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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-サン-
63/66

error.code:I has lived as a doll.

正方形に似た、少し縦が長い部屋の端。

そこには、少女が椅子に無言で座っていた。

少女の服は森に流れる小川のように、薄く透明な水色で。

ワンピースに近似しており、肩からは少女の白い素肌を(さら)している。

一見すると、健康的にも思える服なのだが。

服には。一切の汚れは付いていなかった。



「・・・・・・・・・」



少女は服と同じくらいに淡い水のような髪を。

ただただ、地面へと落としながら。

青天のような色をした目で、一点だけを見続ける。

瞳の奥底には、一点の(くも)りすらないのに。

少女は、見続けた。


例え。


部屋に日差しを入れ続ける窓から、小鳥が(さえず)っている声が聞こえても。

少女がいる部屋に、白髪が入り混じる執事服を着た男性が出たり入ったりしても。

柔らかそうな手を、膝の上で重ねているだけで。

少女は、声の一つさえ出さない。


「・・・・・・・・・・」


その少女の姿は、精巧(せいこう)に作られた人形のようにも思える。

本当に。生きていると錯覚しそうになる程の。

()った西洋の人形に。

それほど、少女からは精気が感じられなかった。




「姫様」




部屋に。少しばかり低めの声が響く。

だが。姫様と呼ばれた少女は一切の反応を示さない。

対して声を出した主は、こほん。とわざとらしく()き込んで。


「お動きになられると助かります」


すると、先程まで反応がなかった少女が。

声の主の方へと顔を向けた。


声の主は、先程もこの部屋に出たり入ったりしていた人物で。

顔には小さな(しわ)がいくつか出来ており。

初老に入り経てなのが伺えるが。

初老という、老年に相応(ふさわ)しくないくらいに。

背筋をピンと伸ばしていた。


「爺っ!!!」


声。

そんな異常に嬉々(きき)とした声と共に。

少女は爺と呼んだ初老の人物へと、飛びつくように抱きついている。


「姫様・・・!?」


少女が抱きついた反動からか。

初老の人物は大きく身体を仰け反(のけぞ)らせ。

両手を地面に付けながら、後ろへ倒れこんでしまった。

むぎゅーっと。何だか柔らかそうな擬音語さえ聞こえそうなぐらいに。

少女は、初老の人物へと体重を掛けている。


それに対して、初老の人物は少しばかり笑ったのだが。

一瞬だけで。

すぐさま表情から笑みが消え、皺を更に深めた。

そして、こう告げる。




「・・・・姫様。そ」

「分かっています」




だが。途中で少女の声が割り込んだ。

少女の声は先程の無邪気な声とは打って変わって。

気品溢れるというか、品性が見えるというか。

まるで、百合のように(りん)としており。

完全に言葉の質を切り替えている。


少女は、初老の人物の胸へと()めていた顔を上げながら。

声と同じように。綺麗に整った顔立ちで。

少しばかり哀愁(あいしゅう)の漂う笑みを零した。


同時に。

初老の人物は、視線を落とす。

そんな初老の人物の様子に、少女は笑みを消して。



「悲しそうな顔をしないで下さい。もう、決まった事なのですから。

むしろ、この国を愛しているのですから。嬉しいんです」



そこで再び少女は嬉しそうにするが。

初老の人物は、余計に顔を暗くしていく。

少女は一息ついて、言った。




「だから私は、

『人形』になります」

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