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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ナナ-
5/66

code:1「日常」

「起きて下さい、佐伯(さえき)ちゃん」


暗い暗い意識の中。少女を呼ぶ声が聞こえる。


「佐伯ちゃん。もう起床時間ですよ!」


大きく高い音が耳元から近距離で発せられるのが分かった。

超音波のようなそれに、佐伯と呼ばれた少女は眼を大きく見開く。


「うにゃぁあああ!!」


そして驚いた拍子に、顔を覗いていたもう一人の青年の額へと額をぶつける。

ごつん。まるで佐伯と呼ばれた少女の脳の軽さを示すような音が響いた。


「いっ・・・たい」


当てられた方の青年は、赤くなった額を右手で押さえながら屈んでいる。

しかし、当てられた方の青年の脳の重みのお陰か。

そこまで被害は大きくなかったらしい。


「な、何が・・・?」


佐伯はひりひりする自身の額を右手で抑えながら、状況を考える。


(えぇーっと、そう。あれなんだね。きっと私は・・・)


しかし元がやはり空なので考えても答えは出ないのだが。


「・・・・佐伯ちゃん。・・・よくもやりましたね」


青年は瞳に涙を浮かべながら、立ち上がる。


「い、いや、不可抗力だよ隊長」


苦笑いしながら佐伯は両手を前に突き出す。

精一杯の抵抗のポーズである。

隊長と呼ばれた青年は。

雰囲気からどこかの小隊長を予想させるような感じ。

服装は軍服であり、黒と黄色による装飾が目立つ。

しかし、軍帽だけは被っておらず。そこから黄色の髪がすらりと伸びている。

長い髪の最初には茶色のリボンが結ばれており、いわゆるポニテと呼ばれる物。

彼女の端正な顔付きから、ご憤慨の様子が伺えた。


(こ、怖いよ。今回の隊長はいつにもまして怖いよ!)


あわわわ。とあたふく佐伯の頭に稲妻が走る。


(これだ・・・!)


すぐさま実行へと移す佐伯。


「・・・・今日のおかず少し分けるから。・・・・っね?ね?」


何とかして(なだ)めようと現時点での最良の策を使う佐伯。

それに対してとった行動とは。


「・・・・・・・」


無言で人差し指と中指を立てる隊長。


「・・・・・・・・」


黙って人差し指だけを上げる佐伯。

お互いに無言で戦う。空気のみで武器としていけるレベルだ。

緊迫とした空気の中。


「・・・・さっきの」


隊長がボソりと言った瞬間。

佐伯の中指が目にも止まらぬ速さで上がった。

それを見た隊長の眼が星のように輝きながら。


「交渉成立。ですね」


にこにこと満面の笑顔で佐伯の両手を掴み、縦に振る隊長。

佐伯は苦笑いをしながら、とりあえず隊長の機嫌が直ったことに胸を下ろす。

佐伯と呼ばれた少女は少し汚れた薄い緑の短髪に。

くりくりとした眼を持ちながらもどこか濁った雰囲気のする。

服装は赤色とピンクで彩られた夏服の学生服を着ていた。


「それにしても、毎日毎日この起床時間だけは慣れないよ・・・」


佐伯は軽く溜息を尽いてしまう。

それを見た隊長は力を軽く抜いた後に、微笑む。


「頑張りましょう」


しかし佐伯はどうにも納得できない。


「それに朝食だって食べられるから損はしてないと思いますが・・・?」


そう言われると弱い佐伯でもあった。


「うぅううーん。確かに・・・」


若干寝ぼけながら頷く佐伯。しかしある事に気づく。


(あ・・・・。そういやおかずは犠牲になっちゃったんだ・・・)


先ほどの死闘で何とか抑えた最小の犠牲。

佐伯は涙を軽く流した後に、若干寝心地の悪いベッドから起きる。


「それでは、先に行っていますね」


にこりと笑った隊長は、ドアを開けて部屋を出た。

ぱたん。そう静かな音がした後に佐伯は一人部屋に佇んでいた。

そして唐突に思いついてしまう。


(・・・・・はっ!?まさか先にご飯を食べる為!?)


にやりと笑った佐伯は「ふっふっふ」と不敵な声を出して。


「だからあんなに急いでたんだね」


佐伯は後ろで手を組み、上に伸ばして体を解す。

ふと、佐伯の視界に映る物が完全に変わった。

ジジジ。ジジジ。電撃が走るように視界にノイズがかかる。

佐伯の住んでいる部屋は、正方形の端正な部屋。

しかし、一瞬にして別の正方形の部屋へと切り替わる。

部屋の隅々が黒く塗りつぶされている、というより暗くて見えずらい。

所々に赤色がベチャリとした液体が付いており、鼻につく臭い。

しかしそんな光景も。


「遅いですよ!」


バタン!と大きくドアを壁に叩きつける音が部屋に響き。

隊長がお冠の様子で出て来た時には、いつもの部屋に戻っていた。


「あ、あはは。うん。ごめん。今行くよ」


佐伯は苦笑いしながらベッドから立ち上がる。


「もう3分も経ってるのに・・・・!」


両腕を前で組みながらジト目で見る隊長に佐伯は余計に焦る。


「もう知りません!さっきの約束事は三本に追加です!」


片頬を膨らませた隊長は、床を大きく鳴らしながら出て行く。


「ま、待ってよー!」


パタン。次にその部屋に音が響いたのは、急いでドアを閉める音だった。


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