code:7「人々」
「ふふふ佐伯ちゃん。これでフィニッシュです・・・・」
パス。と茶色のテーブルにて青色のトランプが四枚投げられた。
その四枚のカードが指し示す意味は。
いわゆる大富豪の「革命」だった。
パス以外に選択肢のない佐伯は唖然として。
その間に凄まじい高威力のカードを繰り出して上がる隊長。
「ええぇええっ!?大人気ないよ隊長!」
すぐさま、どうあがいても勝ち目のない虐めラッシュに批判を飛ばす佐伯。
あまりにも興奮しすぎて座っていた椅子を後方に蹴飛ばしながら。
立ち上がりながら佐伯は怒っていた。
「大人じゃないですから・・・・」
それに対して冷淡的に。しかも地味に笑いながら受け答えをする隊長。
「だとしても!なんで最後の二人になった時に。
こんな強いカード連発して私を異常に虐めようとするの!?
ハメ技だよ!絶対意図的にやってるよね!?」
そうなのだ。
隊長は大富豪を始めた最初のときから貧民をキープしており。
弥生が上がろうとすればその旅に阻止を繰り返して。
最後には革命からの確殺コンボを決めているのだ。
「佐伯ちゃん。私は貧民なのですから。ハメ技が出来る訳がないでしょう?」
出来る訳がない。といいながら確殺コンボを決めまくる隊長に対して。
「4ゲーム連続最後に革命を連発してて何言ってるの!?」
正当な怒りを示す佐伯。
そんなやりとりを見ながら揖宿は。
(・・・・何故私が参加させられているのかしら・・・・)
物凄く悩んでいた。
先程までは隊長のお説教があり、その間に煤野木と会話をしていたのだが。
唐突の弥生のクシャミ。
すぐさま説教は終了して、弥生と未来は浴場へと向かった。
ここまでは確かにまだ揖宿には理解出来る。
揖宿が理解できないのはここからだ。
隊長が急に「気分転換にトランプをしましょう」と言いだした。
揖宿はすぐさま立ち去ろうとしたのだが。
「人がいなければ大富豪が出来ません!」という隊長の笑みによって。
同じく立ち去ろうとしていた煤野木や揖宿は捕まってしまった。
そうして今に至っている。
「はぁ・・・・・何故私が・・・・」
揖宿は溜息を尽きながら、机の上に乱雑下あるトランプの塊を掴み取り。
綺麗にカードが分散するようにシャッフルし始める。
ある程度混ぜ合わせた後に、揖宿が一人一人カードを配ろうとしたら。
「あ、ちょっと待って下さい。揖宿さん」
隊長が静止してきた。
「・・・・イカサマの準備?」
そしてすぐさま、佐伯が隊長への疑惑の眼を向ける。
隊長は苦笑いしながら。
「いえ。曽根崎さんも参加させようと思って」
部屋の隅にいる。虚空を見詰めている青年に眼を向けた。
曽根崎。それが彼女の呼び名。純色である青色の髪の青年は。
西洋のドレスのような服を着ており、初めての人は間違いなく。
人形の印象を受けるだろう。
実際彼女は人形で。そう思うのは当たり前なのだから。
髪と同じように真っ青な瞳は、どう見ても人格があるようには見えない。
そんな曽根崎は隊長の言葉に反応してるのかしてないのか。
分かりづらい事に、ぴくりとも動かない。
「曽根崎さーん。トランプで遊びましょうー?」
隊長が右手を口元へと持ってきて、投げかける様に喋る。
すると、曽根崎の一切の感情が籠もっていなかった瞳が。
急に命を得たかのように水平に動き出して。こちらを見据えた。
そしてそのまま。
「はい」
整然と。あまりにも綺麗な返事をした。
曽根崎は立ち上がり、こちらのテーブルへと近づいてくる。
その動きも、どこかの貴族を思わせるような。
優雅さというか気品さが漂っている。
「はい。どうぞ」
隊長がにこにこしながら、もう一つ椅子を用意した。
「ありがとうございます」
曽根崎は嬉しそうに笑みを零した後に、椅子へと座る。
先程まで、人形だったような顔は今はしっかりと人らしい顔になっていた。
ふと、そんな枠組みを見ながら煤野木は辛そうな顔する。
揖宿は辛そうな煤野木の顔を見て思った。
(・・・・・彼は、何を知っている?)
揖宿が初対面で会った時にも垣間見せたあの表情。
初対面の人物には、普通緊張感だとか。
重圧感だとか。そう。何となくぎこちない感じが絶対にあるのだ。
だが、煤野木から感じ取ったのは。
(・・・・まるで、本当に。親しい人物かのように・・・)
そう仮定してカマを掛けてみれば。あまりにも不自然な態度を取った。
つまり。何かを知っているという事を暗示している。
(・・・・しかし、私は彼を知った記憶などない・・・・)
揖宿は自分の脳内にある記憶を巡らせて見るが、やはり覚えがない。
(・・・・情報が少なすぎる)
まだ情報や状況、あるいは性格をきちんと把握してるならまだしも。
今さっき会ったばかりの謎の人物に対して考えるのは無駄。
揖宿は、最終的にそう判断した。
「・・・配ります」
揖宿は声に少し感情を浮きぼらせつつ、カードを配り始める。
煤野木。佐伯。静香。揖宿。曽根崎。
合計で七人分のカードを配り終えた揖宿は再び椅子へと座った。
「では。始めましょうか」
にたりと笑う隊長に、意気込みを決める佐伯。
煤野木はそんな二人を見ながら、軽く笑みを浮かべ。
それらを余所に、曽根崎は一人淡々カードを高速で並び替えて。
揖宿もまた同じようにカードを並び替えていた。
(・・・・ジョーカー)
ふと、手札にあるカード。ジョーカーを見ていた揖宿は。
(・・・・・・次は弥生さんですね・・・)
弥生。
次のカミカゼの搭乗者。今現在浴場で茹蛸になりながら。
引っ張られている最中である。
因みにこのゲームがどうなったのかというと、弥生が戻ってくる時に。
丁度決着が着いた。
大富豪はあまりにも的確に決めてくる曽根崎。
富豪は冷静沈着に事を進めた揖宿。
平民は特に変わる事のない煤野木。
貧民は相変わらず隊長で。
大貧民は、結局確殺コンボを喰らう羽目となった佐伯だった。