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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-サン-
66/66

code:3「地下」

煤野木は色が単調で、無機質な通路を歩き続けている。

先程までどこともなく基地の外を歩いていた煤野木だったが。

それでも、心の中にある霧が晴れず。

こうして何となく基地の中を歩き回っているのだった。


(・・・・いつまで、これを続ける)


煤野木は一人心の中で呟く。

最初は、三人の青年少女達を理不尽から救おうと頑張った。


だが。

無意味ではなかったものの。



煤野木は結果として、誰一人として「救えなかった」。



だからこそ。

煤野木はβに頼んで、時間跳躍を使ってでも救おうとした。


けれど。

煤野木は、何一つとして「救う」為の道具ややり方なんてものは。

見つけられないままでいる。


それどころか、より知る事によって「無理」なのだと痛感させられる現状。

まるで、最初から詰んでいる将棋をやっているかのように。

「悲惨」を回避する事も出来ず。

「未来」は確定しているかのような。


(・・・・・諦めるな、俺)


煤野木は、心の中で煤野木自身に(かつ)を入れる。


(・・・・佐伯達について調べていれば、いつかは鍵が手に入るはずだ。

カミカゼを破壊する方法や、カミカゼに関する情報か何かが・・・)



そう考えないと。

そう考えなければ。

煤野木は、崩れてしまう。


シュミレーションゲームのように。

頑張った分だけ、努力しただけ、「成果」が出ると。

突き進んでいたら、イベントがあり。最後には「幸せ」を掴まえられると。

苦しくても、辛い出来事があっても。グッドエンドを迎えられると。


そう信じなければ。



折れる。




「煤野木」は。




「・・・・・ん?」



そこで初めて煤野木は気づく。



「・・・・植物園?」



煤野木は、考えながら歩いていたせいで周りに配慮が行かず。

いつの間にか、煤野木は植物園らしき所へと。

辿り着いてしまっていた。



「・・・・・確か、最下層」



そう。煤野木は「最下層」というナンバープレートのような物までは。

視界に入ったのを覚えている。

だがそこから先の煤野木の記憶は、ぼんやりと寝惚けた頭のようにない。


「・・・・・最下層の突き当たりって所か」


一人で煤野木は、室内に入った所で呟く。




「・・・・それにしても、基地の中にこんな所があったとはな」




煤野木は大きく見上げる。


室内は半円の、如いていうならばドーム状になっており。

天井には小さな光点があり、電灯が一定間隔で取り付けられていた。

そして、煤野木が立つ場所から一本のコンクリートというより。

凹凸のある白くて硬い地面がどこか先まで伸びていて。

それに被らない様に、南国辺りに出てきそうな植物が生い茂(おいしげ)っている。

しかしながら、煤野木が先程まで歩いていた通路とは違って。

体感温度が少し高いので、恐らくは植物が育ちやすい環境に整えているのだろう。




「・・・・とりあえず探索してみるか」




煤野木は単純な「好奇心」に駆られ、奥へと歩みを進める。


そんな()り。

道のままに進んで数十秒経った頃、煤野木は眼を疑う。

理由は明白で、至極簡単な物。



「・・・・・何故キャベツが?」



足を進めていた煤野木の視界に入ったのは。

道の右側に突如として現れた、混色の(へだ)たりもない緑一色のキャベツ。



「・・・・近づいてみるか」



そう呟き、煤野木がキャベツへと近づいていくと。

今度は、キャベツの後ろから。

レタスが現れた。


「・・・・・・」


もはや考えるのをやめた煤野木は、ゆっくりとした足取りで。

更に近づいていく。

すると、キャベツやレタス以外にも。

白菜。スイカ。ニンジン。ダイコンなどと。

色とりどりの大量の野菜が生えており、もはや畑の規模となっていた。


「・・・・・・」


煤野木は無言のまま畑の前に立つ。


キャベツは一定の間隔ごとに生えており、地面は一直線に盛り上げられていた。

キャベツ以外の野菜も同じように、一定の間隔かつ地面は一直線に盛り上げられている。

そして。畑の近くの地面には看板が立てられていて。

黒い太字でこう書かれていた。




『野菜は自由にとっていいです』




「・・・・・・」



煤野木は黙る。

そして。



「・・・・・・いや、いい」



煤野木は黙った口を開いて、感想を呟いた。


(・・・・植物園なのか、農家なのか・・・・)


顔では無表情を保ってはいるものの、内心では動揺を隠せない煤野木。

すると、そんな煤野木の耳に入ってきたのは。



モゥー。



音だけで正体が分かる声。

それも、鳴き声。

それが煤野木の左から聞こえてきた。


「・・・・・・」


煤野木はゆっくりと後ろを振り返る。

そこには、煤野木の予想した道理というか。

当たり前の動物がいた。


牛。


子牛とかではなく、成牛。

茶色の毛を纏った牛は、灰色の鉄パイプによって作られた(おり)に入れられており。

もふ!もふ!と鼻息を荒くしながら煤野木を見据(みす)えている。

そんな興奮している牛の隣には。


「よしよし。良い子」


丁寧にブラッシングをしている曽根崎の姿があった。

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