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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
8/66

code:4「現実」

青年は、ぼそぼそと空中に何か呟いた後に。


「・・・・俺は、過去からやって来た。って言えば信じてくれるか?」


至極真面目な雰囲気で答えた。


「・・・・・過去?」

佐伯は顔を(しか)める。


(それにしても。この人・・・。

最初から信じてもらおうなんて、虫が良すぎるとは思わないのかな・・・?)


佐伯は疑惑の眼を向けたが、青年は表情を変えない。


(でも、個人的には気になるし、信じるしかないんだけどね・・・。

それに裏切ったら裏切ったらで()せばいいし)


はぁ。と溜息を尽きながら佐伯は。


「いいよ、信じる」


佐伯の鋭い眼光に対して、青年は軽く微笑んだ後に。


「そうか」


ふぅ、と緊迫した緊張から抜けれたからか。青年は適当に座る場所を探して。

腰を掛けた後に、息を抜く。

それに続けるように佐伯も手頃な物に腰を掛けた。


「・・・・俺は、正直こんな未来が待ってるとは思ってなかったけどな」


青年の表情から、疲れた様子が見受けられる。


(・・・・本当に、過去から?)


佐伯が見る限りでは、青年は嘘をついているようには見えない。

ふと、青年がこちらを見据えながら言った。


「俺は煤野木。お前は?」


佐伯はあまり気が進まなかったので、小声で答える。


「・・・・佐伯」


佐伯が答えるとは煤野木は思っていなかったらしく、驚いた後に。


「そうか。ありがとう」


笑顔を佐伯に返してきた。

あまりに拍子抜けする事だったので、佐伯も驚く。

その後少し頬を膨らまして。


(・・・・そんな嬉しそうにしなくていいのに)


なんだか佐伯は急に恥ずかしくなっていた。

煤野木は、破壊しつくされた町並みを見つめながら。


「・・・・いきなりで、それでいておこがましいと思うが。

・・・・この世界に、何があったんだ?」


単刀直入。

佐伯はそれに対して、拒否するわけでもなく直ぐに答えた。


「・・・・化け物だよ」

「化け物?」


煤野木はふと町に付けられた傷跡に気づく。


「そう。形はそれぞれ違うんだけど。あいつらは共通して化け物だった。

しかも、たった一体に全部殺さたの」

「一体・・・・」


煤野木はその言葉を聞いて、身震いする。

一体。それが意味する事は。


「・・・・。強すぎたの。あいつは」


佐伯はその時のモニターの映像を思い出す。

黒色の敵がいつの間にか紋章らしき物を出して、一気に人が死ぬのを。

画面越しに移された鮮血と悲鳴。

武力も、権力も何もかもがその敵の前では無意味だった。

人が、絶滅するの初めて見た。

近くで一部の人が吐いたりしていた。


暴力。


その一文字だけが平等かつ鮮明に刻まれていく。


「・・・・その場にいた私達以外は皆死んだ」


佐伯の瞳は薄暗く、色あせている。


「・・・・途中まで、男の人達や大人もいたけれど」


ジジジイギギ。ラジオのノイズ音が頭に入り視界に亀裂が走る。

チャンネルを変えるかのような雑音。


「・・・・男の人達が裏切って、大人を殺した」


浮かび上がるのは、モニター越し以来の血溜まり。

大量の死体。荒れた痕跡。


「だけど、隊長が何とか一人で男の人達を倒して」


佐伯は苦い虫を噛む様に言葉を紡ぐ。

ふと佐伯は思い出す。


(そういえば、その時の隊長は凄い悲しそうだったな・・・)


そして佐伯は終わりの言葉を出した。


「今は、三人で敵を倒す為に戦ってる」


佐伯は煤野木を睨み返す。その瞳には強い意志。

一度決意したら曲げないような。


「・・・・佐伯さんの仲間に会わせてくれないか」


煤野木は急にそんな事を言った。

先ほどの緊迫した空気からして普通は言えない台詞。

しかし、煤野木は言った。


(・・・・。いざとなれば隊長がいるし、大丈夫かな?)


佐伯は先程よりも、警戒心が薄れていた事もあり。


「いいよ。私に付いて来ればそこに連れて行ってあげるよ」


煤野木の希望を了承した。

佐伯は立ち上がり、自分達の住む場所へと戻る。

煤野木もそれに続いて後を追った。

ふと歩きながら佐伯は思い返す。


(本当は三人で。じゃなくて。一人で・・・・なんだけどね)



その嘘は、優しい物なのか。

それとも、辛い物なのか。

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