code:4「現実」
青年は、ぼそぼそと空中に何か呟いた後に。
「・・・・俺は、過去からやって来た。って言えば信じてくれるか?」
至極真面目な雰囲気で答えた。
「・・・・・過去?」
佐伯は顔を顰める。
(それにしても。この人・・・。
最初から信じてもらおうなんて、虫が良すぎるとは思わないのかな・・・?)
佐伯は疑惑の眼を向けたが、青年は表情を変えない。
(でも、個人的には気になるし、信じるしかないんだけどね・・・。
それに裏切ったら裏切ったらで殺せばいいし)
はぁ。と溜息を尽きながら佐伯は。
「いいよ、信じる」
佐伯の鋭い眼光に対して、青年は軽く微笑んだ後に。
「そうか」
ふぅ、と緊迫した緊張から抜けれたからか。青年は適当に座る場所を探して。
腰を掛けた後に、息を抜く。
それに続けるように佐伯も手頃な物に腰を掛けた。
「・・・・俺は、正直こんな未来が待ってるとは思ってなかったけどな」
青年の表情から、疲れた様子が見受けられる。
(・・・・本当に、過去から?)
佐伯が見る限りでは、青年は嘘をついているようには見えない。
ふと、青年がこちらを見据えながら言った。
「俺は煤野木。お前は?」
佐伯はあまり気が進まなかったので、小声で答える。
「・・・・佐伯」
佐伯が答えるとは煤野木は思っていなかったらしく、驚いた後に。
「そうか。ありがとう」
笑顔を佐伯に返してきた。
あまりに拍子抜けする事だったので、佐伯も驚く。
その後少し頬を膨らまして。
(・・・・そんな嬉しそうにしなくていいのに)
なんだか佐伯は急に恥ずかしくなっていた。
煤野木は、破壊しつくされた町並みを見つめながら。
「・・・・いきなりで、それでいておこがましいと思うが。
・・・・この世界に、何があったんだ?」
単刀直入。
佐伯はそれに対して、拒否するわけでもなく直ぐに答えた。
「・・・・化け物だよ」
「化け物?」
煤野木はふと町に付けられた傷跡に気づく。
「そう。形はそれぞれ違うんだけど。あいつらは共通して化け物だった。
しかも、たった一体に全部殺さたの」
「一体・・・・」
煤野木はその言葉を聞いて、身震いする。
一体。それが意味する事は。
「・・・・。強すぎたの。あいつは」
佐伯はその時のモニターの映像を思い出す。
黒色の敵がいつの間にか紋章らしき物を出して、一気に人が死ぬのを。
画面越しに移された鮮血と悲鳴。
武力も、権力も何もかもがその敵の前では無意味だった。
人が、絶滅するの初めて見た。
近くで一部の人が吐いたりしていた。
暴力。
その一文字だけが平等かつ鮮明に刻まれていく。
「・・・・その場にいた私達以外は皆死んだ」
佐伯の瞳は薄暗く、色あせている。
「・・・・途中まで、男の人達や大人もいたけれど」
ジジジイギギ。ラジオのノイズ音が頭に入り視界に亀裂が走る。
チャンネルを変えるかのような雑音。
「・・・・男の人達が裏切って、大人を殺した」
浮かび上がるのは、モニター越し以来の血溜まり。
大量の死体。荒れた痕跡。
「だけど、隊長が何とか一人で男の人達を倒して」
佐伯は苦い虫を噛む様に言葉を紡ぐ。
ふと佐伯は思い出す。
(そういえば、その時の隊長は凄い悲しそうだったな・・・)
そして佐伯は終わりの言葉を出した。
「今は、三人で敵を倒す為に戦ってる」
佐伯は煤野木を睨み返す。その瞳には強い意志。
一度決意したら曲げないような。
「・・・・佐伯さんの仲間に会わせてくれないか」
煤野木は急にそんな事を言った。
先ほどの緊迫した空気からして普通は言えない台詞。
しかし、煤野木は言った。
(・・・・。いざとなれば隊長がいるし、大丈夫かな?)
佐伯は先程よりも、警戒心が薄れていた事もあり。
「いいよ。私に付いて来ればそこに連れて行ってあげるよ」
煤野木の希望を了承した。
佐伯は立ち上がり、自分達の住む場所へと戻る。
煤野木もそれに続いて後を追った。
ふと歩きながら佐伯は思い返す。
(本当は三人で。じゃなくて。一人で・・・・なんだけどね)
その嘘は、優しい物なのか。
それとも、辛い物なのか。