code:3「地下」
煤野木は色が単調で、無機質な通路を歩き続けている。
先程までどこともなく基地の外を歩いていた煤野木だったが。
それでも、心の中にある霧が晴れず。
こうして何となく基地の中を歩き回っているのだった。
(・・・・いつまで、これを続ける)
煤野木は一人心の中で呟く。
最初は、三人の青年少女達を理不尽から救おうと頑張った。
だが。
無意味ではなかったものの。
煤野木は結果として、誰一人として「救えなかった」。
だからこそ。
煤野木はβに頼んで、時間跳躍を使ってでも救おうとした。
けれど。
煤野木は、何一つとして「救う」為の道具ややり方なんてものは。
見つけられないままでいる。
それどころか、より知る事によって「無理」なのだと痛感させられる現状。
まるで、最初から詰んでいる将棋をやっているかのように。
「悲惨」を回避する事も出来ず。
「未来」は確定しているかのような。
(・・・・・諦めるな、俺)
煤野木は、心の中で煤野木自身に渇を入れる。
(・・・・佐伯達について調べていれば、いつかは鍵が手に入るはずだ。
カミカゼを破壊する方法や、カミカゼに関する情報か何かが・・・)
そう考えないと。
そう考えなければ。
煤野木は、崩れてしまう。
シュミレーションゲームのように。
頑張った分だけ、努力しただけ、「成果」が出ると。
突き進んでいたら、イベントがあり。最後には「幸せ」を掴まえられると。
苦しくても、辛い出来事があっても。グッドエンドを迎えられると。
そう信じなければ。
折れる。
「煤野木」は。
「・・・・・ん?」
そこで初めて煤野木は気づく。
「・・・・植物園?」
煤野木は、考えながら歩いていたせいで周りに配慮が行かず。
いつの間にか、煤野木は植物園らしき所へと。
辿り着いてしまっていた。
「・・・・・確か、最下層」
そう。煤野木は「最下層」というナンバープレートのような物までは。
視界に入ったのを覚えている。
だがそこから先の煤野木の記憶は、ぼんやりと寝惚けた頭のようにない。
「・・・・・最下層の突き当たりって所か」
一人で煤野木は、室内に入った所で呟く。
「・・・・それにしても、基地の中にこんな所があったとはな」
煤野木は大きく見上げる。
室内は半円の、如いていうならばドーム状になっており。
天井には小さな光点があり、電灯が一定間隔で取り付けられていた。
そして、煤野木が立つ場所から一本のコンクリートというより。
凹凸のある白くて硬い地面がどこか先まで伸びていて。
それに被らない様に、南国辺りに出てきそうな植物が生い茂っている。
しかしながら、煤野木が先程まで歩いていた通路とは違って。
体感温度が少し高いので、恐らくは植物が育ちやすい環境に整えているのだろう。
「・・・・とりあえず探索してみるか」
煤野木は単純な「好奇心」に駆られ、奥へと歩みを進める。
そんな折り。
道のままに進んで数十秒経った頃、煤野木は眼を疑う。
理由は明白で、至極簡単な物。
「・・・・・何故キャベツが?」
足を進めていた煤野木の視界に入ったのは。
道の右側に突如として現れた、混色の隔たりもない緑一色のキャベツ。
「・・・・近づいてみるか」
そう呟き、煤野木がキャベツへと近づいていくと。
今度は、キャベツの後ろから。
レタスが現れた。
「・・・・・・」
もはや考えるのをやめた煤野木は、ゆっくりとした足取りで。
更に近づいていく。
すると、キャベツやレタス以外にも。
白菜。スイカ。ニンジン。ダイコンなどと。
色とりどりの大量の野菜が生えており、もはや畑の規模となっていた。
「・・・・・・」
煤野木は無言のまま畑の前に立つ。
キャベツは一定の間隔ごとに生えており、地面は一直線に盛り上げられていた。
キャベツ以外の野菜も同じように、一定の間隔かつ地面は一直線に盛り上げられている。
そして。畑の近くの地面には看板が立てられていて。
黒い太字でこう書かれていた。
『野菜は自由にとっていいです』
「・・・・・・」
煤野木は黙る。
そして。
「・・・・・・いや、いい」
煤野木は黙った口を開いて、感想を呟いた。
(・・・・植物園なのか、農家なのか・・・・)
顔では無表情を保ってはいるものの、内心では動揺を隠せない煤野木。
すると、そんな煤野木の耳に入ってきたのは。
モゥー。
音だけで正体が分かる声。
それも、鳴き声。
それが煤野木の左から聞こえてきた。
「・・・・・・」
煤野木はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには、煤野木の予想した道理というか。
当たり前の動物がいた。
牛。
子牛とかではなく、成牛。
茶色の毛を纏った牛は、灰色の鉄パイプによって作られた檻に入れられており。
もふ!もふ!と鼻息を荒くしながら煤野木を見据えている。
そんな興奮している牛の隣には。
「よしよし。良い子」
丁寧にブラッシングをしている曽根崎の姿があった。