表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
40/66

code:6「幸福」

かぽん。と風味のある音がそこに木霊(こだま)した。

弥生は浴場でお湯に浸かっている。


浴場と一言に言っても。ここの基地の浴場は少し異常だった。

異常という異常は、確かに細かい異常なのだが。

軽く広すぎる。

絶対に地下基地ではありえない広さの浴場がそこにある。

何故広い浴場が異常なのかと言われれば確かに。広さ自体なら珍しくは無い。


だが。ここは軍基地で地下基地なのだ。

戦闘によって陥没(かんぼつ)してしまうという事を考慮(こうりょ)するならば。

絶対にこんな広さの浴場など作らない。

第一浴場ではなく。佐伯などがよく使うバスルームや。

シャワーのみのシャワールーム等が一般的だからである。


かぽん。とまた風味のある音が木霊した。

石が水によって磨かれており、光沢が()えるその場所には。

左右の壁にに体を洗うシャワーと、(おけ)や風呂椅子などがあり。

真ん中から後ろの方へとお湯が入った大きな風呂が伸びていた。


そんな中、弥生は何故かお風呂の真ん中で正座をしている。

ただし弥生の体はまだ佐伯と同じように発展途上中(まだまだ)なので。

お湯は首元まで届いていて、体は完全に沈んでいた。

お湯に浸かる茶色の髪は(つや)やかさと同時に軽さを手に入れ。

浮力を持って髪は個別に浮かんでいる。

弥生のあまりにも白すぎる肌はほんのりとぴんく色に染まり。

温水は聖母のように、彼女の無垢な体を優しく包んでいた。

すると、近くから水に触れるような音がしたと同時に。


「・・・・・・・あのですね、沐浴みたいな入り方するのどうかと思いますよ・・・。

いくら常識を知らないという理由でもそれはさすがに・・・・」


喉が明らかに枯れたような声が近くから聞こえる。

弥生が声がした方向へ振り向いてみれば

すごい表情の未来が、体にタオルを巻き付けて入っていた。

かなり疲れきっているらしく。いつもの捻くれ発言も半減している。

先程まで弥生達は隊長のお説教を受けていたのだが。

「くちゅん」という弥生の軽いクシャミによって急遽終わった。


「いやでも助かった部分もありますね・・・・。

あのままだったらもっとかかっていたかもしれないですし・・・・。

貴方が虚弱で良かったと思ったのは初めてですよ・・・」


弥生の体はとてつもなく弱いので、たかがクシャミ程度であっても。

致命的な病気となってしまう可能性があるのだ。

その為に雨に濡れた事によって冷たくなった弥生の体を温める為に。

こうして未来が付き添いながら、お風呂に入りにきているのである。

決して未来がストーカーだとかという訳ではない。


(・・・・・人一倍優しいですもんね)


くすくすと軽い笑みを浮かべながら、結局弥生は正座を続ける。

そして大量にある水の塊を見ていると、ある光景を弥生は思い出した。


(・・・・煤野木さんと会った時もこんな水溜りがありました・・・・)


濡れた半袖のシャツに、水を吸ってふやけた髪。

整った顔立ちに引き締まった男性特有の体つき。

そして見えた。彼の雰囲気と心。


(とてつもない憎悪と空虚感しかない・・・・。

まるで当て付けようにも当て付けれない。どうしようもない憎しみ。

無駄だと分かっていく虚しさ。のような・・・・。

何が彼をそこまでの状態に至らしめているのでしょう・・・・・?)


と同時に。


(そんな中で、瞳から垣間見えたあの安堵感は一体・・・?)


あまりにも真逆すぎて。しかも安定していない煤野木の感情。

弥生は少し考えたが。直に答えが出せる訳でもなく。

結局考えるのを止めるのだが。ふと連鎖的に思い出した。


「未来さん・・・・煤野木さんと知り合いなのですか・・・・?」


唐突の質問に、目を見開いた未来は。少し経って。


「・・・・・・・えぇ。そうですよ」


凄く、何故か。答えづらそうに。ではなく。

嬉しそうに答えた。ように弥生には見えた。

未来はそのままどこか遠くを見るような目をした後に。


「彼は、私にとっては。とてもとても大切な人でした」


何か。特別な思いを込める様に。

一字一句。感情をありったけ込めているように弥生は感じる。


「・・・・・・大切な人?」

「えぇ。・・・・本当に。・・・・まぁ。彼は知らないですけどね」


苦笑いをする未来に対して。弥生は。


(・・・・・知り合って間もない人なのに。大切な人・・・・?

昔に会った事があるのでしょうか?)


未来と弥生は殆ど一緒にいるが。未来の話をあまり聞いた事がない。

というより未来自身が語りたくない。というのがある気がするからだ。

なので、弥生が進んで聞かないようにしている。

何時の日か。未来が話してくれるまで。


「・・・・・ふふ。まぁ。こうしてめぐり合えたのも。

何か神様のような縁があったのかもしれませんね」

「・・・・・主はいつも見ていらっしゃるのですから」


整然と答える弥生に対して。


「神は神でもカミの方に会ってしまいましたけど」


皮肉混ざりに笑って答える未来。

どこかその顔はほんのりと赤みを増している。

その事に本人も気づいたのか。


「・・・・そろそろ。上がりましょうか。入りすぎたら

茹蛸(ゆでだこ)みたいに膨れて赤くなって佐伯さんに笑われますよ」


くすくすと笑いながら。立ち上がり弥生へと手を差し伸べる。


「なぁっ!?」


すぐさま顔を真っ赤にしながら膨れる弥生。

そしてそのまま差し出された手を掴み。立ち上がった。


「もう茹蛸ですね」


にやにやと下卑(げび)た笑みを浮かべる未来に対して。

更に頬を膨らます弥生。

出口へと未来は歩いていき、弥生も引っ張られる。

未来の背中を見ながら。弥生は誰にも聞こえない小ささで。


「・・・・・幸せです」




呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ