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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
60/66

code:26「無理」

モニター室。とも呼ばれる部屋。

若干の淡い水色の壁紙をベースに。丁寧に整えられた壁。

大型の機械が大量に置かれており。それぞれが様々な役割を持つ。

そして一番奥には、機械達よりも少し高い位置に巨大な液晶モニターがあった。


「・・・・・来ましたか」


隊長さんは忌々(いまいま)しそうに。モニター越しの敵を睨み付ける。

黒色の。それも真っ黒だが。

中に何が詰まってるかも考えたくもない液状の敵。


「・・・・・今回は」


盤上(ばんじょう)にある機械を弄りつつ、隊長さんは調べる。

隊長さんが使っているのはいわゆる生命探知機(レーダー)と呼ばれる物で。

調べれば直ぐに、現在地球上にいる生物の数と場所が把握出来る。


因みに、隊長さん達の分も数えられるので。

例外として除外しなければならない。


「・・・・・!かなり近い・・・・!!」


隊長さんが覗いていた、画面上には。

巨大な丸と、基地を示す十字の濃い線が引かれていた。

巨大な丸は丁度十字のすぐ真横に見える。


「・・・・・」




弥生は。出て来そうになった言葉を飲み込み。




「・・・・・行って来ますね!」


代わりに。決意と覚悟の言葉だけを出す。

笑顔と共に。


そうしないと、弥生は。泣いてしまいそうだったから。


「・・・・・あぁ」

「弥生ちゃん。お願いしますね」

「・・・・・・・そうね」

「頑張ってくださいね」

「・・・・・・・・」


隊長さんを含め、煤野木さんや揖宿さんまで。

弥生の返事をしてくれた。


けれど。

佐伯だけは。弥生を心配そうに見詰めて。


「弥生・・・・・」


声を震わせる。

見れば。佐伯の眼には。

涙が大きく溜まっており、(ほほ)はほんのり桜色をしていた。


弥生は。溜息を尽きながら。


(・・・・佐伯。私達は、いつでも一緒ですよ)


そう。心で言って。

佐伯の緑色をした、見ているだけで安らぎそうな髪を撫でる。


すると、佐伯が。


「・・・・・弥生。これ」


何かを掴みながら、差し出してきた。


「・・・・・!」


佐伯が差し出したのは、星型の首飾り。

それも片割れだった。


「・・・・・・私は、絶対に弥生を・・・・」


佐伯は。言葉を出そうとする。

だが。出ない。

言えない。

「悲しくて」言えないのではなく。

「認めたくなくて」言えない。


それが、弥生には、何となく分かった。


「・・・・・・うん、ありがとう」


弥生は受け取り、笑顔で答える。


そして、カミカゼの置いてある部屋へと向かった。

モニター室の直ぐ隣なので、弥生が歩いて移動しても。

何ら問題はない。

更にカミカゼは「人生」をエネルギーとする為。

操縦者の体力はあまり関係ない。


「・・・・・静かですね」


弥生は、至極冷静に考えようとする。


カミカゼの部屋は音一つさえしなかった。

正方形の。黒いタイル状に敷き詰められたその部屋は。

真ん中にカプセル状のカミカゼが置かれている以外に。

何も無い。

一切の何も。


「・・・・・・静か・・・」


弥生は再び同じ事を呟く。

そして、カミカゼを見詰めた。

カプセル状のそれは、大人一人が入れそうなぐらいの大きさで。

透明なガラスの壁によって閉じられており。

ガラス越しに見える中は、真っ赤なベッドのような物が。

敷き詰められている。


すると、弥生が近づいてきたせいか。

カミカゼの、閉じていたガラスの壁が開かれた。


「・・・・焦らないで下さい。最後にやる事があるんですから」


独り言を。弥生は。呟きながら。

自身の首筋へと手を回して、結ばれている紐を(ほど)き。

首飾りを持っていない方の掌へと乗せる。


「・・・・これで、揃いました」


両方の掌には。それぞれ半分に割れた首飾り。

それを片方へと移動させて、空いている手ではめる。


綺麗な星の。首飾り。

半分だけだった物が。元の形へと。


それを、弥生は首へと身に着けて。


「・・・・行きます」


カミカゼへと入った。

最初の弥生のカミカゼに乗った感想としては。


(・・・・・まるで、誰かに抱かれているみたいですね)


それほど、心地よく温かく。

何もかもが「どうでもよく」すら思える。


(・・・・・笑えませんけれど)


自嘲(じちょう)気味に、弥生が笑うと。


先程まで蓋の役割をしていた、ガラスの壁に。

様々な情報が浮かび出る。

目まぐるしく情報が出ては流れていくのに。

弥生の脳へと。逐一全てが入っていった。

そして、弥生の脳は。それを綺麗に処理していく。


(・・・・これも、カミカゼの機械のせいですか・・・)


弥生は、冷静に判断していく。

同時に安堵していた。


(・・・・実はあまり機械自体を使った事がないですから。

ここで補助してくれるのは。本当に、助かります・・・)


そんな事を弥生が考えていると。

次に現れたのは、日本列島が映し出された地図。

地図の右下には、XとYと書かれていて。

さらにそれぞれその隣に、数字が入るような空欄(くうらん)があった。


「・・・・確か、弥生達から聞いた話では。

この地図に触れるんでしたっけ・・・・?」


実際には、数字を直接入れる事も出来るらしいが。

ここは機械に甘えておこうと弥生は考える。

人差し指だけで地図へと触れた。

すると。


「・・・・・うっ!」


直後に。

弥生は身体が、下に落ちていくような感覚になる。


それは。

とてつもなく重い物を、弥生の身体へと乗せているかのようにも。

弥生は思えた。


そして目まぐるしく脳を直接揺さぶられるような錯覚に(とら)われ。

弥生が吐き気を感じた時には。


視界は。先程まで見ていたのとは違う。


「これは・・・・」


外だった。

弥生の見知る場所ではないが。

都市が破壊されている様子から。弥生は外だと気づく。


しかも、弥生の服装は。いつの間にか。

ヒマワリのような黄色のワンピースへと変わっていた。




『ちょ、ちょっと待って。や、弥生!!』




弥生の耳から(わめ)く様な声が聞こえる。

反射的に耳を塞いでも、音が途切れることは無い。


「この声は、佐伯・・・・」


顔を(しか)めながら。弥生はあくまで冷静に判断した。


『落ち着いて、佐伯ちゃん!』


佐伯とは違う声が、また一つ弥生の耳へと入るが。

ドタバタドギャーン。と、擬音たっぷりの。

何かを破壊するかのような音と共に止まった。

すると、また別の声が入る。


『弥生。落ち着いて聞いてくれ』


今度は煤野木さんだ。


「はい」


そう答えながら、弥生は適当に身体を動かし始める。

身体の調子を確かめるつもりだったのだが。




違和感。




「・・・・・え?」




重い。

しかも、とてつもなく。

弥生が基地にいた時よりも。何倍も。




煤野木の声が、またしても耳に入る。


『・・・・すぐ近くに敵が居る』


その声が聞こえたと弥生が思った時に。

大きな影が。

弥生の身体を(おお)った。


「・・・・まさか」


弥生は、ゆっくりと後ろに振り向くと。

黒色の。半円状の敵が。

弥生のすぐそこまで迫っていた。


「・・・・・ッ!」

『落ち着け』


弥生が焦りそうになった直後。

煤野木の命令するような声が、脳へと直接響いた。


『冷静になれ。カミカゼに乗ったのなら。

何らかの弥生なりの武器が出るはずだ』

「・・・・武器?」


弥生が辺りを見渡しても、それらしき物はない。


『想像だ。想像しなければ出ないらしい』


言われた通りに、弥生は急いで「想像」する。


が。


現実とは、理想とは違う。

ここで弥生の理想と現実に合わせると。




武器が「出ない」




「だ、駄目です。武器がでな・・・・!」


切羽詰った弥生が、煤野木に報告しようとした時。




弥生は「吐血」した。




ごほっ。ごほっ。と咽た後に。弥生は恐る恐る自身の掌を見る。

大量の血がこべりついている。


「あ、あ・・・・」


弥生の声に。続くように。

足の力は抜け、膝カックンをされるように。

膝がゆっくりと折れた。

そしてそのまま、弥生は前屈(まえかが)みで倒れる。


「あ・・・・あ・・・・」


弥生に見えるのは、地面が半分。

そして、壊れた都市と。(かろ)うじて見える曇った空。



先程まで、耳に聞こえていた「声」は。

「信じられない」という音と。

佐伯の泣きそうな悲鳴へと変わった。


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