code:2「平和」
「むぐぐ・・・・・」
銀色の皿に盛られた朝食を真っ白なテーブルの上で食べる佐伯。
その顔には非常に苦悶の色が浮かんでいた。
何故なら。彼女の皿にはほぼ全てのおかずが消え、隣の隊長に上乗せされているからだ。
「ありがとうね。佐伯ちゃん」
満面の笑みで答える隊長が、佐伯には悪魔のように見えた。
(ご飯と一緒に食べるものが・・・金平牛蒡しかないよ・・・)
確かに金平牛蒡は美味しい。しかし、おかずかどうかも怪しい。
(いや、いやいやいやいや。これは絶対おかずとして成り立たない。
でも、もしかしたら案外いけるかも知れないしなぁ・・・。
しかし、やっぱりそれはそれ、これはこれでしか食べれないような・・・)
無茶苦茶な思考の後に、佐伯がたどり着いた答えは。
「ふ、ふふふふ。おかずがほとんど壊滅的かつ残念であろうとめげないもん・・・」
不敵に笑う佐伯に対して、隊長は苦笑いをしている。
しかしながらも隊長はちゃっかり佐伯の分のおかずを堪能していた。
彼女はおかずを食べる度に幸せそうな顔をする。
(うぅ・・・・なんか余計みじめだよ・・・)
佐伯は笑みを残しつつ、涙を軽く流す。
そんな喜怒哀楽の激しい佐伯に対して、向かい側に座る青年は顔色を変えない。
さながら興味がない。とでも言いそうな顔だ。
「揖宿さんにそう黙られると、凄く余計に惨めになる気がするよ・・・・」
若干飛び火なのは明らかだが、揖宿と呼ばれた青年はゆっくりと食事を止め。
「・・・・身から出た錆よ、観念しなさい」
至極冷静な口調で告げて、また食事を始めた。
「・・・・・・・・」
佐伯も無言のまま食事を再開する。
(・・・・・・うん。きっとこれは私に課せられた運命なんだ)
そして意味の分からない解釈をして、何とか自己嫌悪に陥るのだけは回避する佐伯。
ちらり。と佐伯は覗き見るように揖宿を見る。
揖宿と呼ばれた青年は黒髪のツイン。
留める所には純白のリボンを付けており、異常に目立つ。
背丈は佐伯よりも大きいが、一般的な伸長だと彼女自身が言っている。
服装は何故か巫女服。赤と白の巫女服。理由は不明。巫女服。
しかし佐伯の視線はそこではない。
「うにゅぅ・・・」
ペタリ。と未だ半分しか食べていない食器の横に佐伯は顎だけ凭れかける。
一部始終を見ていた隊長は、軽くニヤけながら。
「・・・・・・ふふ。そうかぁ、佐伯ちゃんもそんな年頃だもんねぇ」
と呟いた。
「なぁっ!違うよ!私は全然胸なんか見てないよ!」
怒りながら椅子から立ち上がった佐伯は、気づいた。
「あ」
ひゅるひゅる~。と佐伯は顔を赤く染めながら椅子に座る。
それを見ていた隊長は相変わらずニヤけていたし、揖宿は顔色を変えない。
(こ、公開処刑だよ・・・これは公開処刑だよぅ・・・・)
体の温度が急上昇しているのを感じながら、佐伯は目を閉じていた。
だが、そんな平和な状況もすぐに一変した。
騒がしいアラーム音が響き、部屋も赤色に染まる。
それから少しして、隊長は溜息を尽きながら。
「空気ぐらいは読んで欲しい物ね・・・」
カップに入れてある、レモンティーを飲んだ。
佐伯は急いで食事を終え、すぐに片付ける。
「行って来るよ!」
そして佐伯は笑顔のまま、部屋を後にした。
部屋には二人だけが残り、相変わらず音が響いている。
「レモンティーを飲まないですか?」
にこにこしながら隊長はカップにレモンティーを入れ、揖宿に薦める。
揖宿は、食事をしながらそれを一瞥して言う。
「・・・・・貴方は、いつまでそうしているのかしら?」
揖宿の隊長に向ける鋭い眼光に対して。
隊長は、少しばかり揖宿を見た後に。
揖宿が何を言いたいのかという。意図を理解した上で。
「いつまでも、ですよ」
隊長はクスクスと笑って答えた。
不敵に笑う隊長に、表情を変えない揖宿。
未だ平和。されど不穏。