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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
43/66

code:9「家族」

「弥生。また残したのね・・・・」


一人の女性が少女に向かって、右頬を膨らましつつ。

両腕を腰元に置きながら怒っていた。

弥生と呼ばれた少女は、純白の聖職服を着ているは着ているものの。

まだ体系的にも容姿的にも聖職者には程遠い。

弥生はしょぼん。と(うつむ)きながら寂しそうな顔をしている。


「美代子さん。弥生はまだ子供なのですから。

そうあまり怒らず・・・・」


美代子さん。と呼ばれた女性はシスター。と思えるような。

相応の雰囲気と。弥生とは反対である黒色の聖職服を着ていた。

弥生の髪を少し薄めたような。小麦色の短い髪が爽やかにまとまっている。

更に。肌のきめ細かやかさから。若いという印象を受けるだろう。

実際に美代子は22になったばかりだった。

そんな二人の間を、男性があせあせとしながら割り込もうとしている。


「いくら大広さんのお願いでも、主の恵みを残してしまうのは許せません」


キッ。と蛇が(ねずみ)を睨み付けるような眼光で美代子は男性を見た。

大広と呼ばれた男性は、神父らしき赤を下地に黄色の装飾がされており。

中世ヨーロッパを思い浮かべそうな服装だった。

頬近くには、軽く刻まれた(しわ)があり。

同時に見守るような温かい瞳からは。その人物がどのような人柄なのかも分かる。

黒色の髪には、艶やかさというよりも。素朴(そぼく)さが伺えた。

大広は美代子の眼光に両手を挙げながら。苦笑いをしている。


「ですが・・・・。寛大(かんだい)な主はそれを許してくださるでしょう。

それに、しっかりとした洗礼も礼拝も行っているのですし・・・」


明らかに勢いが足りない大広に対して。

美代子が、溜息を付きながら。疲れた表情で弥生を見直した。


「・・・・・私だって可愛い娘を怒りたい訳じゃないです。

ただ、好き嫌いで残すのはどうかと思うからですよ・・・・・」


その言葉に弥生がまたしょんぼりとする。

そんな雰囲気の中に割り込んできたのは。


「母さん。後は任せて」

「・・・・・吾平(あいら)


吾平と呼ばれたのは。黒髪で特に目立つ事のない髪型の青年。

しかし髪と同様に黒い瞳は。大広と同じような温かさが感じられ。

雰囲気すら。どこか緩和的に思える。

着ているのは白いYシャツで。下は黒のズボン。

一般的な高校生が着ている服装だった。

その青年が、美代子と弥生の中間に入り込んでいる。


「・・・・・また、私だけ孤立するのね」


呆れるように言う美代子。

そうなのだ。

いつも色々と駄目な弥生に対して。

弥生を守るように手助けするのが吾平(あいら)と大広なのだから。

当然叱る側の美代子は孤立しまいがちなのである。


「・・・・もう。いいですよ。二人共甘いんですから」


そっぽを向きながら、歩き出した美代子はこう続ける。


「・・・・最近大広さんも冷たいですし。

私ってそこまでぞんざいなんだなぁ・・・・」


ぼそぼそ。と言ったそれに。大広は飛び上がるように駆け出して。

美代子の後を付けつつ。彼女の周りをぐるぐる回りながら。


「み、美代子さん。そ、そんな事はないですよ・・・。

じゅぅうううぶんに貴方の事も弥生も愛していますから!」


必死に弁明を続けている大広に対して。

美代子は両目を閉じて。頬をぷい!としながら無視し続けている。

そして時折片目を半分くらい開けて。


「・・・・・どうせ、私の事なんてその程度なんですよぅー」


()ねた発言をしてまた頬をぷい!とする。


「いやいやいや。美代子さん!話を・・・・。

話を聞いてください。え。み・・・美代子さん!?美代子さぁあああああああん!」


バタン!と扉を閉められ。拒絶された大広は。

ドアの前で一定時間立ち尽くした後。

精気の抜けた顔をしながら、地面にへ垂れ込んだ。


「父さん達。・・・・・いつも通りだね」


吾平は、若者特有のありあまるエネルギーを笑顔に変えて。

弥生に満面の笑顔を向けながら言う。


「・・・・うん。お兄ちゃん。いつもごめん・・・・」


若干顔を俯きながら、申し訳なさそうに喋る弥生。

それに対して吾平は特に邪険にする事も無く。


「いや、気にする事じゃないよ。人には出来る出来ない事もあるはずだし。

それをとやかく言っても仕方がないからね・・・」


また笑顔を見せる吾平。

弥生は。少し罪悪感がありつつも。つられて笑みを(こぼ)す。


「そうそう。笑っている方がずっと楽しいよ」


すると、吾平が手を伸ばしてきて弥生の頭部へと乗せた。

そしてそのまま軽く。髪を()くように撫でる。


「・・・・・うん」


撫でられながら。弥生は明暗のある声を出していたが。


「・・・・でも。宗教の事はまだ。分からないよ・・・・」


ふと()らす。

少し吾平は笑みを崩した後に。無表情のまま答えた。


「・・・・うん。まだ。弥生には早過ぎるだろうしね。

まだ。知らなくて。いいよ」


まだ。と二回打ちつつ言った吾平。

弥生は特に反応せず。頭を撫でられる感覚に身を任せている。

そう。この頃はまだ日常が弥生にもあった。

弥生が住んでいたのは、日本のいわゆる過疎地で。

周りが森だったり。農村だったりとそこまで騒がしくない。

村に住んでいる常連の人が来るぐらいで。殆ど人さえ見かけない。


先程から言っている教会とは。煉瓦(レンガ)造りの教会。

少し煉瓦が赤みを含んでいて。それが余計に教会らしく際立て。

屋根は相対的な蒼色だった。

周りが緑色だったりするので、かなり目立っている。

正面にある扉から中に入れば、正面にステンドグラスがある広い空間。

パイプオルガンだとかそんな豪華なものはなく。

ただ長椅子と、聖書などを置く為にある木造の物しかない。


その教会の隣にあるのは。小さな一軒家

壁は白色で、屋根は教会と同じ赤色の煉瓦だった。

中は特に目立つ事ない。普通の生活用品に塗れた部屋。

就寝する為の部屋に、日本古来からある薪を使った風呂。

必要以上に求めず。最低限度の生活。


決して豊かな生活ではない。

だが。人が忘れている。そんな物が溢れていた。

それは決して見えない。大切な物。


弥生はそこで、家族四人で暮らしている。

優しい神父であり、父親である大広。

厳しいけれど。どこか温かみのある母親の美代子。

父の血を濃く引いた。頼りになる兄の吾平。

そして。弥生。


煉瓦の整備をしたり、無言でお祈りをしたり。

燃料の薪を伐りにいったり。たまに村の方へと遊びにいったり。

村人の人から食べ物を貰ったり。小さな雑談をしたり。

隣人を愛せ。その教えを実際にやっているかのような。

らしくない事さえ弥生は思った事もあったり。

楽しく笑ったり悲しくて泣いたり悪い事をして怒られたり。

下らない事で喜んだりしたりした。

日常が。あんな風に。簡単に壊れるとは。





弥生は。思っていなかった。

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