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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
62/66

end.code:「ベストフレンド」

「う、う・・・うっ・・・・・!!」


大きなモニターを見詰(みつ)めていた佐伯が顔を。

曲がったガラスに映っているかのように、歪ませながら。

机に顔を伏せて、泣いてしまった。



「・・・・また・・・ね・・・。

弥生。また、遊ぼう・・・ね・・・・!!」



鼻水を大きく(すす)り、机を涙で濡らしながら。

あまりにも残酷すぎる運命だとしても。

佐伯は、弥生に別れを告げた。



そんな佐伯を余所(よそ)に。




「・・・・・何が起こった?」




煤野木は思わず、呟いてしまう。

その質問にモニタールームにいる、佐伯を除いた全員が反応した。



「弥生の、戦いに何が起こったんだ?

武器は出ない上に。弥生の行動不能。敵の無行動・・・・・」



煤野木は、隊長さん達を一通り見渡す。

全員が全員違う反応。

しかし、誰一人として「弥生の別れ」があったばかりなのに。

悲しむどころか、気にしてすら居ないように見えた。


が。

煤野木には分かる。


いや、最近になってようやく気づいた。


煤野木は隊長さんへと顔を向ける。

隊長さんはというと。

親狐のような細長くやや()い黄色の髪を空へと浮かせつつ。

大きく首を傾げて。こちらを見ていた。


一見すると、先程の出来事を気にしていないように見えるが。

しかしよく見れば、目線をちらちらと佐伯の方へ向けている。



(・・・・何だかんだ言っても、気にしているんだな)



煤野木は堅かった表情を崩しつつ。微笑(ほほえ)んだ。


次に、煤野木は揖宿の方へと顔を向ける。

揖宿はというと。

何も見えない、それでいて吸い込まれる錯覚を覚えそうになるような。

夜空の如く黒い髪を()らして。瞳を少しばかり下へと降ろしつつ。

その場で両腕を組んで無言で立っていた。


同じように。弥生との別れを何とも思っていないように思えるが。

よく見れば表情はどこか、寂しげに見える。



(・・・・無情なんて、決め付けるべきじゃなかった)



少し煤野木は後悔して、ちらりと他を一瞥(いちべつ)する。

ただ、煤野木が分からないのは。

残る二人。

曽根崎と未来。

この二人に関しては、煤野木は未だに掴みきれない。


曽根崎は海のように深い蒼色で()んだ髪を。

川のようにさらさらと揺らしながら、煤野木を見てはいるものの。

表情は一切と変えず、特に何も言わない。

仕草。態度。何一つとして事前と事後とで変わっていないのだ。



未来も曽根崎と同じように。

水滴を弾いている葉のような深緑の髪を垂らしながら。

表情は動いていなかった。



長く煤野木が未来を見ていると。

未来がこちらを一瞥(いちべつ)して、口を動かす。




「弥生さんの武器は、病気ですよ」




いとも簡単に呟く。

模範解答(かいとうようし)を見て答えるように。

作業をなんなくこなすかのように。

未来は、言った。


隊長さんと、揖宿が驚いた表情で未来を見詰める。


だが。

煤野木は。未来を睨み付けて言った。



「・・・・まるで、知っているみたいな事を言うんだな」

「・・・・・・」



一瞬の無言。

ちらりと。未来は煤野木を見たが。

すぐさま()らし、煤野木の言葉に返答する事無く続ける。



「彼女は虚弱ですから、病気に(かか)りやすかったんですよ」

「・・・・・・」



煤野木は聞きながら。



(・・・・弥生の過去を話さない辺り。考えてはいるんだな)



と煤野木が思うと同時に。



(・・・・未来は、何処(どこ)まで知っている?)



煤野木は恐怖と興味と不信感を味わった。

前の未来が言った通りに。



(・・・・俺と同じように過去を何度も味わってるって事か?)



そこまで考えておいて。直ぐに煤野木は否定する。



(・・・・ありえる訳が無い・・・)



いや、語弊(ごへい)がある。




煤野木は否定「したかった」のだ。




仮にでも。仮説だとして。

未来が何度も何度も繰り返しているというのなら。

もうとっくにこの未来は救われているなければならない。

それでも、救われていないという事は。



(・・・・情報が、少なさ過ぎる)



そこで、煤野木は打ち切る。

考えるのが。嫌になったと共に。

確かに情報不足が否めなかったからだ。



「・・・・それなら、合点がいきますね」



隊長さんが未来の補足をするように、呟く。

ただし、煤野木と同じように。

未来を覗き込むように、睨み付けながら。

更に補足した。



「・・・・武器が病気なら、敵が不明の自滅を遂げたのと。

弥生さんの行動が不能になったのも頷けます・・・・」

「そんな事より」



隊長さんが、補足している最中に。


揖宿が。

すらりと赤と白の巫女服を揺らしながら。

周りに少しばかり涼しい風を吹き散らした後に。




未来へと、「(つるぎ)」を向けていた。




剣はまるで西洋かどこかの歴史辺りに出て来そうな。

直線的なシンプルな構造をしていて。

細く長い剣の刀身は、未来の喉元(のどもと)寸前で止められている。



唐突。



あまりに突然の出来事。



「な・・・・・」



そう口にする事だけが出来て。

煤野木の身体は、固まってしまった。


同様に。

こういう「非常事態」に備えるべきはずの、軍人である。

隊長さんでさえ、目を丸くしながら硬直していた。


曽根崎は、相変わらず特に反応をしていない。


隊長さんは丁度煤野木の視界に入っていた為見えたのだが。

その内ピントが外れていき。

煤野木は、揖宿と未来の二人へと目が行ってしまう。


音一つさえ、互いに立てない。

沈黙が部屋を完全に支配した。

部屋の電灯に照らされる剣が、嫌に反射して光っている。

息の声さえ、聞こえそうなくらいな静かさ。



それを先に破ったのは、仕掛けた揖宿だった。




「貴方は何を知っているの」

「・・・・・・」

「答えて」




黙り込む未来に対して、揖宿は剣を少し動かす。

軽く剣で、未来の喉元を斬ったせいで。

剣が沿った所からは、一筋の赤い線が出来ると共に。

未来の喉元からはつーっ。と血が滴れ落ちた。




「・・・・・答えましたよ」

「?」




未来の回答に。揖宿は(いぶか)しそうな顔をしたが。

未来は、

少しばかり悲しそうな顔をして。




「・・・・どいて下さい」

「・・・・貴方!?」




揖宿が喉元に置いている剣を、手袋も何もしてない素手で。

そのまま、「掴んで」退()かした。

揖宿が驚いた表情をしている内に、未来は完全に退けてしまう。




「・・・・・答えましたよ」




未来の掴んだ方の手には大きな切り傷が出来ており。

そこから。

ぽた。ぽた。とまだあまり汚れていないモニタールームの床に。

数的の血が落ちて行く。


血が床に落ちる(たび)に。床には赤い絵の具を落としたような。

染みが残った。




「・・・・・ごめんなさい」




未来はそう呟いて、モニタールームを後にしていく。

煤野木達を置き去りにして、黒の学生服を着た未来は去った。


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