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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
50/66

code:16「変化」

長い長い御話。

弥生は話の最後に当たる部分で。大きく一呼吸して。


「・・・・・・その後。カミカゼの方へと移動させられて。

隊長達と出会って今の私があるんです」


弥生は。自身の掌にある首飾りを見ながら。呟いた。

弥生の目には必死に堪えている大粒の涙。

煤野木はそんな弥生の正面に当たる部分で立ちながらある事を考える。


(・・・・・途中までは理解出来た。・・・・だが。

それが不幸である事に。変わりがあるのだろうか?)


終始不幸だった弥生が煤野木には理解できない「何か」を手に入れて。

不幸が幸福へと変わる事が出来るのだろうか。

絶望は希望へとシフト出来る物なのだろうか。

その答えは。煤野木にとって。


(・・・・・・ない)


それだけの事だった。

更に煤野木は、弥生を悲観的な視線を向ける。

車椅子に乗った小さな少女。

それは何ら普通の人間と変わらないはずである少女。

病気や薬によって痛めつけられた、その弱弱しい肩に。

どれだけの苦渋と重荷が今尚乗せられているかと考えると。

煤野木は。今にでもその重荷を取り外したい気持ちに襲われる。


前の時点では煤野木には。この少女を救えなかった。

既にこの少女は。弥生は。全てを終えた後だったのだから。

煤野木がそんな事を考えていると。その思考すらも絶ち切られるような。

衝撃的な出来事が。起こる。


「弥生・・・・・・?」


声。

そう。声が。煤野木の後ろから聞こえた。

本来であれば高い声なのだが。その声は普段よりも低く小さい。

どこかで聞いた事がある。いや。煤野木の知っている声。

ゆっくりと煤野木が後ろを振り向けば。


最初に煤野木が初めて会った時と、なんら変わらない。

少し汚れた薄い緑の短髪に。

くりくりとした眼を持ちながらもどこか濁った雰囲気のする。

服装は赤色とピンクで彩られた夏服の学生服を着ていて。

明るい上に子供っぽい、衝動的な行動をする少女。

煤野木のよく知る人物で。同時にこれから知る人物。


佐伯。佐伯がいた。

佐伯は見てはいけない物でも見たような表情をしながら。

煤野木達を見ている。

完全に佐伯の体は硬直しており、また弥生の体も硬直していた。

夜の風のように。冷たく透き通る静寂。

そんな空気の中。


弥生が言葉をなんとか紡ごうとした直後。


「佐・・・えッ!?」


弥生の小さな体に。佐伯が体ごと抱きついていた。

唐突の出来事に対して。弥生は驚愕(きょうがく)の表情を示している。


「・・・・・・・」


呆気に取られている弥生。

佐伯は変わらず無言のまま抱きついている。

そして。

時間が風のように流れていった後に。

弥生はゆっくりと驚いていた表情を崩し、笑みを零しながら。


「・・・・・佐伯」


一言だけ。一言だけ相手の名を呟き。

相手に合わせる様に。背中へと手を回して抱きついた。

風がビル街へと流れ込み、ヒュォオオと空気を切り裂く独特の音が響く。

花畑にある花は、風に呼応しながら激しくその余命を舞わせる。

若干の静かの中。先に喋ったのは佐伯だった。


「・・・・ごめんなさい」


その言葉は。何に対しての謝罪なのか。

煤野木には分かる。

だが。


(・・・・それは、俺が言うべきじゃない。

この言葉は。佐伯本人から伝えるべき物だ)


拳を握り締めながら。煤野木は弥生達を見つめ続ける。

その煤野木を受け取るかのように。佐伯が続けて喋っていった。


「・・・・これ」


佐伯が弥生から少し体を離し、制服の胸ポケットへと手を突っ込む。

佐伯の手から出てきたのは。片割れの。首飾り。

空気に晒されたその首飾りは。

表面はよく磨かれたり丁寧に扱われているからか。あまり傷がない。

半分だけに割れたその星の首飾りを、弥生は目を見開きながら言った。


「まさか・・・・」


弥生は佐伯の顔を見る。

すると佐伯はこくり。と頷いた。

そして。無言のまま佐伯は弥生の方へと差し出す。

ゆらりゆらりと揺れる首飾り。


「・・・・・少し、借りていい?」


(しぼ)り出すような。懇願の色が出た弥生の声に。

佐伯は。やはり無言のまま頷く。

弥生は震える手を、首飾りの方へと伸ばし。

紐の部分を掴みながら、受け取った。

きらきらに月光に反射しながら光るそれは。


弥生があの日と共に無くなった物であり、違えた物。

弥生は、それを膝に置きながら。

首筋へと手を伸ばして、結んでいる紐を解く。


二つ目の。首飾り。

両方揃った首飾りを見て。弥生は。

今にも泣き入りそうな顔つきになっていた。

そしてその泣き声を漏らしそうな口からは。

泣き崩れる前に。本当に。小さな声が漏れた。


「・・・・お兄ちゃん。お帰り・・・」


直後。


「う、う・・・わぁああああああああああああああああああん!!!」


弥生は前のめりで泣き崩れてしまう。

兄の前でしか泣かないと誓った少女が。

泣いていた。

けれど、少女は一人じゃない。

泣いている弥生に対して。佐伯はそれに寄り添う。

弥生の背中を軽く叩きながら。耳元で何か(ささや)いていた。

そんな二人を見ていた煤野木。すると。


「・・・・煤野木」


更に煤野木の後ろから声がした。

振り返る事もなく、煤野木は喋る。


「・・・β。一つ聞いていいか?」

「・・・うん」


まるでもう聞く質問が分かっているかのような。

そんな反応をするβ。

煤野木は特に気にせずに続けて。


「前の時は、首飾りが合わさる事なんて。なかった」


事実を確認するように。希望を理解するように。


「本来ならここで俺が介入する事も無く。

未来はきっと、あの二人が実は繋がる事もなかったんだろうな・・・」


嘆くように。悲しむように。


「だが。・・・・今、こうして。二人は・・・・」


何ともいえない事のように。迷いが真実へと変わるように。


「・・・うん」


βは、本当に返事をしずらそうに。声を出す。


「・・・・大体。合ってるよ。煤野木」


なぜか。目を伏せながら。βは呟いた。


「・・・・あの二人は今日ここで出会うっていう事実はあるよ。

でも、首飾りの話はしないから。互いに気づかない。

あの時の佐伯さんが言っていた。

秘密の場所(おきにいり)」は。今日ここで知るんだよ・・・」


佐伯が最初に打ち明けてくれた。あの日。


『ほら、見えてきたよ。私の秘密の場所』


ではなく。

本当なら。


『ほら、見えてきたよ。"私と弥生(わたしたち)"の秘密の場所』


だったのだろう。

だがカミカゼという。悪魔の兵器。いや、最低最悪の機械によって。

全てが塗り消され。改善された。

改めて煤野木は憤りを感じている反面。

もう一つの事も考えていた。


(・・・・未来は。変えられる)





全てを失うという絶望の中に見えた。一つの希望。

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