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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
58/66

code:24「通路」

「・・・・・・・・ぁああああああ!!」


弥生は軽い絶叫と共に、唐突に目が覚めてしまう。

上半身だけを飛び起こして、辺りを(せわ)しく見渡した。

目に入るのは、寝る前と対して変わらない医務室。

ただ変わっている所があるとすれば。

弥生が寝る前は、部屋はまだ明るかったのだが。

一部を除いて真っ暗になっている。

その一部は、寝る前と同じように曽根崎がいて。

カリカリカリ。と机に向かって何かを書いていた。

更にその上から、専用のライトが机を照らしており。

中々明るそうに見える。


「夢・・・・・」


そして同時に。弥生は現実という事に安堵した。

弥生が見ていた夢は途轍(とてつ)もなく恐ろしく。

あまりに現実的で。苦しい物だった。

だが、それはいずれそうなってしまう未来なのだと。

弥生は理解しているので、余計にタチが悪い。

そして、弥生は再び辺りを見渡している時に。

もう一つの。寝る前との違いを見つけた。

佐伯が弥生の寝ているベッドに、両腕を組みながら。

前屈みで寝ている。


「・・・・・・・・佐伯」


恐らく、佐伯は弥生の看病をしていたのだが。

途中で眠ってしまったのだろう。


佐伯はあの一件以来、弥生に寄り付いてくる。

猫のように。犬のように。

動物のように。嬉しそうにしてだ。


当の本人である佐伯は。

小さくて可愛い口から、安らかな吐息を出している。


佐伯が弥生を好いていてくれているという事が。

弥生にも容易に分かった。

だが。弥生はそれゆえに恐れている。


(・・・・・カミカゼ)


操縦者の「人生」を犠牲にしてやっと使える兵器。

過去から未来まで全てを奪うあれを。

弥生は。次に敵が来た時に。

使うのだ。


「友達」を「親友」を「仲間」を。


大事で大事で仕方が無い物を捨てて。


(・・・・・私は、消える)


弥生は。怖い。


「死ぬ」というのならまだ子供にも受け入れられる。

守る為だから。


だが。


「消える」


世界から拒絶されながら「消える」のだ。


守りたかった物にすら。

自身の存在を何もかもを忘れられ。

まるで、最初からいなかったかのように。

時は進んでいく。


そう考えると。弥生は震えを止められない。


「守りたかった物」に裏切られた時。

人は折れる。


弥生は、ここの所浅い眠りしか出来なかった。

夜中に目が覚めては。汗だくになり。

言いようも無い恐怖に支配されそうになる。

前までは、弥生は簡単に克服していたはずなのに。


「救う」


弥生の概念。

弥生の存在意義であり。全てである物。


確かに。弥生が戦えば仲間達は「救える」だろう。

しかし、その仲間は。

戦いが終われば。

弥生の事を覚えていない。

覚えていられる訳が無い。

居たことすら。話したことすら。「仲間」だった事すら。

何もかも。弥生に関する事は消える。


(・・・・・怖い)


弥生の。震えが止まらない。

歯をガチガチと鳴らし。呼吸は変則的になる。


(・・・・・怖い。怖い。怖い)


弥生は、「救う」為なら死ぬ覚悟も出来ていた。

けれど弥生の信じる「主」は、死よりも苦しいものを用意している。


前の弥生である。「目に見えない誰か」を救うのと。

今の弥生である。「仲間」を救うのとでは。

重荷が違うと。弥生は今更ながらに理解した。


すると、佐伯が。


「やよいー・・・・やわらかいねー・・・・」


寝言を言いながら。ベッドの毛布へと頬を擦り付ける。

その様子を弥生は見ながら。感じながら。


(・・・・・夜風に。当たりたいです)


ふと。そう思った。

何故なのかは弥生にも分からなかったが。


(・・・・・・とにかく当たりたいです)


弥生は重い身体を動かし、足をベッドから下ろす。

丁度足を下ろした先には客人用のスリッパがあったので。

弥生は()きつつ。

ゆっくりとふら付きながら立ち上がった。


因みに弥生は病弱で虚弱な身体だが。

歩けないという訳ではない。

ただ、運動をすると弥生の体力は著しく減ってしまう。

なので、車椅子を使うのは、「万が一」の時。

体力を残しておかないといけないからである。


「・・・・・佐伯。ちょっと出かけて来ます」


未だむにゃむにゃと言い続ける佐伯に一声掛けて。

弥生は医務室の出入り口へと歩き出す。


「・・・・・・・・・」


出入り口近くに居る曽根崎はこちらに眼もくれず。

ただただ、報告書らしき物にペンでカリカリと書いていた。


「・・・・・出かけて来ていいですか?」


後ろから、弥生は曽根崎は声を掛ける。

しかし、曽根崎は返事をしない。

まるで弥生が、話しかけてないかのように。


「・・・・・・。喋って下さい」


弥生が「命令」した途端に。

曽根崎は手を動かすのを止め。

後ろを振り向きながら曽根崎が笑顔で答える。


「はい。いいと思います」


先程の完全に機械のような表情は失せ。

逆に生き生きとしていた。


「話は聞いていましたので」


あまりにも呆気なさ過ぎるので。

弥生は最終的な確認をする為に。質問をする。


「・・・・・簡単に決めて。いいんでしょうか?」

「はい。悩んでいるのなら。気分転換は必要だと思いますから」


曽根崎の言葉に。


なっ。と弥生は息を呑む。


何故なら。

「?」と疑問の表情を見せながら首を傾げる曽根崎は。

全てを見通していた。

弥生が怯えている事や、苦しんでいる事を。

弥生は、揖宿や佐伯や他の誰にも(さと)られた事がなかった。

だが。曽根崎は分かっている。


「どうかしましたか?」


弥生の瞳を覗きこむように、顔を近づけてくる曽根崎。


「・・・・・いえ。分かってたんですね」


すると、曽根崎は一瞬虚を突かれた様な顔をして。


すぐに優しいお母さんのような。笑顔をした。

その笑顔からは、さも「はい」と言いそうに見える。


「・・・・・出掛けて来ます」


弥生は曽根崎を一瞥(いちべつ)して、再び歩き出す。

歩き出すと同時に。先程まで聞こえていた筆記音が。

医務室に籠もり出した。


医務室から聞こえる音を後にしつつ。弥生の視界に入ったのは。


暗い。


所々に照明があるものの。

真っ直ぐに伸びている通路の先は、闇に飲み込まれているように見える。


「綺麗すぎるこそ映える不気味」がそこにあった。


その様子を見ながら。弥生は。


(・・・・まるで、私の未来みたいですね)


苦笑いをしながら。進み続ける。




止まる事は。「許されない」

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