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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
46/66

code:12「病気」

「・・・・・・・・?」


始め。弥生は外蔵の言った意味が分からなかった。


(・・・・・・私の、病気?)


弥生は確かに虚弱で病気に(かか)りやすいというのはある。

だが。これといって特別な。遺伝的な病気にも罹った覚えはないし。

恐らくないだろうと弥生は思っている。

首を傾げる弥生。

それを見た外蔵は、少し驚きながら続けた。


「・・・・・うん?その様子はもしかして聞いてない?」

「聞いていない・・・・?」


どうも。弥生と外蔵との会話が噛み合っていない。

すると外蔵は少し眉を上げながら言った。


「あぁ。そうか。そりゃショック受けるだろうし。当然か」


弥生には。外蔵の言っている意味が分からない。

少し外蔵は辛そうな顔をして。

弥生が耳を疑いたくなるような事を言った。


「君を媒体にした、新種の病気の事だよ」


瞬間。弥生は体が凍りつく。


「・・・・・病気・・・・・?」


(かす)れながら漏れたその言葉に。外蔵は頷きながら答える。


「非常に致死性の高い。ウィルス型のね」


外蔵は言った。「新種の病気」と。

普通ならば、病気などといわれても心当たりはない。

しかし弥生には。あった。

というよりも謎の体調不良などで入院しているのだから。

弥生には。あった。


それに。

確かにただの病気程度ならば。問題はなかったのだろう。

自分が「ガン」だとか「心臓病」だとかなら分かる。

だが。「致死性の高い」という事は。


「まぁ君の両親の死因から仮説として立てた話だから。

あまり詳しく性質やどんな病気かは分からないけれどね」


そういう事だ。

つまり意味する事は。

弥生は自分の両親を殺した。という事だ。

弥生が病気をばら撒いて。結果的に両親を死なせてしまった。

自らが。自らの愛する物。大切な物を全てぶち壊した。

そういう事だ。


(・・・・・・・・私が?・・・・・)


置物のように固まったままの弥生を放っておきながら。

外蔵は続けていく。


「恐らくは単なるウィルスが何らかの理由でもあって。

突然変異を起こしたって所だろうね」


嬉しそうに喋る外蔵に対して。弥生は。

自分の手の平を見詰める。

表面は少し白っぽく。日差しをよく浴びていないのが分かる。

その手の平に流れている血液。

ドクドク。と鼓動をするように流れていた。

弥生は。機械のようにそれを眺めながら考える。


(・・・・・この手で。お父さんとお母さんを?)


大好きだった。

いつも近くで見ててくれる。優しいお父さん。

厳しかったけれど。最終的には甘かったお母さん。

生まれた時から見守っててくれた。温かい。両親。


それを。殺した。

弥生は。両親を。この手で殺した。

つまりは。そういうことだった。

小刻みに揺れ始める手の平を見ながら。弥生は。

また現実を見てしまった。


「う。・・・・・ああ・・・・・・ああああ」


何ともいえない声だけが。口から漏れていく。

(うずくま)りたくなる衝動に刈られ。頭を抱える弥生。

そこに。外蔵は続けて言った。


「だからこそ。助けてみたいとは思わないかい?」


優しい。それこそ砂糖のように甘い声。

悟りかけるように。(なだ)めるかのような口調。

弥生は。ゆっくりと顔を上げた。

視界に入るのは。変わらない外蔵の表情。

だが少し。ほんの少しだが外蔵の表情は柔らかい。


「もしも弥生ちゃんが病体なのだとしたら。

当然抗体とかも出来ているから、そこから抽出なり仕組みが分かれば。

新しい薬が出来る。それは人助けだろう?」


人助け。その言葉だけが耳にこびり付く。

それは弥生にとっては。一種の救いのようにすら思えた。


(・・・・・人助け・・・・)


両親を殺した。それだけで許されるような物ではない。

だが。もしもだが。

この外蔵の言う通りに。人助けが出来るとすれば。


(・・・・・お母さん達も。少しは許してくれるでしょうか)


当然。殺したという事実は変わらない。けれど。


(・・・・・人を助ける・・・なら)


弥生に甘えが。出た。

(すが)るように。弥生は答える。


「・・・・・どうやったら。出来るんですか・・・?」


体を外蔵の方へ身を乗り出しながら、瞳を覗き込んだ。

少し外蔵は驚いた後。笑顔で答える。


「私の病院で詳しく調べさせてくれないか?」


その言葉の裏には。「研究するから」というのが含まれているのも。

弥生は分かった。

分かっていたのだが。

弥生は。「許して欲しかった」

だから無視した。


「はい」


迷う暇もなく。答える弥生。

その返答に。外蔵は嬉しそうにした後。付け加えるように言う。


「この事はお兄さんには言ってないけれど。もしもバレたら。

きっと大変な事になるだろうから。内緒にしておこうか」


ビクッ。と弥生の体が大きく揺れた。

弥生の兄である吾平は。両親の死因が。弥生である事を知らない。

外蔵の言うように。もしも。それが弥生である事が分かったら。


(・・・・・・・・きっと)


憎しむ。

弥生を絶対に許しはしないだろう。

例えそれがあれだけ優しくて頼りになる吾平であろうとだ。


(・・・・この事は。お兄ちゃんには言わないようにしないと)


無言のうちに。心でそう決めて。

弥生は答えた。


「お兄ちゃんには。秘密にしてて下さい」




それが。後に。あんな結果になるとは。

弥生は考えていなかった。

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