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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
53/66

code:19「感情」

「・・・・・・!?」


弥生は飛び起きるように体を起こした。


「・・・・・・・・え?」


弥生の第一声がそれだった。

デジャヴといえばデジャヴなのだが。そういう意味ではない。

弥生は急いであたりを見回してみる。すると弥生の眼に入ってきたのは。

事務机に顔を向け、椅子をきしきし軋ませながら座っている曽根崎だった。


「そねさ・・・・きさ!?」


弥生が声を出そうとした直後。

頭にトンカチか何か鈍器で殴られたかのような。

耐え難い激痛が走る。


「がああああああっッッアアァッ」


激しい嘔吐感(おうとかん)。さながら世界や視界が歪みながら揺れるような。

あまりの感覚に。弥生は両手で頭を抱えながら顔を伏せた。


弥生の下半身を覆うシーツは、色という色が掻き混ぜられたかのように。

色が色として認識出来ない。


弥生の肌からは大量の汗が流れ出し、筋肉が何かに脅えるように痙攣を起こす。


(う・・・うぅ・・・・うう・・・・)


呼吸。

深呼吸を何度も何度も繰り返し。胸を焼く様な空気を吐き出しては吸う。

すると、弥生の感情に呼応するように暴れていた心臓も。

少しずつ落ち着きを取り戻して、元の心拍数へと戻っていく。


そして弥生は気づく。


「・・・・・・・」


無言のまま。いつのまにか曽根崎がこちらにタオルを差し出しているのに。


「・・・・・ありがとう・・・ございます」


弥生は途中に呼吸を織り交ぜながら、曽根崎のタオルを受け取った。

そして熱くなっている体から滝のように流れる汗を、タオルを使って拭くと。


曽根崎が。「本当に」嬉々とした様子で弥生を見ていた。

対して弥生は。少しばかり眼を伏せて。


「・・・・喋っていいです。それと、タオルありがとうございます」


それだけを弥生が呟いた直後。


「・・・・どう致しまして」


曽根崎は特有の整った顔立ちから、笑顔を零しながら言った。

さながらその笑顔は。儚く簡単に壊れてしまいそうな印象を受ける。

そして曽根崎はぺこりと御辞儀をして、元の座っていた椅子へと戻っていった。


「・・・・・・・」


きし。きし。と独特の音が部屋に響く中。

弥生は無言のまま。再び周りを見渡す。

よく見てみると、弥生の寝ているベッドは一つだけではなく。

寄り添うというより、揃えるように並列に置かれたベッドがもう一つある。

そしてその間には、少し淡い黄色のカーテンらしき物が半分ほど遮っていた。


「・・・・・・・」


弥生は、ゆっくりと自分の被っている毛布へと目線を落とす。

毛布には、可愛らしい熊さんが「へい!流行に乗ろうぜ!」と言わんばかりに。

嬉々揚々と。弥生にはよく分からないポーズを構えていた。


「・・・・・・・・」


弥生は無言のままに、毛布から視線を逸らす。

少しばかりの、軋む音以外が聞こえない部屋へと戻って。


「・・・・・・はぁ」


弥生は少しばかり頭を垂らした後に、溜息を漏らしてしまう。


(・・・・今私がいるのは、基地にある医務室・・・・)


広い基地内の比較的中部にあるこの医務室は。

佐伯が以前に語ってくれたのだが。雰囲気から物から何からまで。

「学校にある保健室」のようらしい。

その医務室にいる。その文を考えただけで。

弥生は耐え切れなくなり、再び小さな溜息を漏らす。

溜息の理由は簡単。


(・・・・また、隊長さん達に迷惑を掛けてしまいました・・・)


昔の弥生は依存してきたので、今は頼る事はあまり好きではない。

なので、隊長達にはあまり迷惑を掛けないようにしているのだが。


(・・・・今度は、揖宿さん。ですか・・・・)


内心苦笑いを浮かべながら。弥生が考えていると。


連鎖的に。ある事に気づく。

そして同時に、見る見る弥生の顔が驚愕の顔へと変わった。


ありとあらゆる揖宿の感情をまともに受けて。

それこそ壊れるぐらいに。

その代償として気づいてしまった。ある事。


「・・・・・・ッッ!」




揖宿の正体だ。




彼女は弥生達のように。何か特別な理由があってここに連れて来られていない。

例の日が起こった当日に。「揖宿」もやって来た。

逃げる場所も、避難する場所もないだろうという事で保護していたのだが。

あの地獄の中。生き残れた理由が。今になって弥生は気づいた。


揖宿の感情。(すなわ)ち。


「人生」によって形成された感情を全て受けて。だ。

揖宿が受けてきた出来事や考えていた事。それらが未だ弥生の心の中にある。

すると、自然と弥生の体は軽くまた震えだした。

眼から大粒の涙が、頬に線を描きながら流れ落ちる。


「・・・・・神は。主は。何て残酷なんですか・・・・」


ふと弥生が漏らしてしまったその言葉に。



どれだけの感情が込められているか。



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