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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
51/66

code:17「交差」

「やーよいっ!」


弥生がおぼれげに聞いた第一声はそれだった。

それと同時に暗黙の視界と思考をゆっくりと覚ますような。

うざったい感触が集中する。


「・・・・なんですかぁ・・・もう・・・・う?」


欠伸をしながら、目を開いて声のするほうを見ると。

それと、因みに最後が疑問詞になってしまったのは。

その光景が、弥生にとっては驚くような物だったからである。

具体的に言うなれば。

弥生の寝ている所に佐伯が寄り添って寝ている。


「・・・・へ?」


弥生の思った事が。直接言葉として出てきた。

すぐ口と口とか。具体的に言うなれば唇と唇がくっつきそうなぐらいの。

かなりの近い距離で。佐伯が隣に潜り込んでいるのだ。


「さ、佐伯・・・・?」


そう弥生が問いかけても。佐伯は「んふふふー」とか言いながら。

結局はまともな答えが返ってこない。

そこで弥生は質問の内容を変えて再度聞くことにする。


「あー・・・佐伯。何故この中にいるんですか?」

「入りたいから」


すぐさま返って来た。しかも弥生の望まぬ答えで。


(・・・・しかも入りたいから。って本能に近い発言ですよ・・・?)


弥生は心の中で冷静にツッコミを入れつつ。

ベッドから半身だけを起こす。


「あれ。ご飯食べるの?」


目を輝かせながら同じように体を起こす佐伯に。

弥生は(さと)すように語り掛けた。


「・・・・佐伯。全ての人を佐伯と同じ基準で見ないで下さい」


そう言いながら弥生は、部屋の隅を見ると。

にやにやしながら弥生たちの様子を見ている未来がいた。


高校生の女子が着る黒色一色の上着に。

赤と黒の入り混じったスカートを身に着けていて。

そこまで届いているのは、黒と緑の中間とでも言うべき深緑の髪。

非常に整った顔つきをしているものの。可愛らしさも兼ね備えている。


ただしその顔は先ほど言ったとおりに下卑た笑みを浮かべているのだが。

その歪んでいた口は、ゆっくりと動き出し。


「何かあったんですねぇ・・・」


一言だけ呟いた。

すると同時に佐伯が両腕を使い背中に抱きついてくる。

しかも何か至福そうな顔をしながらだ。

そんな二人に対して弥生はため息を尽きながら。


「・・・・ご飯を食べにいきましょうか」


そういう理由で現在弥生は朝食を食べる為に。

基地の中心付近にある、食事を得る場所へと来ているのだが。

一つ問題があった。


弥生が未だ嬉しそうにくっ付いている。

しかも、弥生にくっついている佐伯は適度に位置を変えるので。

別段邪魔という訳でもないから余計に離せない。


更にその問題が問題を呼び始めるから困るのだ。

その食事を取る場所は当然、朝食の時間帯なので人が集まる。


その人の一人である隊長の反応としては。

「ま、まさか・・・・」と頬をほんのり染めながら。

こちらを嬉々とした表情で見つめていたり。


揖宿は。無言のままこちらをちらりと一瞥した後に。

表情を一切変えずに、ぷい。と顔を逸らした。


煤野木の反応は。揖宿と同じように無言なのだが。

何か凄く微笑ましい物を見ているような。

温かい視線を送ってきているのだ。


ついでに言うなら未来は先ほどと同じように茶化してこようとしている。

ただ、そんな状況の中でも。一番厄介だと弥生が思うのは。


(・・・・私も。佐伯に抱き疲れても悪くない。と思うことですね・・・)


それで益々弥生の溜息が加速するのだ。


因みに、朝食を取るべきこの場所は基本的に他の場所とは雰囲気が違う。

部屋自体は長方形なのだが。一見すると、どこかの洋食の場を思い起こすだろう。

そして均一された間を空けて部屋に置かれている、三台の長テーブル。

長いテーブルを包むのは。一切の汚れのない純白のテーブルクロス。

その上には、本物のキャンベルやグラスに入った緑色に熟れる前の葡萄。


どうしたらここまで本格的にやるのだろうと弥生は思う。


弥生達の座っている椅子は雰囲気に沿うかのように。

茶色の基盤に。円状にくり抜くかのように淡い白があり。

その白色の場所には。様々な色の刺繍が施されていた。


食事は基本的にこの部屋に隣接している厨房で、曽根崎が作る。

彼女の料理の腕は料理家も恐らく舌を巻くほどの絶品だろう。

曽根崎の作る料理のメニューは日によって変わる。

食材などは基地の最下層にある、植物園から取っていて。

新鮮は新鮮なのだが。一つ問題があった。


メニューといっても選べる訳ではない。

人によっては嫌いな物が出てきたりだってするのだ。


現に隣に座っている佐伯なんかは急に精気が抜けたようにぐったりしている。

もしも佐伯が曽根崎に「嫌いな物」を言って。抜かして貰うように。

指示すれば、確実にこなしてくれるだろうが。

その前に隊長が待っている。


だからこうして佐伯は抵抗する事すら出来ずに、机へと前屈みに伏せていた。

佐伯の隣にある銀皿が妙に輝いているように見える。


「・・・・・・佐伯。食べないんですか?」


余計に深くなっていく溜息を吐き出しながら。弥生は尋ねてみた。

すると佐伯は。薄く笑って。


「・・・・・弥生・・・実は・・・」

「無理です」


満面の笑みで答える弥生。

最後の頼みに縋ろうとした佐伯は。瞬時に返されたその言葉によって。

完全に止めをさされてしまい。

ぱたりと、風船の空気が抜けるように倒れこんでしまった。


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