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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
6/66

code:2「平和」

「むぐぐ・・・・・」


銀色の皿に盛られた朝食を真っ白なテーブルの上で食べる佐伯。

その顔には非常に苦悶の色が浮かんでいた。

何故なら。彼女の皿にはほぼ全てのおかずが消え、隣の隊長に上乗せされているからだ。


「ありがとうね。佐伯ちゃん」


満面の笑みで答える隊長が、佐伯には悪魔のように見えた。


(ご飯と一緒に食べるものが・・・金平牛蒡(きんぴらごぼう)しかないよ・・・)


確かに金平牛蒡は美味しい。しかし、おかずかどうかも怪しい。


(いや、いやいやいやいや。これは絶対おかずとして成り立たない。

でも、もしかしたら案外いけるかも知れないしなぁ・・・。

しかし、やっぱりそれはそれ、これはこれでしか食べれないような・・・)


無茶苦茶な思考の後に、佐伯がたどり着いた答えは。


「ふ、ふふふふ。おかずがほとんど壊滅的かつ残念であろうとめげないもん・・・」


不敵に笑う佐伯に対して、隊長は苦笑いをしている。

しかしながらも隊長はちゃっかり佐伯の分のおかずを堪能(たんのう)していた。

彼女はおかずを食べる度に幸せそうな顔をする。


(うぅ・・・・なんか余計みじめだよ・・・)


佐伯は笑みを残しつつ、涙を軽く流す。

そんな喜怒哀楽の激しい佐伯に対して、向かい側に座る青年は顔色を変えない。

さながら興味がない。とでも言いそうな顔だ。


「揖宿さんにそう黙られると、凄く余計に惨めになる気がするよ・・・・」


若干飛び火なのは明らかだが、揖宿と呼ばれた青年はゆっくりと食事を止め。


「・・・・身から出た(さび)よ、観念しなさい」


至極冷静な口調で告げて、また食事を始めた。


「・・・・・・・・」


佐伯も無言のまま食事を再開する。


(・・・・・・うん。きっとこれは私に課せられた運命なんだ)


そして意味の分からない解釈をして、何とか自己嫌悪に(おちい)るのだけは回避する佐伯。

ちらり。と佐伯は覗き見るように揖宿を見る。

揖宿と呼ばれた青年は黒髪のツイン。

留める所には純白のリボンを付けており、異常に目立つ。

背丈は佐伯よりも大きいが、一般的な伸長だと彼女自身が言っている。

服装は何故か巫女服。赤と白の巫女服。理由は不明。巫女服。

しかし佐伯の視線はそこではない。


「うにゅぅ・・・」


ペタリ。と未だ半分しか食べていない食器の横に佐伯は顎だけ(もた)れかける。

一部始終を見ていた隊長は、軽くニヤけながら。


「・・・・・・ふふ。そうかぁ、佐伯ちゃんもそんな年頃だもんねぇ」


と呟いた。


「なぁっ!違うよ!私は全然胸なんか見てないよ!」


怒りながら椅子から立ち上がった佐伯は、気づいた。


「あ」


ひゅるひゅる~。と佐伯は顔を赤く染めながら椅子に座る。

それを見ていた隊長は相変わらずニヤけていたし、揖宿は顔色を変えない。


(こ、公開処刑だよ・・・これは公開処刑だよぅ・・・・)


体の温度が急上昇しているのを感じながら、佐伯は目を閉じていた。

だが、そんな平和な状況もすぐに一変した。

騒がしいアラーム音が響き、部屋も赤色に染まる。

それから少しして、隊長は溜息を尽きながら。


「空気ぐらいは読んで欲しい物ね・・・」


カップに入れてある、レモンティーを飲んだ。

佐伯は急いで食事を終え、すぐに片付ける。


「行って来るよ!」


そして佐伯は笑顔のまま、部屋を後にした。

部屋には二人だけが残り、相変わらず音が響いている。


「レモンティーを飲まないですか?」


にこにこしながら隊長はカップにレモンティーを入れ、揖宿に(すす)める。

揖宿は、食事をしながらそれを一瞥(いちべつ)して言う。


「・・・・・貴方は、いつまでそうしているのかしら?」


揖宿の隊長に向ける鋭い眼光に対して。

隊長は、少しばかり揖宿を見た後に。

揖宿が何を言いたいのかという。意図を理解した上で。


「いつまでも、ですよ」


隊長はクスクスと笑って答えた。

不敵に笑う隊長に、表情を変えない揖宿。


未だ平和。されど不穏。

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