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旧カミカゼ。  作者: 笹倉亜里沙
-ヨン-
39/66

code:5「理解」

煤野木は弥生達が隊長に説教されている姿を真剣に見ていた。

怒り心頭の隊長に、先程とは打って変わった態度の未来。

いつもは軽い調子の佐伯は開いた口が塞いでおらず。

隣にいる弥生という子も、驚愕の表情を表していた。

それを。見ながら。煤野木は。


(・・・・・・・これが。これが。これがこれが。

彼女達の当たり前であるべきはずだった物だった・・・・)


彼女達の日常(あたりまえ)

決して誰かに奪われる物ではなく。

日常(いつもどおり)を幸せだと感じる暇もない楽しい日々。

いつの間にか時間が経っていていつのまにか終わっている普通。

彼女達が本来享受(きょうじゅ)すべき物。

だが。


(・・・・・ふざけるな!)


どす黒い憎悪を剥き出しにしながら煤野木は思う。


(何故、奪われた・・・・なんで。奪われる必要がどこにあった!)


犬歯を剥き出しにしながら。拳を強く握り締める。




ある少女は。たまたま偶然出来た存在だった。

愛という愛を知らないまま。両親に育てられる。

そこまでは確かにどこかにあった。まだ普通だったのだろう。

だが。その普通さえも全て等しく奪われた。

ただそこにいた。ただ偶然にもその少女だったから。という必然で。

少女は男達の(なぐさ)め物となった。

何度少女の細くて力無い心は折れたのだろうか。

何度少女には悪魔の烙印を押さ(きざみこま)れたのだろうか。

そんな少女に。不幸中の幸いというべきか。二つの希望が出来る。

一つは生活の周りの仕事をするある高校生の青年。

折れた少女の心を必死に支えては、希望(やすらぎ)を与え続けた。

もう一つは。少女自身の子供。

自分の両親の愛を与えてやれなかったからと。

その分少女は子供を愛してやるのだと。そう願っていた。

だが。

そんな二つの希望さえ全て打ち砕かれる。

挙句の果てには。カミカゼの搭乗者とならされていた。

人生をエネルギーとするカミカゼは。少女の人生を否定する。

何もかもが無かった事にされ。自分の存在意義さえも。

だが少女は最後まで自分の子の為に死んでいった。

その少女は今こうして煤野木の目の前で口を開いて恐怖に震えている。

ありふれた日常を。ありありと幸せに受け止めていた。

普通がそこにある。





ある青年は。幼少期から大佐という存在に縛られていた。

軍のトップを務める大佐。そして同時に自分の親である大佐。

二つの相反する大佐の中で育てられた青年は。

最初から最後まで軍人としての。大佐を選んだ。

文武両道。知識という知識やありとあらゆる戦術まで。

全てを享受した。

大佐に全てを奪われてしまった隊長。

ふとした偶然にてカミカゼの隊長を任されて。

そこで知った。同じような境遇の青年少女達(じぶん)

任務を了承して基地へと住み始めた隊長に待ち受けていたのは。

生物を含めた。人類が一人残らず滅亡する日。

国を守る為に国軍を使って戦いを挑んだ隊長の大佐は。

そこで死んだ。

娘である隊長に。モニター越しで縛り付ける鎖を残して。

隊長はその日は本当に大佐としての隊長となってしまった。

任務の為だと。冷酷にやる為に。殺したくも無い味方を殺す。

鬼のような所業さえ。隊長は大佐の為に。やった。

その後は、隊長は隊長のまま佐伯達を支えて。

最後には煤野木に全てを託してこの世界から消えた。

『カミカゼっぽいですね』

自嘲(じちょう)を含めたその言葉にどれほどの苦悩を込めていたのだろうか。

煤野木は痛いほど分かった。

その青年は。今こうして喜怒哀楽を仕舞う事なく晒しだしている。

本当ならあるべきだった平常(しあわせ)を愉しんでいた。





「貴方は彼女達が不幸だと思っているのね?」


ふと煤野木の隣から急に声がしたと思えば。

横に並ぶように揖宿が立っていた。


「・・・・あぁ。そうだ。不幸以外に何がある」


煤野木がその言葉に噛み締めた意味を。苦しさを。

分かった上で。揖宿は特に表情を変えずに呟く。


「・・・・・・そう」


直後。煤野木に軽く電撃が走った。

その言葉や状況。仕草や口調までがあの時と酷似していたからだ。

ザザザ。ザザ。とノイズが入るような映像が浮かび上がる。


『ザザザザ私は二度。ザザザ同じ事を言わないザザザザザ』


(同じだ。あの時の揖宿と・・・・!)


咄嗟に。煤野木は揖宿の腕を掴んでしまっていた。

驚いた表情の揖宿と。同じく別の意味で驚く煤野木。

だが、煤野木は行動自体にはさほど驚かなかったので喋る。


「・・・・・・俺に何が言いたい。そして揖宿。お前は何を見ている!」


追記しておくと。揖宿にとってはつい先程初めて会ったばかりなのであるが。

揖宿は煤野木の瞳の奥底を、本当に覗くかのように。

見据えた後に呟いた。


「貴方は。・・・・まるで前から私を知っているような言い方をしますね」


確信。ではなくあくまで推理に近いような揖宿の考察に。

煤野木はどきりとした。


(・・・・まさか。知っているのか・・・・?)


そう煤野木は一瞬考えたが。直ぐに否定する。


(・・・・いや。それはない。・・・・なら。態度に出るだろう)


希望的観測をしたくなる煤野木がいたが。

そんな優しい希望があるほど、この世界は甘くないと思い出す。

煤野木は力強く掴んでいた腕をゆっくりと緩めて放した。

ぶらぶら。と空中で掴まれた方の腕を軽く振る揖宿。

彼女の瞳には相変わらず変化はない。

だが。先程とは違ったのは。

閉じていた唇が開かれて、諦めたような口調で喋った事だ。


「・・・・・貴方が何者かは知らないですが。一つだけ言いましょう」


乾いた。実像のないような眼で煤野木を見る揖宿。

そして言った。




「貴方は。生きる意味を見つけてないのでしょう?」

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