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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-サン-
65/66

code:2「行動」

「・・・・・面倒な事になってきました」


一人。煤野木達に隊長さんと呼ばれている青年が。

自室のベッドの上で、枕に顔を()めながら呟く。

枕を両手で抱きつきながら、うつ伏せのまま横になっているせいか。

声は半ば、くぐもっていた。

当然その状態のまま体勢を変えていないので。


(息が苦しくなってきました・・・・)


呼吸がしずらいという事になってしまっていたので。

隊長は白色の特に市販で売っていそうな枕を抱き抱えながら。

体をその場で半回転させ、今度は仰向けの体勢へと変える。


同時に、真っ黄色をした髪が隊長の背中へと吸い込まれてしまい。

ポニテを結ぶ茶色の(ひも)が、背中で異物の形として残ってしまった。


「・・・・・・」


隊長は、少しばかり顔を(しか)めて。

ゆっくりと体を横へとずらし、抱きかかえている枕を隣へと置いて。

右手を背中へと伸ばして、背中で結ばれている茶色の紐を(ほど)く。




しゅんかん。



隊長の髪がたんぽぽのように。

大きくベッドへ広がっていく様子に続いて。

隊長の周りを(おお)っていた空気が。

変わる。

緊迫していて、凍っているようにも思える空気から。

(ゆる)やかで、温かい空気へと。



それは。

事務的な処理を実行する「軍人」としての隊長から。

温情的に物事を行う「静香」としての隊長へと。

変わっていた。



「静香」としての隊長は、真っ白な天井を見詰めながら。

一人。呟き始める。




「煤野木さん、揖宿さん、未来さん・・・・・」




吸い込まれそうな程に、一面ひまわり畑のような。

綺麗な黄色を()ね備えた瞳。

それを、静香は揺らしながら。



「・・・・・彼らは、彼女達は、何者なんでしょうか」



静香は、静香自身の心へと問いかける。

だが。

答えなんて物は静香には浮き上がらず。

そして当然の如く。

静香の質問に対して、部屋は音一つとして立てない。



「・・・・・・」



静香は少しばかり沈黙した後。

右手に掴んでいる。

茶色の、新品にすら思えるほど綺麗に手入れされた。

紐を見つめて。




本当に。

ほんとうに。

小さく。

儚く。

脆く。

悲しげに。




「・・・・・お父さん・・・・」




静香(しずか)な声で。

呟いた。



静香の呼んだ名は。

呼ばれたはずの人物は。

既に。

存在しない。



静香自身が目で見て確かめたからだ。

その名の人物の。

決定的な「死」を。



けれど。

静香は呟いてしまった。

静香が世界で最も敬愛する者であり。

最も。

大好きだった人の名を。




「・・・・・何で・・・っ。何で・・・!」




静香は瞳から涙を(こぼ)して。

紐を強く握りしめながら。泣きじゃくりながら。

声に出すが。



その「相手」は既に「いない」



受け止めてくれるのは。ただただ「時間」だけ。



誰一人として。

他の「誰か」の代わりは出来ないのだから。



それが静香には分かっているからこそ。

いなくなってしまった事に。

言葉を吐き出すしか。

出来ない。



「隊長」ではない「静香」には。

受け止められない。

軍人ではない「ただの人」である静香には。

酷過ぎる話なのだから。



そんな中、ふと急に。



「・・・・・・・」



静香は。

黙った。

そして。



「・・・・・昨日?」



静香は、頭の中に思いついた疑問を口に出してしまう。

その疑問とは。




「昨日も・・・・こう、泣きじゃくって、いた?」




一度。疑わしくなってしまうと。

嫌でも全てが疑わしくなってしまう。

同様に。静香も。

昨日の事を。疑問に思ってしまった。



「昨日・・・・誰か。だれか だれが?」



静香は頭の中に思い浮かぶ言葉全てを。

()らす。


が。


激しい頭痛と共に。

視界がぐら付き、湾曲し、(ねじ)れるように歪む。

そして吐き気。



「・・・・・うっ・・・う」



戻しそうになる感触を静香は抑えながら。

静香はやり方を変えた。



強引にではなく、ゆっくりと優しく。

さながら頭の中にあるパズルを紐解(ひもと)くかのように。

思い出そうとする。



「誰かが・・・・・そうです。その子は。

小さな・・・子。小学生ぐらいの・・・・」



すると。

ぼんやりと黒い霧がかかってはいるものの。

静香は徐々に輪郭(りんかく)を思い出していく。




「・・・・・誰かが。友達で・・・・そう。佐伯さんの友達で。

・・・そして横には、未来さんが一緒に付き添っていて。

・・・・髪が。水色の・・・・がっあっ!?」




静香が髪の色まで思い出すと。




先ほどの比ではない痛みが。静香を襲った。




静香はその場で、意味もなく頭を抱え込んでしまう。



その感触は。

脳味噌に直接電気棒を刺し込まれ。電流を一瞬だけ流したような。

吐き気や。気持ち悪さや歪みなどが全て吹き飛ぶ程の。



激痛。



しかも。

意識が飛ばない分。

余計にタチの悪い痛み。



「はぁ・・・っはぁ・・・・・」



静香は未だ残る痛みの余韻(よいん)に浸されつつ。

抱えている手を離し、大きく呼吸を整える。


「はぁ・・・はぁ」


呼吸を整えたのと、時間が経ったせいか。

ある程度痛みが収まった。

そして、すぐさま静香は気づいた事実を整理し始める。



(佐伯さんの友人。朝の煤野木さんの質問・・・。

未来さんが補助していた人物。けれど覚えていられない。)



そこで、静香は溜息をついた。

理由は至極簡単。



「十中八九。カミカゼの元操縦者・・・・」



そしてカミカゼの操縦者にはもれなくついてくる。

付属効果。



「・・・・記憶の削除と、存在の隠滅・・・・」



静香は、カミカゼの所有者からカミカゼを譲られた際に。

色々と受けた説明の内容を思い出す。




「確か・・・・。

操縦者関連の記憶を削除した上で、存在を消し去り。

そして、周りには思い出さないよう意図的に操作して。

仮に思い出そうとした場合。擬似的な人物までは思い出せても。

誰が誰だか分からないようにする・・・・」




その効果を弥生で分かりやすく説明するならば。

少女Aというのは思い出せても。

「弥生」というのは思い出せない。



そして無理に思い出そうとすれば。

先ほどの激痛。


つまりはそういう事だった。



「・・・・・それなら、私は昨日その子について泣いていたのですね」



静香は。

ふと天井を見上げながら呟く。



「ごめんなさい・・・・」



それは。

「誰に」対しての謝罪なのか。



「ごめんなさい・・・・」



静香は。左腕で両目を(ふさ)ぎながら。

一筋の涙を零して。



「ごめんなさい・・・・」



謝る。

ひたすらに。

謝り続ける。


「誰か」に。


すると。

静香の部屋の出入り口の扉から。

こんこん。と軽いノック音が響いてきた。



「・・・・・・」



静香は、「紐を結ばず」ベッドから立ち上がる。

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