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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
54/66

code:20「確信」

煤野木は洗濯室で洗ったばかりの物を畳んで籠に入れるという。

単純な作業をしていた。

服装はいつもの通り。白のカッターシャツと黒のズボンで。

一般的な男子の学生服姿でいる。

そして、煤野木はその単純な作業をしている(かたわ)ら呟いた。


「・・・・・未来が。変わった・・・・か」


そう。煤野木の知っている未来とは違った。

本来交差するはずの無いものが。煤野木という要因によって。

大幅に関わり合うという未来へと変わってしまったから。

そして、その未来が正しいかどうかは。煤野木には分からない。

だが。


「・・・・良かった」


煤野木は無表情を崩しながら、優しい声色で再び呟く。

絶望しかないこの未来。

希望を断ち切られ。人生を破壊され。生涯を否定された。

カミカゼの操縦者達に。たった小さな希望でも良いから。

与えられた事に。煤野木は嬉しさを隠せない。


「・・・・・・・」


そしてもう一つ。嬉しい理由が煤野木にはある。


「未来の、変更・・・・」


憶測の域から、確実な理論へと変わった事実。


(・・・・・正直に言うと俺は、不安で仕方が無かった。

未来は変えられるのだろうか。自分に出来るのだろうか。と。

けれど、俺は「未来」を変えられた。変えられることが分かった。

絶望は希望へと変えれる・・・・)


自然と、煤野木は掌を顔の前へと差し出し。

思い切り強く握り締めて、拳を作った。

まるでそれは、今の今まで雲のように逃げられていた物を。

確実に掴み取ったかのように。


(やっとだ。やっと・・・・。この地獄を俺が壊せる)


誰一人として救いようの無いこの世界。


悪魔の兵器。カミカゼに選抜されなかった人々は殺され。

選抜された人々は残され。地獄を見ている。

過去からやってきた煤野木は。何も出来なかった。


自身の子供の為に自分を犠牲にした少女も。

敬愛する父。操縦者達。全てを守る為に頑張った青年も。

希望を生かす為に一千万という大群に挑んだ青年も。


目の前に居たのに。

手を伸ばせば届く距離だったはずなのに。




煤野木は。誰一人「助ける」事すら出来なかった。




無力と無気力と無意味。そんな負の言葉ばかりが。

煤野木の頭の中をぐるぐると回り続けていた。


だが。

助けれると、未来が変えられると分かって。

役目など。運命など。実力などないと思っていた自分に。

やっと機会がやって来て。

立ち止まるほど、煤野木は「死んで」いない。


「過去」の煤野木であったら、諦めていただろうが。

「今」の煤野木は。地獄を見てきたからこそ。

絶対に諦めない。


「絶対に救い出してやる・・・・!」


力強くその場で意気込む煤野木。


すると、煤野木の背後から前にゆっくりとβが飛んで来た。

希望に満ち溢れている煤野木に対して、βは顔を軽く伏せながら。


「・・・・・煤野木。・・・・・駄目です」


急に吐き出された完全な否定。

煤野木に努力せず。救わせず。無力に打ちひしがれろ。と。

小さな声で。言った。

続けて。


「・・・・・・もう。やめて欲しいです・・・・」


先ほどよりもか細い声が聞こえると共に。βは。

その場で両腕を顔に覆い。泣き出してしまった。


「β・・・・・?」


煤野木が言うと同時に。

煤野木は体に、まるで抱きつかれたかのような重い衝撃を感じた。

いや。

煤野木は。βに抱きつかれていた。


「な・・・・・・」


βの小さな妖精のような体だったのが。一般的な女性のような大きさとなり。

今。煤野木の胸元に顔を埋めながら抱きついている。


「・・・・大きくなれたのか・・・・」


煤野木は思った事を、つい口にしてしまう。

βは特にそれに対して反応しない。


改めて背中から見えるβの服装は。現代と懸け離れていて。

やはり未来に生きているのだと認識させられる。

そして首や腕から見える肌は健康的な色をしており。

とても機械とは思えないだろうが。

体の至る所に付いている小型の機械がそれを証明していた。


「・・・・・β」


煤野木に抱きついているβの腕を掴もうとすると。

煤野木は気づいてしまう。

βの体が小刻みに震え、それに伴って淡い青色の髪も揺れている事に。

そして、煤野木の胸辺りに若干感じる冷たい感触。

βがどんな表情をしているか。

煤野木の角度からは見えなかったが。

分かった。


「・・・・・・煤野木。もうやめてください。もう・・・・」


鼻声特有のぐちゃぐちゃな声を出しながら。βは顔を上げる。

煤野木とβの顔は目と鼻の先とまではいかないが。だいぶ近い。


そして煤野木はβの瞳と目があった。

βの眼は、髪と同じように青色なのだが。

泣いていたせいか、眼が赤く充血していた。


「・・・・・β。お前は・・・。何を知っ」


途中まで言いかけて。煤野木はある事を考えてしまう。


(まて・・・・・。βは未来から来たって言っていたよな・・・。

この世界が滅んだ先の未来・・・・からやって来た・・・・。

人一人としていない世界から・・・・やって来たのか?)


煤野木はβの両肩を掴んだ後に、後ろへと伸ばし。

そしてβと正面で向き合いながら。言う。



「お前は・・・・・どこからやって来た・・・・?」



その答えは知っているはずなのに。

その答えは聞いていたはずなのに。

煤野木は聞かずにはいれなかった。

ところが。

βは涙をぽろぽろと落としはするものの、口を開けようとしない。

まるで。

答えたくないかのように。




「煤野木さん」




唐突に。本当に不意打ちの形で。βと煤野木の隣から声がした。

煤野木とβは顔をそちらに向ける。

そこにいたのは。

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