめた。
「・・・・また、面倒なのがやってきたわね」
揖宿は目を瞑りながら、部屋の奥へと行ってしまう。
「そうだ、煤野木さんがよろしければなのですが。
ここで一時過ごしてみませんか?」
ぱちん。と満面の笑顔で答える隊長に対して、佐伯は不満の意を示す。
(煤野木が本当に過去の人物なら、過去に返した方が・・・)
「・・・・実は、元の時代に戻る方法がないんだよな」
佐伯の考えを読んでたかのように、煤野木は答える。
「へ?」
(未来にやってきたのに、帰る方法を知らないの・・・?)
唖然とする佐伯に対して。
「あら、それなら好都合じゃないですか。
ここに留まれる理由も出来た事ですし、貴方の部屋を探してきますね」
嬉々とした表情の隊長。手の早さも普通より早かった。
「・・・・感謝します」
煤野木はお辞儀をして、感謝の意を示す。
「・・・・その前に一つ聞きたい」
緊迫とした空気の中、煤野木は物怖じせずに喋る。
「はい?」
対照的に隊長はのびのびと空気に囚われない喋り方だ。
「戦うというと、・・・・どうやって。だ?」
暗黙に、煤野木は隊長達に対して探りを入れている。
よほどの度胸と肝が据わっていないと普通の人には無理だろう。
「・・・・・あぁ、貴方はまだ聞いていないのですね」
隊長の眼が薄汚れ、顔は少し濁っている。
佐伯はその表情を見据えながら、少し驚いていた。
(隊長が、珍しく真面目になってる・・・)
隊長はそのまま近くにある椅子に腰掛け、テーブルで両手を組む。
「この際ですし、いいでしょう。話をしましょうか」
「お願いします」
煤野木も隊長の反対側に座り、隊長の話を待った。
「・・・・私達は、カミカゼを使って敵と戦います」
隊長のある単語に、煤野木はいち早く反応する。
「カミカゼ?・・・もしかして大戦の?」
第二次世界大戦途中に行われた非人道的行動。
神風特攻隊。通称神風。
由来は、鎌倉時代の元寇を追い払った時の奇跡の風。
それらと同様に連合軍を討つという所から来ている。
単体の飛行機を使い、空母に突っ込んで自爆。そして誘爆させて撃墜するという。
当時一般的に、かつ崇高な物だといわれていた行為だ。
「いえ、そうではなくて。機械の名前がカミカゼ。なのです」
隊長は苦笑いしながら、煤野木に答えた。
「・・・・なんともいえないのですけど、変な形です」
「変な形?」
煤野木は疑問を持ったので、そのまま返す。
「はい。実際に見てもらった方が早いと思います。
なので、その話は後でまた説明させて貰いますね」
隊長は笑顔のまま顔を傾けたので、煤野木は苦笑いしながら言った。
「すいません、続けて下さい」
「・・・・その機械に入った人は、それぞれ自由に瞬間移動する事が出来るのです」
「瞬間移動・・・?」
煤野木がそう聞くと、隊長は腕を組みながら唸る。
「あくまで、肉体ではなく精神・・・。とでもいえばいいのでしょうか?
厳密には意識と肉体が送られて、抜け殻のような本体だけが機械に残っちゃうんです」
隊長はのほほんとしながら続けた。
「そして、意識と肉体だけとなった時。まさに無敵の時間なのです」
「無敵の時間、というと?」
その煤野木の質問に対して、隊長は嬉しそうに答える。
「ふふ。服装は本人が潜在意識的に則って変わり、武器は何でも使えるようになります」
しばしの沈黙。煤野木は一呼吸着けた後に。
「・・・・・何だか、どこかのヒーロー物を思い出しますね」
「はい。私達はそのつもりですから」
そうやって、一旦話が終わった後に雑談へと変わっていった時には。
嬉々と話す隊長達を尻目に、佐伯はその部屋を後にしていた。
(確かに。・・・・救うって意味じゃ、ヒーロー物と変わらない。のかもね・・・)
俯きながらそう考える佐伯。
コツコツコツ。と靴が床を蹴る音が通路に響く。
佐伯の姿はゆっくりと、闇へと消えていった。