error.code:I has lived as a doll.
正方形に似た、少し縦が長い部屋の端。
そこには、少女が椅子に無言で座っていた。
少女の服は森に流れる小川のように、薄く透明な水色で。
ワンピースに近似しており、肩からは少女の白い素肌を晒している。
一見すると、健康的にも思える服なのだが。
服には。一切の汚れは付いていなかった。
「・・・・・・・・・」
少女は服と同じくらいに淡い水のような髪を。
ただただ、地面へと落としながら。
青天のような色をした目で、一点だけを見続ける。
瞳の奥底には、一点の曇りすらないのに。
少女は、見続けた。
例え。
部屋に日差しを入れ続ける窓から、小鳥が囀っている声が聞こえても。
少女がいる部屋に、白髪が入り混じる執事服を着た男性が出たり入ったりしても。
柔らかそうな手を、膝の上で重ねているだけで。
少女は、声の一つさえ出さない。
「・・・・・・・・・・」
その少女の姿は、精巧に作られた人形のようにも思える。
本当に。生きていると錯覚しそうになる程の。
凝った西洋の人形に。
それほど、少女からは精気が感じられなかった。
「姫様」
部屋に。少しばかり低めの声が響く。
だが。姫様と呼ばれた少女は一切の反応を示さない。
対して声を出した主は、こほん。とわざとらしく咳き込んで。
「お動きになられると助かります」
すると、先程まで反応がなかった少女が。
声の主の方へと顔を向けた。
声の主は、先程もこの部屋に出たり入ったりしていた人物で。
顔には小さな皺がいくつか出来ており。
初老に入り経てなのが伺えるが。
初老という、老年に相応しくないくらいに。
背筋をピンと伸ばしていた。
「爺っ!!!」
声。
そんな異常に嬉々とした声と共に。
少女は爺と呼んだ初老の人物へと、飛びつくように抱きついている。
「姫様・・・!?」
少女が抱きついた反動からか。
初老の人物は大きく身体を仰け反らせ。
両手を地面に付けながら、後ろへ倒れこんでしまった。
むぎゅーっと。何だか柔らかそうな擬音語さえ聞こえそうなぐらいに。
少女は、初老の人物へと体重を掛けている。
それに対して、初老の人物は少しばかり笑ったのだが。
一瞬だけで。
すぐさま表情から笑みが消え、皺を更に深めた。
そして、こう告げる。
「・・・・姫様。そ」
「分かっています」
だが。途中で少女の声が割り込んだ。
少女の声は先程の無邪気な声とは打って変わって。
気品溢れるというか、品性が見えるというか。
まるで、百合のように凛としており。
完全に言葉の質を切り替えている。
少女は、初老の人物の胸へと埋めていた顔を上げながら。
声と同じように。綺麗に整った顔立ちで。
少しばかり哀愁の漂う笑みを零した。
同時に。
初老の人物は、視線を落とす。
そんな初老の人物の様子に、少女は笑みを消して。
「悲しそうな顔をしないで下さい。もう、決まった事なのですから。
むしろ、この国を愛しているのですから。嬉しいんです」
そこで再び少女は嬉しそうにするが。
初老の人物は、余計に顔を暗くしていく。
少女は一息ついて、言った。
「だから私は、
『人形』になります」